第49話 『広範囲魔法陣探知羅針盤』
理事長代理のランは,ちょっとご機嫌だった。だって,労せずして林サミコから学園を退学するという連絡を電話で受けたからだ。
今の林サミコは,警察によって保護されている。すくなくとも,1週間程度は病院で検査という口実で,彼女を保護する予定だ。彼女を殺そうした犯人の素性が判明しない状況なので,病院側に無理を言って,少なくとも1週間の長期入院を強要した。別に,病院に警察が張り込むようなことはしない。もっとも,病院名が『警察病院』とあるのだけれど,名前とは関係なく,一般の患者が出入りする。
金城ミルカは,理事長室に呼び出されていた。
ラン「金城さん,あなたのおかげかどうかわからないけど,林サミコが退学するって言ってきたわ」
金城ミルカ「え?ほんとうですか?」
金城ミルカは,試験もしないで退学にできるなど,思っていもいみなかったからだ。
ランは,ニコニコとして言った。
ラン「どうやら,今回の彼女の退学は,あなたの功績とは違うようね」
金城ミルカ「・・・」
ラン「あなたに授業料免除を与えるという特典の件は無効になってしまいましたね。ともなく,金城さんは,次の試験では赤点を取らないように勉学の方でも頑張りなさい」
金城ミルカ「わかりました。頑張ります」
金城ミルカは,暗い顔して理事長室を後にした。最近,シレイが部屋に戻ってこないので,彼の粘液を体内に取り込む機会がない。そのためか,体調が今一すぐれなかった。バトミントンのクラブ活動にも身が入らない。ましてや勉学の面でも,ほとんど身につかない状況だ。このままでは,また赤点をとってしまいそうだ。そんなこともあり金城ミルカは暗いオーラを放っていた。
ランは,林サミコの件が片付いたので,次の案件に着手することにした。それは,数日前に総裁秘書から一通のメール連絡が来て,夏江を総裁の屋敷に訪問させるというものだ。ランはその依頼の意味を,なんとかく理解した。所詮,男なんて巨乳に弱いのだと!
でも,この依頼は簡単だ。夏江にその旨を伝えるだけでいい。ランは夏江を理事長室に呼んだ。
ラン「夏江先生,ちょっと,大事な要件があります」
夏江「はあ,何でしょうか?」
ラン「2件ほど,連絡しなくてはいけません。まず,一件目は,今日の夕方4時から体育館で,『お祓い』を行います。夏江先生は合宿に行っていたので,連絡が遅れてしまいました」
夏江「生徒も全員参加ですか?」
ラン「いいえ,これは一種の宗教行事のようなものですから,生徒の参加は自由に任せています。塾とかクラブがありますから,ほとんどの生徒は参加しないと思います」
夏江「そうですか,,,わたし,別に用事もないですし,参加させていただきます」
ラン「それはよかったです。それで,もう一件ですが,そのお祓いの儀式が終わった後でいいのですが,総裁秘書の車に乗っていただきて,総裁の屋敷を訪問してほしいのです。つまり,華丸総裁と会ってほしいのです。よろしいですね?」
夏江「え?華丸総裁と会う? なんで?」
ラン「そんなこと決まっているでしょう?」
夏江「まさか,わたしの体目当て?」
夏江は,自分の超爆乳のおっぱい抱いた。ランはさげすんだ目つきで夏江を見た。
ラン「ふん,そんなの知らないわ」
ランは,吐き捨てるように言った。今はホストクラブのナミオに首ったけだが,総裁にも恋心を抱いている。その総裁が夏江を呼んだことに嫉妬心が沸いた。今のランにできることは,ちょっとした意地悪だ。エッチしても,その快感を感じなくさせるくらいならできる。
ランは,ブレスレットをハンカチに包んで夏江に渡した。
ラン「総裁に会った際,このブレスレットを渡してください。高価なものではありませんが,ちょっとしたプレゼントに使ってくださいって伝言してください」
夏江「別にいいですけど,,,」
夏江はさほど気にすることもなくそれを受けとった。夏江は,それが,虚道宗で扱う7品の威圧呪詛が施されていることなど知る由もない。威圧呪詛は,感情の高ぶりを抑える作用がある。つまり,性欲快や快感を抑える作用があるものだ。
ー 1年D組 放課後のホームルームの時間 ー
夏江は,クラス全員に,夏江自作のお守りを配布した。そのお守りの効能は,『小凶』だ。小凶なら,あまり大きな不幸にもならないし,多人数で実験するので,より明確に『小凶』の効能がよりはっきりする。
夏江は,自分の生徒を自分の実験のモルモット代わりにした。どうせ,もうすぐこの高校を辞めることになる。それなら,今のうちにしたいことをする!
夏江「今から,体育館で『お祓いの儀式』があります。すぐに終わると思うので,全員参加でお願いします」
夏江が,そのように言った理由は,多留真からの一通のライン連絡だ。『お祓いの儀式』で,できるだけ多くの生徒を参加させてほしい。うまく協力してくれれば,警視庁との顧問契約の報酬金をアップする』
夏江は,別に守銭奴ではないものの,自分の担当するクラスくらいは全員参加させるべく,協力することにした。
急なことで,生徒も「めんどい!」,とか,「じゃまくさーー!」とかブーブー文句を言ったものの,次の夏江の言葉で全員が喜んで参加することにした。
夏江「では,真面目に参加した男子生徒には,わたしを5分間だけ,自由にする権利を与えます。女子生徒には,わたしができる範囲で,なんでも望みのことを叶えてあげます。好きな男子生徒とデートしたいとか,宝くじで高額のあたり券を購入したいとかです」
この言葉に,クラス全員が「ワオォーー!!」,「ヤッター-!!」などなど,歓喜の声が上がった。クラス全員は,喜んで夏江先生から配布されたお守りを首にかけて,そそくさと体育館に移動した。
夏江自身は,『小吉』のお守りにして首にかけた。大吉や中吉にしなかったのは,楽しみは後で取っておくものだからだ。
ー 体育館,お祓いの儀式 ー
体育館では,教職員のほかに,臨時理事長のランは当然ながら,総裁秘書も参加した。参加した生徒は,1年D組の生徒だけだった。
お祓いの儀式には,高野山の高僧1名,その弟子2名が参加した。そのほかに,付き人として,多留真,α隊の2号と3号の3名が参加した。
そのほかに,特殊攻撃を担当する特殊部隊300名ほどが,学校の周囲を囲むようにして,配備されていた。その中には,α隊の4号,5号,6号の名もいた。α隊隊員と多留真の両手には,魔法を発動させることが可能なハンドガードが装着されていた。
高野山の高僧とその弟子は,テキパキと簡易祭壇を設けて,護摩を炊いて,儀式の準備を整えた。
「えい!やーー!」
「おおーー!!」
高僧のわけのわからない掛け声が体育館全体に響いた。果たして,こんなへんな儀式で,ほんとうに悪運を払うことができるのか,誰しも疑問だと思った。
夏江はオーラを見ることができる。確かに,高僧のオーラは,神々しい色彩を放っていた。だが,それだけだ。周囲に,その神々しさが伝わっている感じがしない。夏江は,この高僧のレベルは,悪運払い師としては,失格の部類に入ると評価した。
そのお祓いの儀式は,30分ほど続いて,その儀式が終了した。それを見計らって,α隊の2号が,手持ちの『広範囲魔法陣探知羅針盤』に,高純度魔法結晶を装着させた。まだ,試作段階なので,スイッチという気の利いたものはまだ制作していない。その結晶を装着することで,即,『広範囲魔法陣探知羅針盤』が発動した。α隊の2号としても,ここで失敗してはいけないので,ふんだんに高純度魔法結晶を装着させた。
ビィーーーーーン!!
その羅針盤から,奇っ怪な音がして,発動中の魔法陣の探査をする高出力の魔力波動が円錐状に放たれた。余りに高出力のためか,ややもすると,その波動が肉眼でも捕らえられるほどのものだった。
その波動が生徒のしているお守りに接触すると,そのお守りが火花を散らすように出火して,生徒の着ている服を燃やした。その場にいる1年D組の生徒35名,全員が,一斉にお守りから出火して,服を燃やしたのだ。
「キャーー-!!」
「火!火!」
「水ーーー!!」
「助けてーーー!!」
「ギャー-!!」
生徒全員がパニックになって,床に転げ回って,なんとか火を消そうとするものや,冷静にすぐに服を脱ぐものや,「助けてーー」と言いながら,教師に駆け寄るものなど,阿鼻叫喚の火炎地獄となってしまった。
その波動は,夏江のしているお守りにも伝わった。その瞬間,お守りから出火した。
しかし,その火花は,一瞬放ったものの,夏江の服を燃やすまでには至らなかった。というのも,夏江の服は,常時,母乳で濡れている状態だ。全体が濡れているので,その濡れがまったく目立たなかった。火花が放ったくらいで服が燃えるはずもない。
その場にいた教師たちは,慌てて消火器を探しに行ったものの,すぐには見つからなかった。水を探しに行こうにも,どこに行けばいいのか?
一番効率よく活動できたのは一部の男性教師だ。彼らは自分の服を脱いで,生徒たちの燃えている服を覆うことで消火活動に大いに寄与した。
それでも,ほとんどの生徒は自助努力で,自分の服からの出火を食い止めた。消火が成功した生徒は,まだ服が燃えている生徒の消火に回った。
この混乱した状況は,時間にして僅か1分程度だった。しかし,当事者の生徒にとっては,長い1分間だった。
男子生徒のほとんどは,比較的厚手の学生服を着ていて,動作が機敏だったこともあり,軽傷の火傷で済んだ。しかし,女性徒にとっては,女性の象徴ともいうべき胸元から出火したこともあり,胸部分が大やけどを負ってしまった。かつ,その火が髪に移って,さらに顔まで火傷が及ぶというひどい状況だった。
火炎地獄の1分間が過ぎた後,比較的冷静だった総裁秘書は,財閥系列の病院に連絡して,暇している医師の派遣を要請した。多少時間がかかっても,救急車を呼んで病院に運ぶよりも迅速な対抗ができるとの判断だ。
この対応により,わざわざ救急車を呼ぶことはしなかった。呼んだところで,病院をたらい回しにされて,なんら解決にもならない。なにせ,病院側は救急車の受け入れを拒否することができるという強みがある。
気の利いたある教師は,学校で常備している予備の運動服を持ってきて,必要な生徒に分け与えた。
夏江は,回復魔法を生徒にかけることを霊核にお願いした。
夏江『生徒の火傷を完全治癒でなくてもいいから,ある程度,緩和できますか?』
霊核『少しならできる。だが,あとで見返りをもらう』
夏江『いくらでも見返りを要求してちょうだい』
夏江は,生徒らの出火の原因がお守りにあることに,少々罪悪感を感じていた。そのため,多少とも火傷による損傷を軽くしようと思った。霊核からの見返りなど,いくらで与えてあげよう!!
夏江は,火傷の被害が女性徒に集中しているのがすぐにわかった。特に髪の長い女生徒の顔への損傷がひどかった。
夏江は,女性徒の顔と胸部分に手を当てて,霊核にお願いした。『顔と胸部分を集中的に火傷の緩和をお願いします』
霊核は,回復魔法を付与した霊力の一部を切りはして,その女性徒の顔と胸部分に注入した。その時間はわずが3秒。あとは,時間をかけて,ゆっくりと火傷の治療をしていくことになる。
火傷による損傷を緩和させるその業は,この月本国になっては,まさに神業と呼ぶに相応しいものだ。しかし,回復魔法のことなど知らない生徒たちは,なんで夏江先生がひどい火傷をした部位に手の平を当てているのか理解できなかった。
そんなことよりも,生徒のところに移動するたびに揺れ動く,そのあまりに超爆乳とデカ尻のエロッチクな体つきに目がいった。服の上からでもその超爆乳のボディラインとデカ尻のボディラインをはっきりと認識でき,この非常時の中にあって,一部の男性教師や高野山の弟子らの下半身は鋭敏に反応した。
α隊隊員や多留真は,この火炎地獄の1分間,何もできなかった。彼らも自分の服を脱いで,近くの燃えている服を覆って火を消し止めたかった。しかし,彼らの着ている服は,何億円もの開発費をかけて制作した魔装服だ。そんな火を消すことで使ってしまっては,その魔装服が台無しになってしまう。その躊躇いが彼らの行動を阻止した。
『広範囲魔法陣探知羅針盤』を持っているα隊2号は,その羅針盤に映し出された赤い点の数を確認するような時間はなかった。ただ,何もできず,呆然として,その場に立ちすくんでいた。彼の頭の中には,どうして学生の服が一斉に火がついたのか,という疑問でいっぱいだった。いくら考えても,その原因などわかるはずもない。
霊核が注入した『回復魔法陣』は,その後,ゆっくりと作用して,30分ほどかけて,ひどい火傷の損傷を軽度の火傷にまで回復させていった。
その後,医師たちが駆けつけてきて,すぐに生徒の火傷の診察となった。医師たちがびっくりしたのは,服が燃えたにもかかわらず,火傷による損傷が軽微だったことだ。だが,それ以上にびっくりしたのは,火傷が治癒された跡があったことだ。
医師は生徒に誰か火傷を治癒した人がいないか尋ねた。しかし,パニックになっていた生徒にとって,夏江先生が神業で火傷を緩和したなど分かるはずもない。結局,その辺のことはうやむやになってしまい,夏江先生が火傷を治癒できる神業を持っているという事実は,多留真以外,知れることはなかった。
医師たちは,生徒の火傷が入院するまでの外傷ではないと判断し,応急措置をすることで対処した。
ほぼ事態の収拾がついたと判断した総帥秘書は,臨時理事長のランに目配せした。その意味をランは正確に理解した。その辺の機微はよく理解できるランだった。
ランは,後のこまごまとした対応を他の教師たちに割り振って,夏江先生を総帥秘書の車に押し込んで,いち早くこの場から去ってもらった。
ーーー
今回の『獣魔族あぶり出し作戦』は失敗に終わった。この作戦の指揮を執っていたのはα隊2号だ。彼にとっては,今回の作戦失敗はどうでもよく,それよりも,『広範囲魔法陣探知羅針盤』による魔力波動によって,服を燃やしてしまうという点がショックだった。何億円もかけて試作したこの羅針盤に重大な欠陥のあることが判明したからだ。
多留真というと,今回の成果を手土産に,夏江のアパートに転がり込んで,『な~子』によって憑依された夏江を,性奴隷として弄ぶつもりだった。だが,その夏江は,総帥秘書とともに,いち早くこの現場から姿を消した。
多留真は,仕方なくα隊の隊員や他の警官らと一緒に最寄りの地元警察暑に戻り,反省会をすることになった。
ーーー
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