第48話 中凶の効能
翌日,校長と教頭が失踪したと学校中に広まった。事実,その日の夕方,地元警察が動いて,教師ひとりひとりから,事情聴取を取った。
地元刑事「夏江先生ですね?えーと,昨晩は,バスで学校に戻ったようですが,何時頃でしたか?」
夏江「午後,10時でした」
地元刑事「その時は,校長と教頭はいましたか?」
夏江「はい,おりました。合宿の報告をした後,別れて,わたしは家に帰りました」
地元刑事「・・・」
地元刑事は,ニヤッと微笑んでから言葉を続けた。
地元刑事「ちょっとこの監視カメラの映像を見てください。グランドに設置されたものです。ライトが暗くてはっきりとは分かりませんが,女性1名と男性2名がグランドの外周を通って行くのがみえます。この女性はあなたですよね? 胸の膨らみからして,他の女性の可能性はないと思うのですが?」
夏江「・・・」
夏江は,ちょっと笑って誤魔化した。
夏江「あっ,そうでした。そうそう,忘れ物したので,いったん保健室に戻ったんです。夜遅いから,校長や教頭もボディガードとして,ついてきました。ハハハ」
夏江は,ハンカチを取り出して,ちょっと汗を拭いた。
地元刑事「そうですか? その保健室って,調べさせていただいていいですか?」
夏江は,ギクッとしたものの,所詮,地元刑事だ。犯罪に繋がる証拠を見つけることはできないはずだと思い,彼の要望に同意した。
夏江は,地元刑事,下っ端警察官3名,指紋係・現場係・写真係の鑑識それぞれ2名の合計10名を連れて,保健室に移動した。
その道すがら,夏江は地元刑事に尋ねた。
夏江「あの,なんで失踪事件だけで,刑事さんや鑑識さんまで出動したのですか?まるで,殺人事件があったような布陣ですね?」
地元刑事「この学校周辺では,頻繁に事件が発生してします。それに,校長や教頭が失踪するなんて,ありえません。間違いなく,殺人事件に巻き込まれたはずです。犯人は,もっとも間近な人物だと睨んでいます。例えば,夏江先生とかね,フフフ」
夏江「・・・」
地元刑事は言葉を続けた。
地元刑事「それはそうと,柔道部の合宿で林サミコという女性徒も参加していたそうですね?」
夏江「はい,そうです。予定より1日早く,温泉旅館から帰ったはずですが,それが何か?」
地元刑事「あれ? 聞いてませんか? 林サミコともうひとり男性が一緒にタクシーに乗っていまして,途中で事故に遭いましてね。どうやら,タイヤが拳銃で撃ち抜かれていました。完全に殺人するために撃ったんだと思います。どうも,犯人らしき人物は,毒に噛まれて死亡していました。林サミコは,彼に犯されたようで,今,近くの病院で精密検査を受けています」
この情報は,夏江にとって,初めて聞く内容だ。
地元警察「どうして林サミコは,一足早く旅館を出たんでしょうね? しかも,男性と一緒に?」
夏江「・・・」
夏江は,下手なことを言ってはまずいので,すべて知らないことにした。
夏江「あらっ? そうでしたか? 当時は,ゲームやらその他で忙しくて,気づきませんでした」
地元刑事「まぁ,いいでしょう。あとで林サミコに伺ってみます」
夏江「あの,林サミコさんの病院はどこですか?」
地元刑事「今は,教えられません。何かの犯罪の巻き込まれた可能性が高いものですから。夏江先生は,その片の事情もよくご存じではないですか? 例えば,林サミコと一緒にいた男性が誰だったかとか? もしかして,ソープランド殺人事件の犯人だったとか?」
夏江「・・・」
夏江は,この刑事は感の鋭い警察だと思った。
このまま捜査をさせてはまずい人物だ。夏江は,超現象で死亡した事件では,結局のところ,地元警察の技量では,殺し方を特定することができず,逮捕することはできないことを知っている。それでも,警視庁本部の応援を求められると少々やばい気もする。ともなく,彼をこの仕事から外させるのが安全だ。
夏江は,小さいメモ用紙を取り出して,自分の携帯番号を他の警察に気づかれないように彼に渡した。そして,小声で言った。
夏江「今は,雑談の段階ですよね? それなら,夕食でもご馳走していただければ,いくらでも雑談に付き合ってさしあげますよ? あとで連絡待ってます。真夜中でもいいですわ」
地元刑事「・・・」
地元刑事は,そのメモ書きを受け取って,同じく小声で返事した。
地元刑事「では,後で電話させていただきます」
その後,保健室の捜査を鑑識担当の警察官がいろいろと捜査をしたが,夏江自身はその部屋に入らずに,外で捜査が終わるのを待った。
彼女は,昨日の自分の行動が少々迂闊だと思った。校長と教頭の灰燼をゴミ箱に捨ててしまった。まさか,昨日の今日,警察が来て捜査するなんて思ってもみなかった。もし,DNA捜査まで調査されてしまうと,確実に彼らの身元がバレてしまう!! それ以外にも,ベッドのシーツには粘液の残り汁が残っている!
まさか,昨日の夜,面倒くさいから,彼らを灰燼にしてと霊核にお願いしたのが間違いだったか,,,まあいい,地元警察がどこまで夏江を追い詰めることができるか,お手並み拝見としよう。夏江は,一瞬,ヒヤッとしたものの,気持ちを切り替えた。
昨日の夏江は,少し,いや,完全に,本来の夏江ではない発想をしてしまった。人を殺すということに,罪悪感を覚えなくなってしまった。
夏江は,鑑識の捜査を遠目で見ながら,このスケベそうな地元刑事を,どうやって殺そうかと考えた。その発想こそ,従来の夏江にないものだ。あたかも,霊核の発想に汚染されているようだ。警察官殺しは重罪にあたる。そんなこと,夏江は百も承知だ。だから,地元刑事を殺さないで,捜査から離脱させればいいと考えた。
鑑識の捜査が終わって,夏江は解放された。地元刑事は,去り際に夏江に軽くウィンクをした。夏江は,世の中スケベな男がいるから,犯罪がなくならないんだと,今さらながら思った。
しばらくして,夏江の携帯が鳴った。地元刑事からだ。1時間後に,ラブホテル街の一角で待ち合わせするというものだ。夏江は,その待ち合わせ場所に行き,彼と合流して,適当なラブホテルに入った。
夏江は,折を見て彼が腕時計を外したので,それをいじくるような仕草をした。その実,夏江は,その腕時計に念強化魔法陣を植え付け,『中凶』という念を入れた。大凶なら死に至ってしまう。ならば,中凶なら,死亡することまではないだろうとの考えだ。
また,夏江は自分の思念を彼の頭に流した。『おっぱいを犯して』というものだ。その思念は,精神支配に匹敵するほどの強力なものだ。ただ,夏江は,自分の思念がどれだけ強いのか自分でも分かっていない。人で試した経験が少ないからだ。
ともなくも,夏江は,地元刑事に自分の胸を犯させて,彼から寿命20年分を奪った。地元刑事は,幸せな気分を味わいながら気絶した。
ラブホテルから入って20分後,夏江はひとり,そこから出て,自分のアパートに戻った。
その数時間後,地元刑事は,ラブホテルから出てきて,その帰り際,マンホールの周囲に『通行禁止』,『マンホールに注意』の表記があるにも関わらず,その標識をなぜか無視してしまった。20年分の歳をとったため,視力に老眼が入り,標識の文字を読めなくなったのが原因だ。それに,痴呆症も加わっていた。彼は,マンホールの穴の中に落ちてしまった。
幸い,マンホールの下では,工事班がいたので,彼をすぐに助けて,救急車を呼んだ。だが,彼は落ちた衝撃で背骨と足を骨折してしまい,一生,車椅子の生活を余儀なくされた。もちろん,刑事としての仕事はもう二度とできなくなってしまった。
後に,夏江は,『中凶』の効能が非情に優れていることを知った。
ーーー
アパートに戻った夏江は,林サミコから受けとったメモを取り出した。それと,各部員の肉体年齢をメモした紙を取り出した。彼女は,各部員の『小凶』を施した乳首リングに接触する時間と肉体年齢の相関を調べた。
すると,乳首リングに1分以上接触すると,寿命が10年も奪われているが,1分以下だと,寿命が5年ほどに収まっていた。
夏江は,自分の施す『お守り』の効能を発揮させるためには,1分以上接触さえる必要があることを知った。
それを知ったところで,夏江のこれからの方針になんら変わりはない。シレイは行方不明だ。それに林サミコも病院にいるが,それは口実で警察に保護されているようだ。
それに,夏江自身,校長・教頭の失踪事件に関わっていると警察から目をつけられている。もっとも,仮にDNAを調べたところで,その結果が出るには早くても1週間,遅ければ1ヶ月後くらいだ。その片の状況は夏江もよく知っている。
こんな状況でも,夏江がすることは決まっている。ともかくも,夏江の上司ともいうべき,魔獣族のマキやAV監督に,自分の有能さ,価値のある人物であることを知らしめることだ。
そうすることで,魔獣族の内情をより深く知ることができる。美澪の仇である『ハビル』の素性も分かるかもしれない。それに,夏江は魔獣族の組織に興味があった。警察の組織よりもずっと面白いに違いないと感じだ。その最大の理由は,魔法や霊力を未知の『超現象』で片付けることはしないはずだ。
夏江は,このままずるずると魔獣族の組織にどっぷりと浸かって,その組織の中で出世したいと無意識に思うようになった。
何事も,犠牲はつきものだ。これから,純粋に魔獣族のために犠牲なるターゲット,それは金城ミルカだ。
夏江は,金城ミルカの攻略に着手することにした。
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