第20話 理事長の首

 理事長は,翌日,病院で目覚めた。すると,すぐに警察やら消防署員やらによる事情聴取が始まった。この火事で,スプリンクラーが稼働しなかった原因が徹底的に調べられた。消化活動によって,出火元の部屋は消防車の放水によって,めちゃめちゃになって,出火前の状況を復元するのが困難だった。そこで,厳しく理事長に出火の原因とスプリンクラーの不稼働について尋ねた。


 理事長からは,出火原因として,服を脱いだ時に静電気がでてしまい,それが原因で服に火が移って,さらにシーツ,布団へと延焼していったこと,スプリンクラーの不稼働については,わからないとだけ言った。


 その後,警察やら火災事故による保険会社の社員やら,ホテル側の管理者やらとの面談とやらで大変だった。しかし,さらに大変なことがあった。


 理事長の父親の秘書が理事長の病室にきた。


 父親の秘書「理事長,今回の火事ですが,女性徒と一緒にいた時に,出火したという事実,これはすでに警察だけでなく一部の新聞記者に漏れてしまいました。幸い,お父上である総裁の影響が効くところでしたので,なんとか公にならずに済みました。ですが,いずれ,他のマスコミにバレるのは時間の問題です。そこで,,,」


 父親の秘書は,コホン,コホンと咳ばらいをして話を続けた。


 父親の秘書「理事長には,明日付で華丸私立高校の理事長を辞任していただきます。これも,私立高校の評判を守るためです。強いては,華丸財閥の名誉を守るためでもあります」

 理事長「・・・」

 

 今の理事長に反論する余地はない。


 理事長「そうか,,,理事長は首か,,,フフフ,そうだな,,,まあいい。それで? 後任は誰なのかな?」

 父親の秘書「後任はまだ決まっていませんが,決まるまでは,わたしが臨時で代行させていただきます」


 父親の秘書は,ちょっと間を置いてから,話を続けた。


 父親の秘書「それと理事長が解任されたとなると,あなたのボディガードは不要になると思います。そこで,彼女には臨時にわたしの理事長業務の秘書役をおこなってもらおうと思います。なにせ,普段の理事長の仕事ぶりを一番間近で観察していたと思いますし,なんといっても,その方は女性ですから」

 理事長「何? いくら秘書役といっても,そんな頭もよくない女に務まるわけがない」

 父親の秘書「今は,性的なスキャンダルをこれ以上出さないことが大事です。その点,女性のボディガードのランさんはうってつけです。ご了解いただけますね?」

 理事長「・・・」

 

 理事長は何も言わず黙認した。


 父親の秘書はさらに話を続けた。


 父親の秘書「実は,あの火災のあった部屋でビデオカメラが見つかりました。消防署に裏から手を廻して入手したのです。その映像をみると,女性徒と理事長が一緒にいるところが映っていました」

 

 理事長はもう何も言えなかった。


 父親の秘書「理事長が女性徒のブラジャーを取ったあと,彼女は両手で胸を隠しました。その時,彼女のしているお守りが燃えだしました。慌てた理事長は,それを払いのけたのですが,火のついたお守りがベッドのシーツや布団に火が移ってしまった」


 ここで彼は一呼吸置いた。


 父親の秘書「このようなことが2度と起きないように,今回の出火原因については,われわれの方で調査させていただきます。あっ,そうそう,赤点をとった女性徒たちの対応ですが,すべて,ランさんに引き継ぐようにします。理事長は,もう何も気にせずに静養してください」


 父親の秘書は,そう言って,病室から出ていった。


 理事長は,出火原因の調査権どころか,女性徒とエッチをする機会さえも奪われたことを知った。



 ーーー

 出火事故が起きた3日後,華丸私立高校の全校生徒が体育館に集められた。もちろん教師全員も集合した。そこには,華丸財閥総裁の秘書も出席していた。この場にいる最高責任者だ。


 彼は舞台の上に立って,全校生徒と全教師に説明を始めた。


 総裁秘書「すでにニュースで知っていると思いますが,理事長が借りているホテルの部屋で火災が発生しました。たまたまその部屋にここの女生徒がいましたが,幸い,理事長が彼女を無傷で救い出しました。


 ですが,一部ではやれ不倫だの,不純行為だのと報道するゴシップ記事も出てしまいました。


 そこで,われわれ管理側としましては,これ以上の悪評を避けるため, 理事長には,出火事件を起こした翌日に退任としました。後任ですが,正式に決まるまでは,僭越ながらわたくしが臨時に理事長として就任します。ただし,わたしは別の仕事もありますので,この高校にはわたしの秘書であるランが理事長室に居るようにしておきます。


 ラン,挨拶しなさい」


 この言葉を受けて,臨時理事長の秘書であるランが挨拶した。ランは,事前に臨時理事長から指示を受けた内容をメモ書きした紙を拡げて,そのメモを見ながら挨拶した。


 ラン「皆さん,わたくし,臨時理事長の秘書を務めることになったランといいます。今後,臨時理事長への連絡はわたしを通して行ってください。さて,臨時理事長からの通達を伝えます。


 以前,赤点を取ってしまい,退学を待つ生徒がいるようですが,何らかの方法で救済措置を取りたいと思います」


 この話を聞いて,赤点を取った女性徒たちは,心の中で『やったー!!もう理事長にセクハラを受ける必要はない』と叫んだ!


 ラン「さらに,今後,この学校に名誉なことをもたらす生徒もしくはクラブには,大幅に増額した報奨金を与えることにします。それ以外に,本人に何か願い事があれば,できるだけ叶えるようにします。

 皆さんは,これまで以上に勉学に,そして,クラブ活動に励んでください。以上が通達内容です。わたしからは以上です」


 ランはマイクを総裁秘書に渡した。


 総裁秘書「さて,秘書から通達してもらったこと以外ですが,この学校に,不名誉なことをもたらした生徒には,厳罰を与えることになります」


 総裁秘書は,ランにマイクと一緒に1枚の紙を渡した。ランはその紙を見ながら言った。


 ラン「今から呼ばれる生徒は,舞台の前に来てください。蛭部真人,鈴木健太,真鍋勇,隼晴海,御劔西都,以上の5名です」


 ランが読み上げたのは,林ミサコにレイプ未遂事件を起こし,夏江先生の爆乳を犯したワル連中5名だ。呼ばれた彼らは,何事かと思いつつも,舞台の手前に出てきた。


 総裁秘書は,マイクを使わずに,舞台裏で隠れている人たちに向かって言った。


 総裁秘書「多留真さん,ご依頼の生徒たちを呼びました。後はよろしくお願いします」


 その言葉とともに,舞台裏で隠れていた10名ほどの警察官が一斉に出てきて,あっという間に彼らを拘束した。その後,多留真は,簡単に罪状を述べた。


 多留真「君たちは,女性徒への暴行容疑で,緊急逮捕される」


 緊急逮捕は逮捕状がなくても逮捕可能だ。多留真は夏江から送られた情報を証拠として,緊急逮捕の必要性ありと上司の了解を得て,僅か4日間という短い時間で,緊急逮捕にもってきた。その際,新しく臨時理事長になった総裁秘書と連絡を取り合って,今回の逮捕劇となった。


 逮捕された5名の生徒は,その場で手錠をはめられて連行された。


 多留真は,臨時理事長である総裁秘書にお礼を言った後,夏江のところに寄ってきた。


 多留真「フフフ。4日間での逮捕だ。また,連絡する」


 多留真は夏江の爆乳をチラチラ見ながら去っていった。


 夏江の隣にいた教師は,小声でささやいた。


 教師「あの警察官って,結構ハンサムね。夏江先生の恋人?」

 夏江「以前は,私の上司でした」


 この何げない会話は,その近くにいた生徒に聞かれてしまった。『夏江先生が蛭部たちを警察に売った』と,瞬く間に生徒たちの間で広まった。


 この噂を聞いて,喜びの涙を流したのは林サミコだ。思わず,立つこともできずに,その場でうずくまって泣いてしまった。


 逮捕劇が終わった後,総裁秘書は,マイクで全校生徒に伝えた。


 総裁秘書「悪いことをすれば,警察に捕まるのは当然のことです。学校側は,罪を犯した生徒を庇うようなことは一切しません。信賞必罰は世の常です。肝に銘じておくように」

 ラン「以上で全校集会を終わります。解散ください」


 全校生徒は解散した。だが,全員の顔色は悪かった。まさか,この場で警察が来て,緊急逮捕を行うとは思ってもみなかった。


 総裁秘書は去り際に,ランにひと言言った。


 総裁秘書「あの巨乳の教師,あれは生徒をダメにする。採用の経緯を調べて報告しなさい」

 ラン「了解しました」


 かくして,夏江はその爆乳のせいで総裁秘書に嫌われてしまった。


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