第25話 金城ミルカ,強魔呪符

 この日,理事長室では,ランが金城ミルカと面談を持った。


 ランは,金城ミルカに元理事長室で出火した時のビデオを見せた。


 ラン「金城さん,このビデオでは,お守りから出火しているように見えるわ。このお守りは夏江先生が林さんにあげたものだけど,夏江先生に聞いたら,このお守りはごく普通のお守りだって言っていたわ。たぶん,ウソだとは思うけどね」


 ランは,ニヤッと微笑んだ。


 ラン「もし,お守りのせいでなかったとしたら,腕時計のせいってことになるわね。だって,出火時にお守りと腕時計が接触しているのよ。あの腕時計には,金城さんの知人が催眠術を施したんですってね。いったい,どんな催眠術なのかしら?」

 金城ミルカ「・・・」


 金城ミルカが何も返事しないので,ランが言葉を続けた。


 ラン「その答えを1週間以内にもってきてちょうだい。時計のせいでもいいし,お守りのせいでもいいけど,納得のいく説明がほしいわ。金城さんにとって,一番都合がいいのは,お守りのせいにすることね。出火原因のすべてを夏江先生に押しつけることができるわよ。フフフ。それができれば,金城さんには,赤点をとった教科の再試験を受ける権利を与えましょう。話は以上です」

 

 金城ミルカは,軽く頷いてから理事長室を去っていった。ランは,金城ミルカにも彼女のおっぱいを成績上位者に献上させようかと思った。でも,彼女の胸はAカップあるかないかだ。魅力に欠ける。1週間後の『成果』を待ってからでも遅くはない。


 金城ミルカは,教室に戻ると,すぐにメールでシレイに連絡した。 


 『理事長の部屋で火事が発生した原因は,腕時計とお守りが接触して,お守りから出火したようだわ。お守りに発火要因があったことを至急に調べてちょうだい。お守りは夏江先生が林サミコに渡したものよ。夏江先生の画像を送ります』

 

 このメールを送った後,隠し撮りして撮影した夏江先生の画像も送った。


 金城ミルカができるのはここまでだ。後はシレイ次第だ。果たして,シレイは納得のいく原因を調べることができるのだろうか?


 金城ミルカは,シレイと最初に会った時のことを思い出した。


 ★---★

 今から半年ほど前,彼女は近くの川のそばで自転車を飛ばしていた。その時,自転車のチェーンが外れてしまい,土手に転んでしまった。その時,土手で乞食のような恰好をした少年とぶつかってしまった。その少年こそシレイだ。


 彼女は転倒時に脚をかなり深く切ってしまった。シレイも自転車にぶつかって,かなりの大怪我だったのだが,なんと,自分の怪我と同時に彼女の怪我も手の平を傷の部分に当てることで治してしまった。その時,彼女は乞食の恰好をしたシレイを,神が使わした仙人だと思った。


 彼女は,泊まるところもないシレイを自分の部屋にこっそりと住まわすことにした。両親は一階に住んでいて,彼女は2階に住んでいて,かつ,両親はシレイの部屋に入ることはない。そこで,シレイを自分の部屋にこっそりと住まわせることした。


 シレイは自分の素性を金城ミルカには何も言わなかった。ただ,シレイは怪我などの外傷を治せること以外に,催淫,催眠,撹乱などの精神支配が行えることを伝えた。


 それからは,金城ミルカは自分の体を実験台にして,シレイの能力がどこまでできるかを理解していった。その過程を通して,彼女はシレイに恋心を抱くようになった。シレイは寝る時は彼女と同じベッドで寝る。しかし,いくら彼女がシレイにモーションをかけても,シレイは彼女に手を出さなかった。


 あるとき,金城ミルカはシレイに聞いた。


 金城ミルカ「シレイ,あなた,わたしのこと嫌いなの?」

 シレイ「いえ,乞食同然のわたしをここに住まわせてもらってとても感謝しています。そんな恩のある天使のような女性を,わたしのような汚い男が抱くなんて,できません。あなた様の隣で添い寝できるだけで,天にも昇る気持ちです」

 金城ミルカ「・・・」


 そんなことを言われては,金城ミルカはもう何も言えなかった。でも,彼女は,なんとかシレイとエッチしたかった。自分の処女を捧げたかった。


 彼女は,なんとか理由をつけて,彼のあの部分を自分の手でやさしく触ってあげたた。すると,かんと,彼のあれは,長さ25cm,直径15cmにもなってしまった。金城ミルカは,ときどきはネットでエロビデオを見たことがあるが,そんなに大きな逸物など見たこともない。彼女はこの逸物を見て,さすがにビビってしまい,エッチする勇気を無くしてしまった。


 でも,反応させてしまった責任上,放出させてあげなくてはいけない。金城ミルカは,その日から毎日シレイのあれを放出させてあげた。ときどきは,自分の口で含んで,飲み込むこともあった。そんな時は,決まって体の調子がすこぶるよく,バトミントン部の練習試合で好成績を収めた。それに気を良くして,その後は,毎日シレイのを飲む習慣となった。


 そんなことしていると,彼のあれに対して恐怖心が薄れていき,近々,自分の処女をあげることをもくろんでいた。


 ただ,気がかりな点もあった。ときどき,シレイの体から強烈な血の臭いがした。シレイは,いったいどこで『狩り』をしているのだろうか?


★ーーー★


 金城ミルカの回想は終わった。この授業時間は,たまたま夏江先生の保健の時間だ。1週間に1回しかない授業だ。この日は,夏江先生の初めての授業だ。


 金城ミルカの回想が終わって,ふと,周囲の状況に気を配ると,相変わらず,授業妨害を趣味とする連中が騒いでいた。

 

 「爆乳先生,そのおっぱい見せてよ」

 「そうだ,そうだ。そのおっぱい見せないと,ぜんぜん授業に身が入んないよーー」

  

 などとヤジを飛ばす男子生徒がいるかと思えば,女性徒からは,以下のようなもっとひどいヤジが出る始末だ。


 「なに?あの胸!これ見よがしに左右に振っちゃって! 男連中に犯されればいいんだわ!」

 「フフフ,すでにワル連中に犯されたんでしょう?」

 「そうね。自分から誘っておきながら,やつらを警察に売るなんて,とんでもない先公だわ!」

 「そうよそうよ!あの爆乳は,わたしたちの敵よ!敵!!誰か,あの爆乳を犯しなさいよ!」


 こんなヤジが出る始末なので,夏江先生の胸に目はいくものの,まともに授業を受ける生徒はない。夏江にしても,こんなしょうもない連中に授業をする気など毛頭ない。それよりも,クラスの生徒を使って,覚え立ての呪詛で人体実験するほうがよい。確か,前任者より,保健の科目で試験をするようにとの指示だった。でも,今の反逆的な生徒の状況では,まともに試験などできそうもない。


 夏江は,手提げ鞄から,番号を振ったお守りを取り出した。クラス全員の分がある。35体だ。


 

 夏江「みなさーん。ヤジを飛ばすのはそれくらいにしてくださーい。今から,とてもいいものを皆さんに配りたいと思います」


 夏江は,そう言いながらお守りを全員に見えるように示した。


 夏江「このお守りは,頭がよくなるだけでなく,無病息災の効果もあります。わたしからのプレゼントです。大事にしてくださいね?」


 夏江は適当に嘘を言って,ひとりひとりにそのお守りを首にかけていった。その際に,お守りに『悲』という念を込めた。


 夏江は獣魔族のマキから魔法による呪詛技術を学んだ。その原理は簡単なものだ。種々の念を増強させるというもので,やはり呪符を使う。


 夏江は普通の紙にわずかな霊力をしみこませて,そこに『念強化魔法陣』を植え付けることで夏江流の呪符の元になる基呪符を完成させた。この基呪符のいいところは,虚道宗が行っている強力な念が不要な点だ。あとは,その魔法陣の中核に,いろいろな念を投射するだけでいい。『悲』,『喜』,『涙』,『恨』,『愛欲』,『催淫』,『催眠』,『殺』などなど多種多様だ。文字数は4文字までだ。


 夏江は,描いた念強化魔法陣の描写精度による違いや,念の種類の違いによる発現効果を,実際の人に試してみたかった。今回は主に『悲』の文字を使うことによる人体実験だ。


 首に掛けられた生徒は,急に大人しくなって,その場で悲しみに沈んだような状況になった。


 林サミコには,特別に『悲』ではなく『男性排除』という念にした。具体的にどのような作用になるのか,夏江にもわからないし,どのような文言がより有効なのかも不明だ。それを確認するのもいいと思った。


 他にも,反発する生徒がいたが,とりあえず全員にお守りをかけることができた。反抗的だった生徒も,悲しみの感情に支配されたのか,大人しくなった。


 夏江は,女性徒をひとりずつ,他の生徒から教卓の影になってみないように座らせた。夏江は,おもむろに陰部強度測定器を取り出して女性徒にその機器の説明をした。それは,直径3cm長さ10cmほどの棒状をしたもので,その表面には,高精度の圧力センサーが装備されている。それを膣の内部に3cmほど挿入するだけでよい。深部まで挿入する必要はない。そのため処女膜を傷つけることもない。


 夏江「これは,体内部の健康状態を調べるものです。陰部を少し刺激するけど,我慢してちょうだいね。では測定します。目を閉じてちょうだい」


 夏江からこんなことを言われても,その女性徒はなんら疑うこともなく夏江のなすがままにされた。膣に変な機器が3cm程度挿入されても,測定時間はわずか2,3秒なのですぐに終わった。悲しみに打ちひさがれている状況の女性徒にとって,その2,3秒の時間など,さほど気にしなかった。


 夏江は,出席簿に記載されている女性徒の名前のとなりに,総的結果を記載していった。35点,22点,42点,25点,,,,


 その中にあって,林サミコが96点,さらに金城ミルカに至っては,124点という高得点をたたき出した。


 夏江は,次世代の獣魔族の母となるべき女性徒を2人も見つけた。夏江は,もうこのクラスに用はないと思って,残り時間を自習にしようとした。


 すると,あるひとりの男子生徒が,悲しみ感情を打ち消して,正常な状態に戻り,自分にかけられたお守りを切り裂いて床に捨てた。


 彼は中条という名前で,剣道部に所属している生徒だ。ワルとまではいかないが,授業妨害を得意とする準ワルといってもいい。


 その彼は,夏江先生に文句を言った。


 中条「先生,いったい,そのお守りはなんなんですか? おれたちを廃人にでもしたいのですか?!」


 そう言って,自分と徒党を組んでいる準ワルの仲間に掛けられたお守りも,むりやり引っ張って取り外した。


 取り外された生徒は,「あれ? 俺,なんで,急に悲しい気分になったんだ?」

そう言って,しばらく呆然としていた。彼にとって正常な状態である,反抗的な態度に回復するまでには,少々時間がかかった。


 お守りを外しても仲間がすぐには正常に戻らないのをみて,中条は切れた。彼は,夏江先生に手を出すことにした。その結果,どのような厳しい処罰を受けるのかなど,考える余裕はなかった。


 それでも,退学,もしくは警察に捕まるかもしれないと一瞬頭をよぎった。でも,夏江先生に人権を踏みねじられて,飼い猫のようにされて授業を受けるなど,言語道断だ!! えーーい,ままよ!! 後のことは知らん!!


 中条「夏江先生ーー! 仲間に何をした?!」


 中条は,長さ40cmほどの短長の鉄棒をいつも携帯している。重さが重たいのと,長さが短いので,狭い空間でも素振りの練習ができ,同時に筋肉も鍛えることができる。


 中条は,この鉄棒であの爆乳を横から叩いてやろうと思い,3メートルほど先にいる夏江先生に向かって,鉄棒を振るった。


 その刹那,夏江は,念話で『防御して!』と『霊核』に訴えた。


 ダーン!(鉄棒と霊力の層がぶつかる音)

 

 その音は,鉄棒と人体がぶつかるような音ではなかった。その衝撃で,鉄棒が手から離れて数メートルほど飛んでしまった。その鉄棒は,他の女生徒の右腕に当たって地に落ちた。その女生徒は腕の痛みで意識を失ってしまった。


 ドーーン(中条が倒れて床にぶつかる音)


 その後,中条は脚に何かが絡まれてしまい,その場に倒れた。彼は,脚が何にひっかかったのかまったくわからなかった。それ以上に,鉄棒がなんで『ダーン』という金属とぶつかったような音をしたのか不明だった。


 中条「何だ? 何が起こったんだ?」


 中条は状況を理解できなかった。でも彼はもう一度夏江先生を攻撃すればはっきりすると思った。


 彼が転んだ原因は,夏江が無意識に彼を転べばいいと思ったことによる。その思いが『霊核』に伝わって,透明の霊力の触手が彼の脚を掴んでしまった。それを知った夏江は,心の中でクスッと笑ってしまった。


 彼はすぐに起き上がって,飛ばされた鉄棒を拾ってふたたび夏江に攻撃をしかけた。


 しかし,夏江は中条に再び攻撃の機会を与えることはしなかった。夏江は,暴力的な生徒には,それなりの罰を与えるべきだと考えている。でも,いちいち警察にやっかいごとを持ち込みたくもない。そこで,予備のお守りに念で『打自己脚』と念じた。つまり,『自分の脚を打て』という念だ。漢字は4文字以内でないと念強化魔方陣の中核に入らない。そこで,漢文の語順に従って文を組み立てた。


 その念を込めたお守りを中条に放った。彼は,飛んでくるお守りを避けようとした。しかし,左右にある机に邪魔されて,避けきることができず,そのお守りは彼の腹部に当たった。


 その直後だった。


 ドン!(自分の持った鉄棒で自分の脚を激しく叩く音)


 彼は無意識に鉄棒を自分の脚で叩いた。


 中条「痛てーーー!」


 中条は,その場でもんぐりかえった。それを見た夏江は,冷静に119番をして救急車を呼んだ。


 それにしても,魔獣族のマキから教えてもらった念強化魔方陣を応用した呪符,略して『強魔呪符』は,実用性に優れることがわかった。一般人が相手なら,1品の基呪符に相当する極僅かな霊力を用いた強魔呪符でも有効だ。わざわざ虚道宗で何年も修行する必要がないことも大きなメリットだ。


 救急車に運ばれていったのは,鉄棒で自分の脚を強打した中条と,鉄棒が飛んできて,右腕に当たった女性徒の2名だ。


 夏江先生は,クラスの担任でもあるため,その救急車に乗って運ばれる病院にまで同行した。


 いろいろと事後処理をした後,夏江が自分のアパートに戻ることができたのは,午後7時過ぎだった。


 ーーー

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