第31話 総裁とラン
林サミコが襲われてから3日後に退院した。その間,その病院内では,2件の死亡事故が発生していた。いずれも,林サミコの周辺で起こった事件だ。
その2件の事件とは,林サミコの担当医師が,病院内の非常階段を踏み外して転落死した事件と,彼女の隣の部屋に入院していて彼女とトランプゲームやオセロなどの遊び仲間の男性患者が,モチを食べて喉をつまらせて窒息死した事件だ。でも,そのような事故は,当然のことながら,林サミコとは関係のない事故死として処理された。
この事故の原因が乳首リングのせいだとは,林サミコも夏江も知る由もなかった。
林サミコが退院した日,臨時理事長秘書のランは,華丸財閥の秘書,つまり,ランの上司である臨時理事長に呼ばれた。
臨時理事長が用意した車で,ランは,華丸財閥の総裁が住む邸宅に来た。その邸宅は,和風の建物で,中庭には,古風な日本庭園を模していた。
ランは,和室に通されて,そこで,この美しい日本庭園を眺めながら,溜息をついた。『美しい眺めね。ここで住めるんなら,総裁の愛人になってもいいわ』 そんなことを思っていると,ふすまが開いて,総裁と総裁秘書が現れた。臨時理事長の役職は,総裁秘書が兼務している。
総裁がランの前に現れるのは,普通はあり得ない。でも,現れた。それには,何か目的があってのことだ。
総裁秘書「ラン,この方が,華丸財閥の総裁だ。粗相のないように」
その言葉を聞いて,ランは,とっさに頭を畳につけて,挨拶した。
ラン「わたくし,ランと申します。総裁秘書より,臨時理事長の秘書を仰せつかっております」
総裁「ほほう,ランよ。なかなかの美人だな。もうすこし,巨乳だったら,愛人にしてもいいかもしれん」
総裁は,息子の前理事長に輪をかけてすけべだった。まだ,40台の後半で,精力絶倫だ。すでに愛人が4名もいるのに,現在,5人目を物色中だ。
総裁の言葉に,総裁秘書が注意を促した。
総裁秘書「愛人の件は,要件が済んでからにしてください」
総裁「おお,そうだったな。ランがことのほか美人だとお前が言うから,愛人の候補になるか見定めておきたかっただけだ」
総裁秘書は,何度か咳払いをしてから,要件を切り出した。
総裁秘書「ラン,あなたから送られた火事の原因について,少々聞きたいので,ここまで来てもらいました」
そう言ってから,総裁秘書は,さらに言葉を続けた。
総裁秘書「発火原因については,もともとお守りが発火しやすいものだということがよくわかりました。このことをもって,前理事長には,火災を引き起きた罪を減免することにします。つまり,謹慎を解くことになります。近々,とある専門学校の理事長に就任してもらうことになります」
この言葉を聞いて,ランは,前理事長に貸しを作ったと思った。しかし,実は,前理事長には,近々謹慎を解く予定だったが,いい口実がなかっただけの話だ。今回の,お守りが発火するというしょうもない映像ではあったが,謹慎を解くという口実にはちょうどよかった。
総裁秘書「ラン,あなたには,この功績により臨時理事長の秘書という肩書きから臨時理事長に昇格させます。ただし,正式に理事長が決まるまでですが」
ランは,この昇進が,実質的にあまり意味のないことは知っている。でも,多少とも給与の面で優遇されると思ったので,ニコッと微笑んだ。
ラン「はい,ありがとうございます。これからも,この臨時理事長の職責に恥じないように頑張ります!!」
総裁秘書は,ちょっと険しい顔をしてから言った。
総裁秘書「さて今から悪い話をします。最近,華丸私立高校では,不幸な事故が連続して起きているようです。どうも偶然とは思えません。ネットでは,華丸私立高校は呪われている,とか,悪魔が巣食っているとかの中傷記事がSNSでアップされています。このままでは,華丸私立高校は評判倒れになってしまい,来年の新入生を確保するのも困難な状況になるかもしれません。さらには,華丸財閥全体に影響を与える可能性も出てきます」
そんなことを言われても,ランにはどうすることもできない。
総裁秘書「そこで,林サミコがどうも,すべての元凶のように思います。5名のクラスメイトが警察に逮捕された件,さらに,3名の浮浪児によるレイプ未遂事件。どれも,林サミコが絡んでいますね」
ランは,その事実を認めた。事実,そのとおりだからだ。
ラン「はい。そのとおりです」
総裁秘書「つまり,林サミコは,悪運を運ぶ生徒だということです。そんな生徒には,3日後に予定されている学校全体の悪運を払う儀式でもお払いをすることは困難でしょう」
ラン「では,どうすればいいのですか?」
総裁秘書「簡単なことです。理由をつけて退学になってもらいます」
ラン「・・・」
総裁秘書は,ランの耳元でこっそりと言った。
総裁秘書「ランさん?林サミコを1ヶ月以内に退学させなさい。それができなければ,臨時理事長の職を外れてもらいます。つまり,首です」
生徒を退学にさせるにも,それなりの理由がいる。でも,1ヶ月あればなんとかなると思った。
ラン「わかりました。なんとかしてみます」
総裁秘書は少し微笑んでから言葉を続けた。
総裁秘書「でも,もしうまくできれば,総裁の愛人に推薦してもいいです。もう,仕事なんてする必要がなくなりますよ?」
その言葉に,ランはちょっと顔を赤らめた。今は,ホストクラブのナミオに首ったけだが,彼に貢ぐお金が続かず,彼からも愛想をつかれた頃だ。金の切れ目が縁の切れ目。それなら,思い切って総裁の愛人になってもいいと思った。
ランは,総裁秘書のささやきに,首を縦に振った。総裁秘書は,ランが愛人の話を断ると思っていたので,ちょっと意外だった。
総裁秘書は,ランにふたたびささいた。
総裁秘書「愛人に推薦するにしても,Dカップ以上になってくださいね?ただし,豊胸手術は禁止ですよ。総裁は,完璧な裸体を求めていますから」
ラン「・・・」
このささやきに,ランは愛人の夢は諦めることにした。手術なしでAカップのランがDカップになるなんて,夢のまた夢だからだ。
用件が済んだので,ランは総裁邸を去った。ランが去った後,総裁秘書は,総裁にランの印象を聞いた。
総裁秘書「ランって子,いかがですか?お気に召しましたか?」
総裁「ああ,なかなかの美人だ。もう少し胸が大きかったらいいのにな。まあ,一度,抱いてみて,愛人にするかどうか決めても遅くはあるまい」
最近の総裁秘書の仕事は,総裁に愛人候補を提供することだ。巨乳の独身美人の物色だ。処女であれば尚好ましい。つい先日,総裁の愛人のひとりが愛人契約を破棄したので,愛人用に確保している部屋が余ってしまった。
総裁秘書は,1枚の写真を総裁に見せた。その写真は,華丸私立高校の全校集会の時の1枚だ。高校に勤める教師全員が映っている。その中にあって,ひときわ目立つ女性がいる。爆乳の女性,夏江だ。
総裁秘書は,個人的には,巨乳が好きではない。大嫌いな母親が巨乳であったこともあり,性癖的に巨乳を受け付けない。それに,夏江は,元刑事であり,適当に証拠をでっちあげられて生徒5名を警察に売った忌むべき教師だ。とても,総裁の愛人に推薦できるような女性ではない。しかし,,,総裁がその愛人を気に入ってしまえば,特別報酬が得られる。結局は地獄の沙汰も金次第だ。
総裁はその写真を見た。もちろん,爆乳の夏江に目がいった。その目は爛々と輝いていた。
総裁「至急,この女性を抱ける機会をつくれ! 予算は100万円まではOKだ」
総裁秘書「仰せのままに」
総裁秘書は,この父にして,この子ありと思った。前理事長もスケベだが,その父親である総裁も,それに輪をかけてスケベだった。
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