第19話 呪詛と呪符

 自分の家に戻った林サミコは,自分の身代わりになった夏江先生のことを思って,自責の念に耐えなかった。でも,今の自分ではどうすることもできない。夏江先生のおかげで,なんとかワルどもにレイプされなかった。せっかく,処女を守ることができたのだから,これから大事にしていこうと思った。それが,夏江先生への恩返しになると思った。

 

 ブルルルル!


 携帯に着信メールが来た。それは金城ミルカからの催促メールだ。早く彼女の家に来なさいという内容だ。


 まだ気持ちの整理がついていない。このままこのメールを無視して,理事長が与える献身点を放棄して,退学になってもいいのかもしれないとさえ思った。でも,,,でも,せっかく,夏江先生が身を呈して救ってくれたのだから,夏江先生のために,いや,夏江先生がいる間はなんとか学校に行こうと考えた。


 林サミコはメールで送られた住所の場所に行った。そこは,金城ミルカのアパートだ。彼女は両親から離れて一人暮らしをしていた。


 金城ミルカのアパートに着いた林サミコは,アパートの中に通された。8畳の部屋と台所,トイレ,バス付きの部屋だ。勉強机のところに,ひとりの青年が座っていた。


 金城ミルカは,その青年を林サミコに紹介した。


 金城ミルカ「林さん,彼は覚えているわね? シレイさんよ。以前,喫茶店で一緒に勉強したとき,頭がよくなる催眠術をかけてもらった人よ」


 林ミサコは,改めて彼をみた。以前,喫茶店で会ったときは,眼鏡をかけていて,素顔をはっきりと見ることはなかった。今の彼は眼鏡をかけていない。それでも,顔の大部分は髪で覆われていて,はっきりと素顔をみることはできなかった。歳の頃は彼女と同じ15歳くらいだ。

 

 金城ミルカは林サミコの返事を待たずに話続けた。


 金城ミルカ「これから理事長のホテルに行ってもらうけど,気持ちの整理がなかなかつかいと思うの。そこで,精神を落ち着かせる催眠術を受けてもらおうと思うの。この催眠術を受けることも,献身点の獲得になるのよ。5点ももらえるわ」

 

 そう言って,金城ミルカは,1枚の書類を渡した。それは,『精神安静の催眠術を受けました』という証明書になっていて,献身点5点を与えるということも書かれていた。


 金城ミルカ「この催眠術を受けることで,冷静に判断ができるようになるわ。理事長からの誘いにのってもいいし,断ってもいいのよ。その判断が冷静に行えるという優れた長所があるわ」


 そんな子供だましを信じる者は誰もいないと思った。それに,以前,頭のよくなる催眠術を受けたものの,まったくそんなことはなく,返って頭が混乱して赤点を取ってしまったからだ。本当は拒否したいところだ。でも,献身点5点もらえるのなら,受けてもいいと思った。


 林サミコ「わかりました。どうぞ」


 以前の催眠術は,自分のしている腕時計を催眠術師のシレイに渡すだけだった。人体に施すような催眠術ではない。今回も,前回と同様に腕時計を彼に渡すだけだった。


 10分後,シレイはその腕時計を林サミコに返した。


 林サミコは催眠術が施された腕時計をはめた。そのとき,ちょっと,シレイと金城ミルカとの関係が気になったので,そのことを聞いてみた。


 林サミコ「あの,,,シレイさんと金城さんは,どんな関係なのですか?もしかして,,,一緒に住んでいるのですか?」


 林サミコがそう質問したもの,金城ミルカのベッドからシレイの臭いがして,しかも,ベッドには愛液のようなもので濡れていたからだ。


 その質問に,金城ミルカは,ケラケラ笑った。


 金城ミルカ「わかる?そうよ。シレイはちょっと訳ありでね。ここでかくまっているの」

 林サミコ「かくまっている?」 

 金城ミルカ「そうよ。かくまっているのよ。フフフ」


 林サミコには,この『かくまっているの』という言葉がなんとも奇妙に感じた。シレイは家出でもしたのだろうか? どうやって金城さんと知り合いになったの?? でも,これ以上聞くのは止めにした。


 林サミコはその後,いくつか言葉を交わしたあと,理事長のいるホテルに向かった。その道すがら,なんども腕時計をみた。しかし,なんら異常を感じなかった。彼女はひとりごとをつぶやいた。ただ,全身が徐々に火照ってくるのを感じるだけだった。


 林サミコ「いったい,この催眠術って,ほんとうに効果があるかしら?どうせ眉唾物ね。理事長に会って体を求められるなら,きっぱりと断るわ。それで退学になっても構わない。夏江先生には,別の形で恩返しをすればいいわ。 フフフ,こんな判断ができるのも,催眠術のおかげなのかな?」


 林サミコは,気持ちの整理をつけて,理事長のいるホテルに着いて,彼のいる部屋をノックした。


 理事長は,風呂あがりだったのか,バスローブを着ていて,林サミコを迎入れてた。


 理事長「林サミコ君だね? まあ,そこのベッドに腰掛けなさい」


 林サミコはベッドの上に腰掛けた。彼女はつい先ほどから,体が火照ってくるのを感じていたが,それが急に激しくなってきた。特に下半身がよくうずくようになって体全体が鋭敏になってきた。

 

 理事長は彼女の隣に座って,彼女にやさしく肩を触った。


 理事長「どうだ?献身点がほしいのだろう?」


 そう言いながら,彼女を自分の懐に抱いて,服の上から胸を触った。林サミコはその刺激で全身に電気が走った。本来なら,『止めてください!』と叫ぶところだ。でも,今の状況では,この言葉さえも出せないほど体が鋭敏に反応した。


 理事長は,林サミコが何も反抗的な態度を示さないので,金城ミルカが行った催眠術が有効に働いていると思った。それならば,,,


 理事長「何も言わなくていいんだよ。やさしくしてあげるからね」


 理事長は,そう言いながら林サミコの上半身の服を脱がせた。林サミコはただ全身に電気が走りっぱなしで,まともに目を開けることができなかった。理事長は口が涎が出るかのようにして,彼女のブラジャーをゆっくりと外していった。


 林サミコの体は小刻みな痙攣が走りだした。しかし,そんな刺激を受けていても,ブラジャーを外されたとき,彼女はとっさに自分のEカップにもなるおっぱいを両手で隠した。


 その際,腕時計が彼女の首にかけられたお守りに接触した。


 パチッ!パチッ!


 お守りと腕時計が接触したとき,火花が走った。その火花はお守りを覆っている布製の袋に着火した。


 理事長「え? 燃えている!」


 理事長は,林サミコのお守りが燃えだしたのにびっくりして,とっさにそのお守りを払った。そのお守りのヒモが切れて,布団の上に落ちた。


 ボォォォォーー!!(シーツが燃え広がる音)


 ベッドのシーツが燃え広がって,さらに布団にまで燃え広がった。理事長は,一瞬何がおきたのかわからなかった。


 理事長は,それでも,すぐに林サミコをベッドからどかして,スカートに着火するのを避けた。


 ベッド全体が炎で包まれた。さらに壁材にまでは拡がっていった。


 理事長は,もう消化は無理だと判断して,林サミコを抱いて部屋から出た。この時になって,初めて火災警報器が鳴った。


 ビビビビビーーーー!!


 本来なら備え付けのスプリンクラーが稼働するはずだ。でも,稼働しなかった。開けたドアから煙がどんどんと出てきた。


 理事長は,林サミコを抱いたまま廊下に出て,中腰になって煙を吸うのを避けながら,よろよろとして,非常階段に向かった。


 このフロアにいた他の部屋の住民が慌てて部屋から出てきて,「火事だーー!逃げろ!」と叫びながら,非常扉を開けて,非常階段から逃げていった。他のフロアの住民も同様に,非常階段から逃げた。


 「じゃまだ!どけろ!!」

 

 こんな状況では,よろよろと歩いているような者は邪魔でしかない。林サミコを抱いている理事長は,パニックになった避難者たちによって,退けられて壁にぶつけられて,その場で倒れてしまった。中には,理事長や林サミコを踏んでいく者までいる始末だ。彼らを助けて起こそうという者はいなかった。


 すでに煙が廊下の上部を這ってしまい,一刻を争う状況だからだ。


 理事長はこのフロアで一番最後の避難者となって,やっと,非常階段に辿り着いた。上層階から避難者が次々とこの非常階段から降りていった。結局,降りてくる人がいないのを待ってから,一番最後に降りることにした。


 途中,消防員らと遭遇して,林サミコを彼らに託した理事長は安心したのか,その場で意識を失った。


 ーーー

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