第30話 『大凶』の効能

 ー HH公園 ー


 トップ10を獲得した5名の男子生徒は林サミコを連れてHH公園に来た。しばらく歩き回って,人目につかない場所を選んだ。


 彼らは林サミコに対して紳士的だった。彼女は,制服の上着とブラジャーを一緒にたくし上げて,Dカップの胸を彼らに触らせた。乳首には,しっかりと乳首リングが装着されていた。


 彼らは,オプション料金を払わなかったので,きっちりと5分間,胸と乳首を触り,もちろん乳首リングにも触った。


 林サミコの胸や乳首を触った彼らは,彼女に気を使って,彼女この場にひとりにして,さっさと帰ってしまった。


 林サミコは,その場でひとり放置された。胸や乳首以外,触ることがなかったので,少々拍子抜けした。もしかしたら,処女を奪われるのではないかと危惧したくらいだ。


 林サミコは,ひとりで公園の出口の方向に向かった。


 だが,この月本国は,そんなに治安のいい国ではない。夕方の公園ともなると,日中,カンカンや廃品集めなどで街を歩き回っていた野宿する連中が戻ってくる。そんな彼らの中には,自暴自棄になる連中もいる。


 そんな彼らが,公園をひとりで歩く美人の少女をほっとくはずがない。


 林サミコは3人組の浮浪児に襲われた。彼らは彼女の背後から後頭部と腹部を強く殴って気絶させ,彼女を担いで,完全に人気のない場所につれていった。


 そこで,彼女を裸にして,まさに犯そうとした。だが,彼らは,乳首リングだけでなく,もうひとつのリングにも触ってしまった。


 彼らがそこに触ったと思ったら,その瞬間,意識を失ってその場に倒れた。


 しばらくして,別の野宿の浮浪児が彼らを見つけた。全裸で倒れている少女ひとりと,下半身を丸出しにして倒れている3名だ。


 この状況を見て,さすがにおかしいと思った。いったい,どうしたらこんな状況になるのか?? 彼は110番した。


 ーーー

 林サミコの乳首リングを触った男子生徒のひとりは電車通勤だ。彼は,電車が来るのを待っていた。だが,たまたま,隣り合わせて並んでいた酔っぱらいに絡まれて,プラットホームから落ちてしまった。そして,電車が彼を襲った。


 同じく,二人目の男子生徒は,マンション住まいだ。8階に行くため,エレベーターに乗った。しかし,そのエレベーターは,8階に着く直前でエレベーターを支えているワイヤーが切れてしまい,真っ逆さまに転落してしまった。


 3人目の男子生徒は,買い物のため,近くのスーパーマーケットに行った。そこで,エスカレーターに乗って2階に移動した。エスカレーターから降りたところ,その床が陥没してしまって,そこに落ちてしまった。


 4人目の男子生徒は交通事故に巻き込まれた。100メートルほど先で歩いていた女性が持っていた買い物袋が破れて,ミカン,ペットボトルなどが落ちて,道路側に転がった。それらを避けようとした自家用車が,ハンドルを急に切って対向車線にはみ出してしまい,対向車と接触した。その対向車は,その衝撃で歩道側に乗り出して彼を引いてしまった。


 5人目の男子生徒は,自宅の風呂場で事故にあった。たまたま疲れていたためか,長風呂になってしまい,風呂から出ると,体を急に冷やしたためか,意識が朦朧として,その場に倒れて頭を強く打ってしまった。


 一方,3名の浮浪児に襲われた林サミコは,救急車で病院に運ばれた。幸い,命に別状はなく,3日ほどの入院が必要とのことだった。また,彼女を襲ったと思われる3名の浮浪児は,外傷がまったくないにもかかわらず,意識が戻らなかった。医者も原因が不明で,首をかしげていた。


 この一連の事故で,華丸私立高校の担任の先生たちはてんてこ舞いだった。警察に呼ばれて,事故死した生徒たちの学校で何か異常がなかったかなどの事情聴取が行われた。


 幸い,死亡した生徒たちに,夏江が担任する生徒がいなかったので,彼女は昨晩はのんびりとしていた。


 ーーー

 翌日,校長は,緊急の全校集会を開いた。そこで,校長は,昨日起こった事件の概要を説明した。


 校長「すでにニュース等で知っているかもしれませんが,昨日,我が校で,大変不幸な事件が連続して起きてしまいました。いずれも1年生ですが,5名の生徒が事故死しました」


 この話を聞いて,夏江は,『なんとも不幸な生徒がいたものね』と,まったく他人事のように思った。


 校長「1年A組のA君は,帰りの電車を待っている時に,よっぱらいに絡まれて,その際,プラットホームから落ちて,電車に引かれてしまいました。即死でした。

 同じく1年A組のB君は,エレベーターの事故に巻き込まれて死亡しました。1年B組のC君は,デパートのエスカレーカーの事故に巻き込まれて死亡しました。同じく1年B組のD君は,帰宅途中に交通事故に巻き込まれて死亡しました。1年C組のE君は,自宅の風呂場で死亡しました」


 校長が,ここまで説明しても,臨時保健士である夏江には,他人のそら似でしかなかった。この高校に来てまだ間がないので,他のクラスの名前と顔が一致しないのも当然だ。


 夏江が他人事のように思っていると,校長が林サミコがからむ事件を説明した。


 校長「最後に,1年D組の林サミコさんが,HH公園で強姦に襲われました。幸い未遂に終わったようです。これから,警察が詳しく調べることになると思います」


 校長は,ここで一息いれてから,言葉を続けた。


 校長「昨日のことに限らず,最近,いろいろな事件が頻発している状況です。前理事長の火災の事件もそうです。わたしは,別に信心深くはないのですが,どうやら,ここ最近,我が校全体が悪運で呪われているように感じます。


 そこで,1週間後になりますが,幸運を呼び込む開運師を呼んで,悪運を払ってもらう予定です。


 また,今後,同じような事故が起きないように,当面の間,登校や下校時は,できるだけ集団で行動するようにしてください。また,自宅でも,普段から安全に心がけて行動ください。その他の注意事項については,担任の先生から報告があると思います。以上です。解散ください」


 この話を聞いた夏江は,『開運師』という言葉を初めて聞いた。もしかして,どこかのお坊さんでも呼ぶのかと思った。


 全校集会が終了した後,夏江は,学級主任から,林サミコを見舞ってくるようにと依頼された。そこで,彼女の入院先に向かった。



 ー 林サミコの病室 ー

 林サミコは,意識を取り戻していて,警察からの事情聴取が行われていた。事情聴取をしていたのは地元の警察官だ。本庁ではない。そのため,当然,多留真はいなかった。


 しかし,ごく最近,多留真は,地元の警察を動かして,林サミコへの暴行容疑で,5名のクラスメイトを逮捕させた経緯がある。


 事情聴取が終わって病室から出てくるときに,地元警察官のひとりが上司に,「林サミコのからむ事件ですから,本庁の多留真課長に連絡した方がいいのではないでしょうか?」という話が夏江の耳に聞こえた。


 夏江は,霊感が発達してから,聴力も異常によくなった。彼らは当然,遠くに座っている夏江には聞こえないだろうと思って,遠慮なく会話した。


 「そうだな。報告書をすぐにまとめなさい。わたしから多留真課長に報告する」

 「了解しました。それと,意識の戻らない3名のレイプ犯ですが,外傷がまったくないようです。医者もどうして意識が戻らないのか,不思議がっています。林サミコは彼らに気絶させられたので,彼女が彼らを気絶させていないのは明らかです」

 「その点も,正直に報告書にまとめなさい。いずれ,意識を取りも出すだろう」

 「そうですね。それを期待しましょう」


 そんな会話をしっかりと聞いた夏江は,地元の警察官が去ったのを確認してから,林サミコの病室に入った。


 そこで,夏江は,早速,林サミコに与えた乳首リングともうひとつのリングの状況を詳しく調べた。


 乳首リングについては,左右ともほとんどの霊力が失われていた。夏江は,自問自答した。

 『ちょっとおかしいわね。1ヶ月以上は霊力が持つはずなのに,ほとんど失われているわ。これって,霊力と魔法陣の相性が悪いせいなのかしら? それとも,3人の浮浪者に触れたせいなのかしら?』


 夏江は,霊力が失われていることにちょっと違和感を覚えた。そこで,林サミコに聞いてみた。


 夏江「林さん? 3人の浮浪者にこの乳首リング触れたかどうか覚えている?」

 林サミコ「いいえ,覚えていません。でも,全裸にさせられたようですので,彼らは,たぶん,触ったと思います」

 夏江「それなら話が通じるわ」


 夏江は,乳首リングから霊力が失われていたのは,3名の浮浪者が接触したことによるものだと結論づけた。彼女は,5名の成績上位者のことなど頭にはなかった。林サミコも,5名の成績上位者が事故死した事実を知らないので,彼らのことはまったく気にしてなかった。


 夏江は『大凶』という強力な呪詛をかけた乳首リングはほとんど効果を上げておらず,それよりも,もうひとつのリングに霊力が半分ほどなくなっていたことから,『悪霊退散』という念が3名の浮浪者を撃退したものと判断した。


 ところが,その思いは次の林サミコの言葉で打ち砕かれた。


 林サミコ「あの,,,わたしの乳首リングに触ったのは,昨晩,事故死にあった5名の成績上位者です」

 夏江「え?なに?それって,ほんと??」

 林サミコ「はい,ほんとうです。全員,5分間,しっかりと触っていました」

 夏江「・・・」

 

 夏江が冗談半分に『大凶』のお守りを林サミコに授けたことで,5人の尊い命が失われたことを,この時初めて理解した。

 

 夏江は,『大凶』の効能が確実に事故死に繋がることを知った。だが,もう後悔しても始まらない。


 その場で,事故死した彼らの冥福を祈った後,夏江は,当面『大凶』の文字を封印することにした。


 そこで,夏江は,林サミコの乳首リングに『小凶』を,

もうひとつのリングには,これまでと同じく『悪霊退散』の文字で呪詛を施した。


 夏江は,林サミコに,5名の事故死した生徒には触れずに,お守りについて説明した。


 夏江「この乳首リングともうひとつのリングに掛けた『お守り』パワーが,3人の浮浪者からあなたの処女を守ったのよ。これからも,肌身離さずにつけてちょうだいね?」

 林サミコ「はい,ありがとうございます。わたし,このお守りで救われました。ほんとうに感謝しています」


 林サミコは,ベッドで座った姿勢で,深々とお辞儀をした。


 夏江「それと,1週間に1回くらいは,わたしのところに来て頂戴ね。あなたのお守り,定期的にメンテナンスする必要があるからね?」

 林サミコ「はい,その時は,手製のお菓子を持っていきます!」

 夏江「フフフ,それは楽しみなこと!」


 夏江は,いやなことは早く忘れるたちだ。5名の事故死した生徒のことは,彼らに冥福を祈ったことで,もう,頭からは消えていた。


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