第11話 デビュー作

 

 夏江の妊娠期間は,男性とエッチする機会がない。そこで,AV女優として,寝る前に義務である自慰行為をする必要がある。だが,今の妊娠中の夏江にとって,性欲はまったく起こらなかった。


 いくら自慰行為をしても,絶頂を感じることはなかった。そこで,已むなく,以前,虚道宗を訪問した際に入手した催淫呪符を使うことで,なんとか絶頂を感じることができた。


 妊娠3日目,お腹はもう通常の人の妊娠5ヶ月程度のお腹になった。でも,歩くには支障はない。


 この日,夏江は,孔喜AV企画(株)の事務所に訪問することにした。マキが気を利かして,運転手付きの車を貸してくれた。片道2時間程度の距離だ。


 夏江は,七つ星財閥の総裁の依頼が完了したことを報告した。


 総裁には,本来,訪問して呪詛が解除されたことを連絡すべだが,身重の状況なので,メール連絡ですました。謝礼金は300万円もらうことになった。


 AV監督は,夏江に貸した指輪を外させて,そこに記録された映像を高速でスキャンした。


 監督「夏江,最低限のAV女優としての仕事はしているようだな。では,次の『巨乳除霊師・夏江』として仕事を依頼する」


 夏江は,AV監督の言葉を遮った。


 夏江「あの,実は,その映像にもあるように,わたし,魔獣族の子を妊娠しました」


 そう言って,これまでの経緯を説明した。


 夏江「それで,自分の懇意にしている霊魂がこの胎児の中に宿しています。その子を引き取る条件で,半年ほど私立高校の保健士として働く予定です。どうか許可をください。『巨乳除霊師・夏江』の仕事は半年ほど休業したいと思います」


 この話を聞いて,AV監督は,映像マンの顔を見た。その意味は『隠蔽映像魔法陣』が半年も持つかどうかの確認だ。

 

 映像マンは,首を横に振った。


 監督「半年は無理だ。1ヶ月が限界だ。隠蔽映像魔法陣は1ヵ月しか持たないからな。何度も言うが,お前はAV女優だ。除霊師の仕事であれ,学校の先生の仕事であれ,AV女優に相応しい映像を撮れさえすればいい。でも,相応しくない映像なら,ノルマを追加する!!」

 夏江「ノルマの追加?」

 監督「そうだ。例えば,公園で野宿している100人の乞食どもに犯されろとかだ」

 夏江「・・・」


 夏江は,それは決して冗談ではないと思った。


 監督は,自分の持っているタブレットを夏江に見せた。そこにはエロマンガが表示されていた。夏江は,それをペラペラと見た。そこには,女子教師が男性の生徒に輪姦されるという定番ストーリーだ。


 監督「この1ヶ月で,すくなくとも,このマンガ以上の映像を映せ。それがなければ,ノルマを加える。それも果たせないとなると,お前は首だ」

 

 映像マンは,『首だ』の意味を補足説明した。


 映像マン「首とは,あなたは強制的にここに連れてこられて,リンチを受けて殺されることを意味します。殺されて,肉体がバラバラにされることろまで映像化されます。それがあなたの最後のAV女優としての仕事になります」

 夏江「・・・」


 AV監督は溜息をついて,ちょっと夏江を慰めた。


 監督「別に,俺はお前を殺したくはない。でも,その『隠蔽映像魔法陣』にしても,魔法石をかなり消費する。それなりにお金がかかっている。それ相応の映像が撮れないと投資金額を回収できない。わかってくれるかな?」

 夏江「・・・,わかります」


 AV監督は,強く頷いて納得した。彼は映像マンに夏江の『隠蔽映像魔法陣』やそれを録画する指輪の再設定をさせた。


 一通りの作業が終了して,夏江は解放されて,車でマキのマンションに戻っていった。


 夏江が去った後,AV監督は映像マンに言った。


 監督「お前,『首だ』の意味を,なんともひどい表現で表したな」

 映像マン「へへへ。そうでも言わないと,彼女は,輪姦される勇気まで出て来ませんよ」

 監督「そうもそうだ。でも,あの夏江,なかなかいい映像を撮ってきたな」

 映像マン「はい。やっぱり魔獣族とのエッチシーンは,見応えがありますね。あの男優の逸物は,直径17cmにも及んでいましたよ。魔獣族の中でもかなりの大きさですぜ」

 監督「ああ,まったくだ。それを平気でなんなく受け入れるとは,霊力使いのあれは,恐れ入ったもんだ」

 映像マン「はい,それだけでなく,あの男優が射精するたびに,徐々に自分の寿命を縮めていくのもはっきりと映っていました。自分の命を犠牲にするエッチシーンなんて,そうめったにありませんよ」

 監督「うわさには聞いていたが,霊力使いはほんとうにエッチで相手の寿命を奪うのだな。よし,その部分の映像は,特別にAI変換技術で高画質に編集しなさい。完成したら,彼女にもそれを見せてあげなさい」

 映像マン「そうですね。初めてのAV女優としてのデビュー作ですからね」

 

 そんな会話をしながら,大きなモニターで流れている夏江とポールのエッチシーンを眺めていた。


  ーーー

 夏江は,車の中でポロポロと涙を流しながら,みるみるうちに大きくなるお腹をさすった。そこには,美澪の魂を宿した胎児もいる。


 夏江『美澪,,,元気で生まれてね。あなたのために,わたし,,,AV女優に徹することにするわ』


 AV女優に徹っすること,それは男子生徒に輪姦されることを甘んじることだ。しかし,心のどこかで,自分のプライドが邪魔してした。ポールに犯されるのは,まだ,目的がはっきりとしている。人助け,いや,幽霊助けになるという言い訳がある。でも,男子生徒に輪姦されるのを甘んじるのは,さすがに受け入れ困難だ。


 それを甘んじて受け入れなければならない。夏江は,いったい,自分はなんのためにこんなことをしているのかと,発狂しそうになった。涙がとめどもなく出てしまった。


 夏江はふと母乳のことを思った。そう言えば,妊娠してから,ほとんど母乳が出なくなった。妊娠したのなら,母乳はもっと出てもいいはずだ。それは,性欲と関係していると思ったが,深く考えるのは止めることにした。考えれば考えるほど,自分が嫌いになってしまうからだ。


 

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