第43話 武装無人ドローン
シレイは,最後の獣呪符を取り出して,それを発動させた。それは,大型のコリー犬に変身した。通常のコリー犬よりも1.5倍も大きい。シレイは,コリー犬の背中に乗って,林サミコが隠れている場所に急いだ。
ババババーー!
突然,上空から機関銃攻撃された。幸い,その弾丸はシレイやコリー犬に直撃しなかった。シレイは,振り向きざまに上空を見た。そこには,2台の機関銃を装備した武装無人ドローンが飛んでいた。
そんな高度な軍事攻撃機を扱えるのは,特殊部隊の警察か軍隊だ。シレイは,これ以上,林サミコを巻沿いにしたくなかった。已む無く,今は彼女の回収を諦めて,林サミコのいる場所とは逆の方向に逃げた。
ババババーー!
機関銃攻撃が続いた。だが,シレイの乗ったコリー犬は,右,左,前後に,臨機応変に方向を変えた。シレイがコリー犬を直接指揮しているので,それが可能だ。そうこうするうちに,崖が出てきた。
シレイは,思い切ってその崖に飛び込むことにした。もし,川がなければ,風魔法で着地の衝撃を緩和できるとの判断だ。
トーーン!(シレイを乗せたコリー犬が崖から飛び降りる音)
シレイは,崖から飛び降りると,崖の下が川になっているのがわかった。しかも水面がなだらかだ。それはかなりの深さがある証拠だ。最悪,風魔法が間に合わくて,河川の水面に直撃しても,即死は免れる可能性がある。ならば,空中で体を反転して,あの憎きドローンを撃墜してやろうと思った。
シレイは,すぐさま体を反転させて上空を見た。武装無人ドローンは,崖の上で待機状態だった。彼は,そのドローン目掛けて,普段使うことのない火炎攻撃を行った。
バヒューン!(シレイの手のひらから,中級レベルの火炎弾が放出される音)
ドーーン!(火炎弾と武装無人ドローンが衝突する音)
シレイは武装無人ドローンを撃墜させた。それを確認すると同時に,シレイの周囲に風魔法を展開した。
ヒュヒュヒューン!
その風魔法が発動すると同時に,シレイは川に落ちてしまった。コリー犬は,川に激突したと同時に消滅した。
ーーー
武装無人ドローンは,SART(特殊武装機動隊)の開発部隊がα隊と共同で開発したものだ。まだ試験段階で,撃墜された1基しかなかった。
撃墜されたことを知った操縦者たちは,顔が引きつった。
実は,彼らは本庁からの命令で,熱海温泉付近で魔獣族がいる可能性が高いということで,試運転中の武装無人ドローンによる魔獣族追跡の命令を受けていた。
武装無人ドローンが撃墜される1時間前に熱海温泉についたばかりだった。この部像無人ドローンには,α隊が開発した小型魔法陣探知装置を装備している。その有効範囲は地上だとせいぜい数十メートル程度しか有効ではない。障害物があると探知できない。壁を透過して家の中まで探知できるほど優れものではない。そのため,温泉旅館の中にいる夏江を発見することはできない。
空中からだと,障害物がないため,場合によっては,数kmも先まで探知できる可能性がある。
操縦者たちは,武装無人ドローンが魔法陣を発見したら,自動で機関銃攻撃するように設定してあった。
武装無人ドローンの活動時間はぎりぎり1時間が限界だ。安全を考えれば40分程度だ。だから,彼らは,どうせ魔法陣を発動しているような連中を発見できないだろうと思っていた。
操縦者たちが武装無人ドローンを飛ばすのは,人気のいない場所だ。敵を発見するよりも,操縦ミスで無関係な人に危害を加えるのを避けるためだ。もし,このような事故がマスコミにでも気づかれたら,それこそ大変なことになる。そのため,熱海温泉に来たはいいものの,わざわざ人気のいない山岳地域に移動してから,武装無人ドローンを飛ばした。
数キロ離れているバンタイプの車両に装備された操縦席では,操縦者たちがのんびりとコーヒーを飲んで,武装無人ドローンから送られてくる映像に気にすることもなく談笑していた。だって,つまらない野山の風景を見てもぜんぜん面白くないからだ。何もなければぐるっと周遊して戻ってくるようにプログラムしていた。
それに,音声はオフにしてある。だって,武装無人ドローンのうるさいモーター音を聞いても騒がしいだけだ。ノイズキャンセリング機能など,まったく役に立たない。
武装無人ドローンを飛ばしてから15分後,なんと,そのドローンは魔法陣を発動している敵を発見した。それは大型犬に跨っているシレイだった。
武装無人ドローンは敵を発見したら,それを追跡して,かつ敵を攻撃するようにプログラムされている。すぐに機関銃攻撃を実行した。
その後,敵を崖まで追い詰めたものの,シレイから反撃にあって撃墜された。
その時,初めて操縦席では,緊急音声が流された。
『試作機1号は撃墜されました! 試作機1号は撃墜されました!』
この時になって,初めて操縦者たちは慌てた。すぐに状況を確認するため,これまで送られてきた映像解析を始めた。
なんと,墜落する1分前に敵を発見して機関銃攻撃をするも,敵から火炎のようなもので攻撃されて崖から墜落したことがわかった。
その崖の下には川が流れている。当然ながら,川によって流されてしまったに違いない。
「おい,どうする? 試作機1号を探すか?」
「試作機1号は軽量にできているから,流されてしまただろう。探すにも,軽量化のため,発信機を装備していないぞ。探すことはまず無理だ」
「くそ!開発費数十億円がパーになってしまった!」
「それよりもα隊から借りている小型魔法陣探知装置が問題だ。ドローンに積んであったから,川に流されてしまい,発見は無理かもしれない」
「その装置って,確か,2台しかないと言っていたな。肝心の魔法陣を構築できるピアロビ顧問が長期休暇とかで,どこかに行ってしまったらしい」
彼らは,結局のところ,その川が海と合流する付近を金属探知機を使う方法で武装無人ドローンを探すことにした。当然,発見など期待していない。上司やα隊への言い訳のためだ。
彼らは,意気消沈して武装無人ドローン探索のため,その川と海とが合流する付近の町に移動した。その翌日から3日間,捜索をしたが結局,発見できなかった。捜索を諦めて彼らはSARTの開発研究所に戻った。
ーーー
後の報告会で,彼らは,α隊からさんざん文句を言われたが,武装無人ドローンと平行して開発している,『広範囲魔法陣探知羅針盤』の試運転を数日中に実施できる状態にすると約束することで,なんとかα隊からの非難を回避した。
というのも,α隊は,すでに,華丸私立高校に魔獣族が潜んでいる可能性が高いと睨んでいた。なんせ,魔獣族ではないかと疑われる『偽物の岡村』が,華丸私立高校の生徒だからだ。そこで,華丸私立高校に関するあらゆる情報の収集をしていた。その中で,『お祓いの儀式』をするというものがあった。わざわざ高野山の高僧が呼ばれることもわかった。そこで,α隊は多留真と協力して,高僧の付き人という名目で,華丸私立高校に潜り込む作戦を立てた。もちろん,その際に『広範囲魔法陣探知羅針盤』の試運転を兼ねるのは当然のことだ。
ーーー
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