第37話 夏江とマキの会話
夏江はラインで,魔獣族のマキと映像チャットを開始した。
マキ「夏江!何度も呼び出しけど,なんで出ないのよ!!」
夏江「あら?急用でしたの?」
マキ「そうよ!ニュースでやっていたでしょう?熱海のソープランドで起きた殺人事件!しかも犯人が高校生1年生の岡村雅人だって! その高校って,あなたが行っている高校でしょう?」
夏江「そうだけど?」
マキ「しかも,別のところで岡村雅人が警察に駆け込んできたって報道されていたわ。いったい,どうゆうこと?」
夏江は,マキが何でこの事件に興味があるのかわからなかった。
夏江「マキさん,なんでこの事件に興味があるの?」
マキ「常識で考えてちょうだいよ。もしかしたら,殺人犯は,岡村雅人の顔に変身できる能力者の可能性があるわ。夏江,あなた,偽物の岡村雅人の顔を見たことがあるの?」
夏江「ええ,まあ,,,」
夏江は,急遽,柔道の合宿に参加することになったこと,偽物と思われる岡村雅人も参加したこと,移動中に事故にあったこと,さらに,バスに乗っていた彼の顔は,まさに岡村雅人であり,簡単に化粧などで真似できるものではないことなどをマキに伝えた。ただし,彼が魔獣族であることは言わなかった。夏江のオーラが見える能力は隠しておくべきものだからだ。
その話を聞いて,マキは険しい顔になった
マキ「夏江,今から言うことをしっかりと頭にいれなさい」
夏江「はい,どうぞ言ってください」
マキは,一呼吸置いてから言った。
マキ「実は,警察に裏から手を回して,殺された女性の損傷状況を入手したのよ。そしたら,腹部と陰部が割かれていて,生殖器官の組織失われていたわ。しかも,ここ半年で同じような事件が5件もあったのよ。つまり,今回で6件目よ。そして,今回の殺人事件で,やっと犯人が絞り込めたみたいなの。岡村雅人の顔とそっくりに真似ることができる人物が犯人だってね」
夏江「ふーん,殺人犯って,超変態なのね」
夏江は,自分の変態さをそっちのけにして,殺人犯の変態さを避難した。マキは,夏江の感想に反応することなく言葉を続けた。
マキ「そして,ここからが重要な点よ。犯人は魔獣族よ」
この言葉を聞いて,夏江はびっくりした。なんでマキがそんなことを言い当てることができたのか??
夏江「え?なんでそんなこと,わかるの?」
予想通り夏江がびっくりした反応をしたので,気をよくしたマキは饒舌になった。
マキ「どこの殺人鬼に,生殖器官を取り除くものがいるんですか!仮に性的変質者だとしたら,おっぱいに危害を加えるのが普通よ。でも,おっぱいにはまったく損傷がなかったのよ」
夏江「?」
まだ,夏江には,よくわからなかった。
マキ「でも,犯人が魔獣族の組織から逃げた魔獣族だとしたら,話が通じるわ。組織から逃げるということは,魔力の供給が絶たれるということよ。つまり,魔力を人間から得ないといけないの。普通なら,男性を襲って肝臓とか血を採取するはずよ。それに,若い女性を殺してはいけないと教えているしね」
夏江「え?どうして,若い女性を殺さないのですか?」
マキ「若い女性は,魔獣族の子孫を生んでくれる大事な産卵器になるのよ。もし殺すと厳しい罰則が与えられるのよ。でも,組織から逃げた魔獣族は,そんなこと気にする必要はないわ。もっとも効率のいい方法で魔力を得るはずよ」
ここまで聞いて,夏江も話が見えた。
夏江「そのもっとも効率のいい方法って,もしかして,若い女性の生殖器を食べるってこと?」
マキ「正解よ。それに,もうひとつ,大事な点があるわ。魔獣族から逃げた犯人,彼は,魔法で本物の岡村雅人になりすませたはずよ。でも,本人の顔をコピーする魔法って,そう簡単にできるような魔法でないのよ。いくら本人の魔法因子を使ったとしても,どうしても,皮膚の色,まぶたの開き具合など,微妙に異なるものなの。時間をかければ,化粧道具でそれらを修正できるけど,犯人はたぶん,そんなことをせずに,ほぼ完璧に本物とそっくりに変身したはずよ」
夏江「本物と思われる岡村雅人が,通勤途中で襲われたことが事実なら,バスに乗るまでの時間は30分くらいしかないはず。学校に着くまでの距離を考えると,顔をコピーする時間は10分もないことになります」
マキ「そうよ。まさにそうなのよ!つまり,犯人は,われわれが知らない未知の魔法を使ったと考えるべきよ。未知の魔法,それって,自分で魔法を発明できる能力があるか,もしくは超古代文字を解読できる知識を持っているかのどちらかよ。それって,超すごいことよ!! 彼は,宝石箱よ。彼を手中に収めることができれば,圧倒的な戦力を得たのと同じ事よ。夏江,あなたにその殺人犯を保護してほしいの!」
夏江「でも,マキさんの考えているようなことは,魔獣族を捜査している警視庁の連中にだって予想がつくんじゃないの?それに,そんな危険な殺人犯を,魔獣族の組織がそのまま放置するとも思えないわ」
マキ「夏江の予想は正しいわ。魔獣族の組織は,十中八九,暗殺者を送り込んでくるわ。彼を殺しにね。彼が警察に捕まるということは,魔獣族の魔法体系がバレてしまうことを意味するのよ。それは絶対に避けなければならないことよ」
夏江「それって,わたしは暗殺者よりも先に彼を見つけて,彼を保護するってこと? それって,わたしの身も危ないんじゃないの?」
マキ「そうね。夏江が彼を保護したって暗殺者にバレたら,命はないわ。だから,絶対にバレないようにしてちょうだい」
夏江「そんな危険な任務,したくない! わたしに何のメリットもないわ」
マキ「あなた,もっと呪詛を勉強したいんでしょう?それに,超秘密だけど,魔獣族の魔法体系を教えてあげるわ。ただし,他に口外しないという条件でね。どう?そんなおいしい話,もう二度とないわよ」
夏江「・・・」
夏江は,一瞬,どうしようか迷ったものの,リスクのない範囲で引き受けることにした。
夏江「そうね。自分の身に危険が及ばないとわかれば,彼を保護してもいいわね」
マキ「フフフ。夏江ならきっとできるわよ。期待しているわ。じゃあね」
マキとの映像チャットは終了した。そのあと,夏江は,犯人のこれからの行動を予測してみた。
犯人は,なんでこの熱海で,人目につくような殺人事件を起こしたのか? その答えは,この地でやるべきことがあるということだ。それも,夏江や林サミコ,もしくは柔道部員に関係することだ。つまり,何もしなくても,犯人は夏江の周辺にいる!
それに,夏江はオーラが見える。たとえ犯人が他の誰かに化けたとしても見破ることができる。要は,夏江は,何もしなくても自分に近づく相手のオーラを見るだけでいいということだ。
夏江は,そう悟って,今からどんな人でもオーラを見るようにすることにした。
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