第29話 信賞必罰

 その日の放課後,夏江は秘書のランに呼ばれて,理事長室に来た。そこには,1年の成績上位者トップ10を獲得とした男子生徒5名がいた。しかし,トップ10を獲得した女生徒は,ここにはいない。彼女らは,別途,賞品という形で褒美が与えられる予定だ。


 夏江は,男子生徒のいやらしい顔つきを見て,なぜ自分が呼ばれたかをすぐに理解した。でも,知らん顔して,ランに用件を聞いた。


 夏江「ランさん?用事ってなんですか?」

 ラン「あら?スケベな彼らを見て,用件が分からないの?」


 夏江は,しらばっくれても駄目だと思った。


 夏江「もしかして,彼らは成績上位者ですか?」

 ラン「そうよ。あなたのおっぱいを触りに来たのよ」

 夏江「・・・」


 夏江は,彼らの中に,トップの成績を収めた佐々木実信がいないことに気がついた。


 夏江「あれ?トップの成績を取った佐々木君がいないようだけど?」

 

 ランは,ため息をついた。


 ラン「彼は,2日ほど前に,物置小屋の中で意識不明の状態で発見されたわ。どうやら鉄製の金具が頭から落ちたらしいわ。今,入院中で,全治2週間だって」

 夏江「そうでしたか。なんで彼はそんなところに行ったのですか?」

 ラン「何か探しものでもしていたんじゃない?」


 ランは,そこで林サミコと密会したことを知っている。でも,この件は,明るみにせずにうやむやにするのが肝要だ。不祥事は隠すに限る。それも秘書の役目だ。


 夏江「佐々木君が入院中なら,彼にお守りの効果を確認することはできないわね」


 この『お守りの効果』という言葉で,ランも思い出した。夏江が成績上位者の男子生徒に胸を触らせる代わりに,佐々木実信はお守りの効果を身をもって確認するというのが,夏江が佐々木実信に出した条件だ。


 ラン「ということは,佐々木君が夏江先生の約束を守らない以上,夏江先生も成績上位者の彼らに胸を触らせないってことですか?」


 夏江は,ニコッとした。


 夏江「その通りです。ではまた」


 夏江は,さっさとこの場を去った。この理事長室に長くいてもいいことなどひとつもない。生徒のやる気を上げるためなら,ハレンチ行為を平気で行うランのやり方に,夏江は心よく思っていなかった。そういう夏江も,それに輪をかけて超級ハレンチ先生なのだが,,,


 ランは,当初の予定通り林サミコを呼んだ。もともと,彼女が成績上位者の相手をする予定だったからだ。


 理事長室に来た林サミコに,ランは毅然として命令した。


 ラン「林さん,約束です。成績上位者である彼らにあなたのおっぱいを触らせなさい。それが,追試を受ける権利になります」

 林サミコ「・・・」


 今の林サミコにとって,ランの命令を拒否するのは困難だ。胸を触らせるだけで,授業料免除になるという特典がある。両親の経済的負担を軽くするため,彼女が甘んじて了承したことだ。


 林サミコは,言葉を発することなく,終始顔を下に向けて,コクッと「わかりました」の合図をした。


 ラン「フフフ。林さんは聞き分けのいい子ね。オプション料金は,直接林さんに渡してちょうだいね?」

 

 ランの言葉に,彼らはニヤニヤしながら了解の返事をして,林サミコをどこに連れていったらいいかを相談して,近くのHH公園にすることに決めた。


 ランは,鼻の下を伸ばしている彼らに,少々嫌悪感を感じつつも,注意事項を述べた。


 ラン「わかっていると思うけど,このことは絶対内緒にするのよ。それと,今度のテストで,トップ10に入らなかった生徒には罰が与えられます」


 その罰とは何かを男子生徒たちが聞くと,ランは,ニヤニヤして返事した。


 ラン「信賞必罰は世の常よ。その罰は,そうね,,,」


 ランは,ちょっと考えてから言った。


 ラン「例えば,クラスの前で全裸になるとかね」

 男子生徒「・・・」

 

 この言葉に,ある男子生徒Aは反発した。


 男子生徒A「それなら,おっぱいを触るという褒美なんていりません」

 ラン「それなら,それでいいわよ。でもね,目標のない努力って,つまらないわよ。人生,『色々』あるから楽しいのよ」


 これはランの処世訓だ。自分で楽しみを見つけて,その目標に向かって努力する。今は,ホストクラブのナミオへの愛を勝ち取るという目標がある。それがたとえ,お金を貢ぐという形であっても,今のランにとっての生きがいだ。


 結局,男子生徒Aはランの賞罰を受けることにした。他の男子生徒も同様だ。今は,未来に起こる可能性の低い罰のことなど気にする時ではない。


 彼らは,そそくさと林サミコを連れて,理事長室を後にして,近くのHH公園に行くことにした。そこなら,かなりの広さがあるので,場所さえ選べばあの行為をしたって,他人に気づかれる可能性はない。


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