第51話 ラナ子とスミ子

 ー 総裁邸の裏山にある墓地 ー

 翌日の真夜中,総裁の妻の墓のところに,母親のスミ子と娘のラナ子がいた.


 ラナ子「お母さん,では総裁の奥様をお呼びします.準備はいいですね?」

 スミ子「いつでもいいわよ.この体を貸すのは,かなり気持ち悪いけど,でも,せいぜい10分間の我慢でいいから」

 ラナ子「では,奥様をお呼びしします」


 ラナ子は,総裁の妻の墓に,線香をふんだんに焚いて,さらに,100本ものろうそくを焚いて,墓に向かって五体投地を行った。


 この技,つまり死霊を呼んで他人の体に憑依してもらう術,これこそ,ラナ子が修得した『死霊術』だ。あとは,死霊との交渉事になる。


 ラナ子「奥様,奥様,そこにいっらしゃいますか? もし,おいででしたら,わたしの母の体に憑依していただけないでしょうか?奥様とご相談したい件がございます。どうぞ,よろしくお願い申し上げます」

 

 すると,母親のスミ子の体が震えだした.そして,声色が変わった声を発した。


 総裁の亡き妻「わたしを呼ぶのはラナ子ね?」

 ラナ子「はい,わたしです。実は,総裁の暗殺に失敗しました。そこで,奥様に協力していただけないかと思いまして」

 総裁の亡き妻「あなたが彼を殺すのは止めませんが,彼の殺害の手助けをすることはありません」

 ラナ子「わたし,奥様のために,総裁の愛人たちに毒入りのお茶を飲ませました.奥様のために,総裁に近づく女性には,下剤入りのお茶を差し出しました.奥様のために,,,」


 ラナ子は,何度も奥様のためにしたことを列挙していった。わかったわ。ラナ子がわたしのために頑張っているのは知っています。ですから,わたしも,あなたの母親の復讐をしてあげました。母親をレイプした男ども3名を殺せるだけのパワーを授けてもらいました。その依頼をするのって,大変だったのですよ」

 ラナ子「??」


 ラナ子は総裁の亡き妻の言っている意味がよくわからなかった.


 ラナ子「すいません,その辺の事情を詳しく教えていただけますか?」


 ラナ子にとっては,転生できない死霊がどんな生活を送っているのか知るいい機会だ。死霊術のレベルアップに役立つはずだ。もっとも決していい生活など送っていないのは間違いないのだが。


 総裁の亡き妻「そうね,,,思い出したくない話だけど,でも,話が長くなりそうだわ。もっとロウソクの火を焚いてちょうだい。憑依する時間が長くできるわ」


 ラナ子はさらに100本のロウソクを用意して火を点けた。ロウソクの炎パワーは,僅かだけど霊魂のパワーを補える。


 亡き妻は,辛い話をしだした。


 総裁の亡き妻「母親の復讐の件だけど,わたしにレイプ犯を呪い殺すほどのパワーはないわ。ましてや3人もなんて絶対に無理な話よ。そこで,周囲の死霊たちに聞いてみたの。そしたら,最近,隆盛を極めている悪霊グループがいるって聞いたの。そのグループに依頼すれば,呪い殺すことも容易らしいの。

 そこで,意を決して,その悪霊グループにお願いしに行ったのよ。そしたら,何て言われたと思う?」

 ラナ子「そしたら?」

 総裁の亡き妻「そしたら,見返りを求められたの。わたし,返事したわ。『今のわたしは死霊になってしまって,あなたがたに与えるべきお金も,ましてや肉体もありません』ってね。すると,悪霊グループの地域リーダーはこう言ったわ。『死霊になったあなた自身をわれわれに捧げればいいだけです。われわれは,あなたの霊魂を犯す術を心得ています』だって。これにはビックリしたわ。いったいどうやったら,この死霊の状態で犯せるというの? わたし,興味半分で『はい,では,この死霊の身ですが,よろしくお願いします』って言ってしまったの。契約が成立してしまったわ。

 その結果,悪霊グループは,わたしに復讐できるくらいのパワーを与えてくれたわ。その方法って,,,実は,彼らに犯されることで得られるパワーだったの」

 

 これには,ラナ子も驚いた。


 総裁の亡き妻「悪霊グループは,自分たちの周囲に結界みたいなもので覆っていたの。それが何なのかわからない。でも,彼らはわたしにその結界の中に入るように言ったの。わたしは,一部の解除された結界の隙間から中に入っていったわ。すると,そこは,まさに,悪霊,怨念,嫉妬,憎悪など,負のエネルギーの塊だった.わたしはその圧倒的なパワーで押しつぶされて,霊魂が10分の1にまで小さくなってしまった。もし,そのパワーの源に近いところにいたら,霊魂が完全に潰されて消滅していたかもしれないわ」


 総裁の亡き妻は,というよりも,憑依している母親の目から涙が出てきた。

 

 総裁の亡き妻「わたしの霊魂が押し潰されてしまったけど,逆に,肉体があったときの姿をより濃く顕すことができたみたい。すると,周囲にいた悪霊連中が一斉にわたしを犯しにかかったの。口,鼻の穴,耳の穴,乳首,おへそ,,,など,穴とつく箇所は悉くいやらしい逸物の餌食にされてしまった,,,もう,もう,全身が『悪霊の精子』によって汚染されまくってしまった.もう,完全に悪霊たちの玩具になってしまった。それが三日三晩続いたわ。もう何千ていう悪霊に犯されまくったわ。でも,その結果,わたし,『悪霊の精子』から圧倒的なパワーを得ることができるようになったの。専門的には『魂力』って言うらしいだけど,上級レベルの魂力が扱えるようになったらしいの。そのパワーを使えば,生きている人間の霊魂に攻撃を仕掛けて,肉体から霊魂を切り離しができて,霊魂を悪夢の闇に何年も閉じこめることができるって言われたわ」


 憑依されている母親の眼から涙が止めどもなく流れていた。ラナ子も,総裁の亡き妻のために,いろいろとしてあげたが,彼女が経験した『玩具』に比べればかわいいものだ。


 総裁の亡き妻「わたしが得たパワー,ほんとうかどうか,あなたの母親をレイプした3人組に試してみたわ。すると,案の定,悪霊グループの言う通りだった。肉体から切り離された彼らの霊魂は,恐怖に包まれて悪夢の深淵の中で溺れていったわ」

 ラナ子「レイプ犯の3人組が意識不明で植物人間になったって,母から聞いて知っているわ。それって,やっぱり奥様が約束を守ってしたことなんですね?ほんとうにありがとうございます。母に代わって,ここでお礼申し上げます」


 ラナ子は,憑依されている母親に向かって五体投地を行った。


 総裁の亡き妻「それは,当初の約束だから,別にお礼の言葉なんて,必要ないわ」

 ラナ子「では,奥様のパワーで,総裁を呪い殺すこともできるのですね?」

 総裁の亡き妻「前にも言ったように,夫を殺す手伝いはしたくないわ。でも,夫の暗殺くらい,あなたなら容易にできるでしょう?」

 ラナ子「はい,容易にできるはずでした。おへそリングに強力な催淫呪符を植え付けてもらいましたので,総裁を腹上死させるはずでした」

 総裁の亡き妻「そうなの?どうして失敗したの?」

 ラナ子「,,,なぜか,総裁はブレスレットをポケットに忍ばせていました。それは,精神の高揚を抑える威圧呪符が込められていました。まさか,ブレスレットにそんな呪符仕込むなんて思ってもみませんでした」

 総裁の亡き妻「でも,また,夫を誘惑すればいいだけじゃないの?」

 ラナ子「いいえ,もうおへそリングの効能は無くなってしまいました。腹上死をさせることはもうできません。それに,新しく催淫呪符を込めたリングを買うお金もありません。何百万円もしますので」

 総裁の亡き妻「・・・」


 総裁の亡き妻は,ちょっと考えてから言った。


 総裁の亡き妻「わたしが授かったパワーは,もう残り少ないわ。せいぜい,相手の霊魂をちょっとだけ肉体からずらして,精神攪乱状態に陥らせることくらいだわ」

 ラナ子「精神攪乱?!」

 

 ラナ子は,精神攪乱でもいいと思った。


 ラナ子「奥様,そのパワーでいいので,わたしに授けていただけますか? そのかわり,総裁が死ぬまでですが,これまでと同じく総裁に近づく女性には,強烈な薬を盛ってあげます」

 総裁の亡き妻「わかったわ。どうせ,悪いことにしか使えないパワーだからね。もう,わたしには必要のないものだわ」


 総裁の亡き妻は,ラナ子のしている指輪にそのパワーを注入していった。


 ラナ子「奥様,ありがとうざいます。わたし,もし,できるものなら,奥様を天国に行かせることができるような立派な『悪霊救済師』になってみたいと思います」

 総裁の亡き妻「フフフ。わたしって悪霊なのね? まあいいわ。そうね,,,楽しみに待っているわ」


 総裁の亡き妻「では,これでもう会うこともないかもしれないわね。元気でね」


 総裁の亡き妻はラナ子に別れの言葉を言って,憑依した母親の肉体から離れていった。


 憑依が解かれた母親は,バタンとその場で倒れた。あまりに体力を消耗したからだ。しばらくして,少し体力を回復して,母親のスミ子はやっと体を起こした。


 スミ子「わたし,憑依されている間は,記憶がないのよ。奥様はなんて言っていたの?」


 ラナ子は,総裁の亡き妻が言った内容を母親に説明した。


 スミ子「そうだったのね。奥様も霊魂になってからも苦労が絶えないのね。総裁を殺すのは,止めにしたほうがいいのかもしれないわね」


 その言葉にラナ子が反発した。


 ラナ子「お母さん!!そんな弱気を吐いてはダメです!! わたしはいったい何のために,呪詛を修得してきたのですか!奥様はたかだか三日三晩,玩具になっただけです。わたしは,,,あなたに引き取られてから,これまで,10年近く,除霊師と称する詐欺連中に犯されてきました!なんのために,わたしは,,,わたしは性奴隷にされてきたと思っているのですか!あなたの復讐のためでしょう?! 総裁を殺すためしょう?!」


 ラナ子は,辛い性奴隷の日々を思い出して,その場で泣き崩れた。


 ラナ子が,ここまで興奮して母親のスミ子に訴えたのは初めてのことだ。


 スミ子「ラナ子,ごめんなさい。あなたがそこまでして,頑張って来たなんて,初めて知ったわ。ごめんね。ごめんね」


 母親のスミ子はラナ子を抱いて,彼女の頭をなでながら,自分もその場で泣き崩れた。

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