第7話 ミサルにもう用はない

 警察の関係者が安易に人を殺して,そのまま放置していいのか,夏江自身も一瞬迷った。でも,警察に連絡すれば,数日間は拘束されてしまう。夏江は自分の仕事を優先して警察に連絡せずに放置した。


 夏江は,自分の頭に飛び込んで来たサイコメトラーによるイメージが示した場所に向かった。新宿にあるマンガ喫茶だ。


 そのマンガ喫茶で,夏江は警察手帳を出して,田中ミサルがいるかどうかを聞いた。その警察手帳は厳密には警察手帳ではない。顧問契約しているという簡単な証明書だ。でも,外観は警察手帳とさほど変わりはないので警察手帳で通じた。


 夏江は田中ミサルが借りてる部屋番号をゲットした。


 その部屋に行ってみると彼はいなかった。彼はこの部屋を,すでに1週間以上も借り続けていた。


 夏江は,机にあるパソコンのマウスに触ってみた。すると,頭の中に彼がこのパソコンで頻繁にメール連絡している様子が浮かんだ。しかも,メールのパスワードも判明した。


 夏江『申し訳ないけど,彼のメールを開きましょう』


 夏江は,パソコンを起動して,彼のメールを開いた。そして,最近のメールから徐々に遡って,3年前のメールも読んでいった。


 メールを読み始めて,2時間ほど経過した。夏江は,このメールのやり取りを読んで,田中ミサルとエミコの関係が分かってきた。


 夏江は,これからどうしたものかと考えていると,開閉扉が開いて,歳が40代前半くらいの男性が入ってきた。


 入ってきたといっても,たかだか2畳くらいしない狭い部屋だ。2人がいるだけで,部屋に空きスペースはほとんどなくなった。


 入って来た男は果たして田中ミサルだった。夏江は,この場所がマンガ喫茶であり,声をあげるのはこのましくない場所だと知っている。そこで,無言のまま警察手帳を彼に示した。


 ミサルは,近くの喫茶店に場所を変えるように提案して,夏江も同意した。


 喫茶店に移動して,田中ミサルから夏江に声をかけた。


 ミサル「あなたの警察手帳は本物ではないな。あなたはいったい誰なんだ?」

 夏江「あら?よくわかったわね」

 ミサル「危ない橋を渡っているので警察の情報には詳しくなった」


 夏江はニコニコと微笑んだ。蛇の道は蛇。どんなことをするにも専門知識は必要になるものだと思った。


 夏江「わたしは夏江よ。今は,『爆乳除霊師・夏江』として世間に名を売っているわ。もうわかるでしょう?なぜ,わたしがここに来たのか?」

 ミサル「・・・」


 ミサルは,およそのことを理解したが,夏江から口頭で説明してほしかった。


 ミサル「わたしの居場所など誰にも教えていない。どうしてわかったんだ?」

 夏江「そうね,,,わたしは『爆乳除霊師・夏江』よ。そんなこと容易に分かるわ。ともかく,ここに来た経緯を説明してあげましょう」


 夏江は,コーヒーを一口飲んでから説明し始めた。


 夏江「わたしは,七つ星財閥の総裁に依頼された除霊師よ。彼の左手にかかっている呪詛を解除するのが仕事よ。彼の左手には,エミコさんの霊魂が纏わりついていたわ。エミコさんは,七つ星財閥の関連会社に努めていたのでしょう?それで,彼女の実家の場所もわかったの。そこで,ミサルさん,あなたのアパートの住所を教えてもらったわ。そこに行ったら,変な連中がたむろしていたの。わたし,そこで手籠めにされてしまったわ。この大きなおっぱいが奴らの手によって犯されてしまった,,,」


 夏江は,ここで泣く真似をした。でも,泣く真似をしたら,ほんとうに涙が出てきてしまった。


 ミサルは,奴らなら当然そうするだろうと思ったので,別に驚かなかった。


 ミサル「奴らは,手籠めだけで済ませるような連中ではない。どうやって抜け出して来たんだ?」

 夏江「なんか,しらないけど,奴ら,死んだみたいよ。今でも,あなたの部屋で死体となって転がっているわ。頭と胴体が離れてた状態でね」

 ミサル「まさか,それって,お前がやったのか?」


 その言葉に,夏江は返事せずに,話を進めた。


 夏江「それはともかく,あなたの部屋にあったジーンズに触ったの。そこからあなたがここいるという情報を読み取ったのよ。どう?『爆乳除霊師・夏江』って,すごい霊能力があるでしょう?」


 夏江は,自分の能力を誇示した。いずれミサルは夏江の宣伝マンになることを期待しての台詞だ。


 ミサル「まあいい。先ほど,俺のメールを見ていたろう?パスワードはどうやって見つけたんだ?」

 夏江「そんなの,あなたが使ったパソコンなら,すぐに読み取ることが可能よ。だって,わたし,『爆乳除霊師・夏江』だから!」


 夏江は,片方で8kg,両方で16kgにもなる爆乳を突き出して,自分の爆乳を誇示した。


 ミサル「・・・」


 ミサルは,夏江のその超爆乳に,何か得体の知れない何かが隠れているような錯覚を覚えた。


 夏江は,話を進めた。


 夏江「わたし,あなたのメールを読んで,エミコさんとあなたの関係がだいたいわかったわ。エミコさんは,総裁に片思いをしつつも,あなたと肉体関係にあったのでしょう?そう理解しないと,あなたがエミコさんのために,そこまで一生懸命になるわけないもの」

 

 ミサルはこの言葉に対して否定しなかった。


 夏江「エミコさんが不治の病にかかってしまってから,あなたは彼女のために,祈祷師や霊能力者など,奇跡の力で病を治す人物を探した。その謝礼金はかなりの額になったのね? とてもあなたが真面目に働いて返せるような金額ではなった。借金も溜まっていったのでしょう?にっちもさっちもいかなくなって,結婚詐欺まで手を伸ばした。幸い,あなた,見栄えはいいようだら,モテたでしょうね」

 

 夏江は,さらにコーヒーを一口飲んでから話を続けた。


 夏江「でも,残念なことに,このような努力をしても,エミコさんの病は一向に良くならなかった。


 エミコも,自分がもう助からないと知って,せめて死後は霊魂が片思いの総裁ガレルダさんの側に居続けるようにしたいとあなたに訴えた。あなたは,その依頼を受けて,いろいろな霊能力者,霊媒師,呪詛師,陰陽師,高僧などに連絡をとっていった。


 そして,最後に探し当てたのが,マキと呼ばれる呪詛師ね? エミコさんが死んだ後,すぐにマキという呪詛師が来て,エミコさんの霊魂を人形に移した。その後,総裁ガレルダさんの髪の毛をなんとか入手して,その人形の左腕に巻きつけ,マキの霊能力の魂力,つまり,霊的なパワーのことですけど,その力を借りて,エミコは総裁の左腕に纏わりつくことができるようになった。どう? わたしの話,間違っていない?」


 この話に,ミサルはびっくりした。メールのやりとりだけでは,ここまで読み取ることは絶対に不可能だ。


 ミサル「お前,メールの内容には,そこまではっきりと書いていないぞ?どうして,そこまで分かるんだ?」

 夏江「わたし,『爆乳除霊師・夏江』よ。もっと別の表現を借りれば,爆乳除霊師にして,『サイコメトラー』の夏江よ! メールを開くたびに,その時の情景が頭の中に浮かんできたのよ。フフフ」


 夏江は勝ち誇ったように言った。彼女は,ようやく核心に近づくことができたので,ちょっと有頂天になっていた。


 夏江「そのマキという呪詛師に会いたいのだけど,住所や連絡先,教えてくれる?」

 ミサル「メールのアドレスはわかるだろう?」

 夏江「メールではダメね。無視されるのがオチよ」

 ミサル「メール以外連絡方法はない。電話番号は非通知でかかってくるから,こちらから電話連絡はできない」

 夏江「そうなの?じゃあ,,,マキから何か受けとった物はある? それを私に触らせてちょうだい」

 

 ミサルは,ちょっと考えてから言った。


 ミサル「今は,霊魂になってしまったエミコにとって,大事な時期だ。お前なんかに教えるか!!」

 夏江「大事な時期?それって,エミコさんが新しく肉体を得るという話?呪詛師のマキが,女性をあさっているって,メールに書いてあったわね」

 ミサル「ああ,そうだ。女性に妊娠でもさせて,その胎児にエミコの霊魂を埋め込むのだろう。フフフ。赤ちゃんからやり直すことになるが,それでも肉体が手に入るんだ。エミコは復活する!!」


 夏江は,いやな顔をした。


 夏江「そんなこと,ほんとうに信じているの? 神でもないかぎり,絶対に不可能だわ。そんなこと」

 ミサル「あのヤクザどもから薬物を奪って,3億円もマキに支払ったんだ。絶対に可能だよ。それに,お前にマキの邪魔はさせない。マキの連絡方法など,仮に知っていても教えるもんか!!」

 

 夏江は,このままではラチがあかないと思った。最後の切り札を出すことにした。

 

 夏江は5品の催淫呪符を取り出して机に置いた。


 夏江「これって,なんだかわかる?」

 ミサル「何かの呪符のようだが?」

 夏江「そうよ。呪符よ。それも催淫呪符よ。相手の性欲を高めるというものよ。下手な催淫剤よりも安全で有効よ。つい先ほど,この呪符を発動させたわ。どう?あなたの下半身,反応してきたでしょう?」

 

 そう言えば,先ほどならミサルの下半身がビンビンになってきた。彼は夏江の爆乳のせいでこのような変化を引き起こしたと思った。しかし,それは間違いでこの呪符のせいだった。


 夏江は,少し胸元を押し下げて,深々とした胸の谷間を彼に見せた。


 夏江「マキから受けとったものを私に触らせてくれるだけでいいのよ。そしたら,ラブホテルに今すぐ行ってあげるわ。母乳だって吸わせてあげる。わたしの乳首,特別製だから,それを使ってあなたをイカせてあげる」


 ミサルは,どうするか迷った。でも,突き上がって来る性欲にあがなうことはできなかった。


 彼は,鞄から木箱を取り出した。そして,それを夏江に渡した。


 ミサル「触るだけだぞ!!触ったらすぐに返しなさい」

 

 夏江はその木箱を受けとって,その箱を開けた。そこには,人形が収められていて,左手に髪の毛がくるまっていた。総帥の髪の毛だ。


 夏江は,これが呪詛の原因かと思った。今,この人形を焼いて消滅させれば,呪詛を解除することができる。


 でも,そんなことをしても,一時しのぎにすぎない。マキは,新しい人形を用意して,呪詛を継続させるだけだろう。根本解決にはならない。


 夏江は,その人形に触った。


 シュッ!シュッ!ーー(映像が夏江の頭に飛び込んで来る音)


 いくつかの映像が夏江の頭の中に飛び込んで来た。

 

 夏江はニヤッと微笑んだ。そして,その人形を入れた木箱を閉じて,それをミサルに返した。


 夏江「お返しします」


 ミサルは,それを受けとって鞄にしまった。


 ミサル「よし!では,この裏地にラブホテルがある。そこに行くぞ!」

 夏江「わかりました。ちょっとだけ,眼をつぶっていただけますか?2秒だけでいいです」

 

 ミサルは,わけがわからずに同意して,眼を閉じた。


 夏江は『霊核』に命じた。


 夏江『彼をちょっとだけ気絶させて』


 トン!


 夏江の膣から霊力の腕が繰り出されてミサルの後頭部を強打した。彼は机によりかかるようにして気絶した。夏江はミサルの鞄から木箱を取り出して,自分のリュックサックの中に入れた。


 夏江は喫茶店の店員に言った。


 夏江「彼,ちょっと急に眠気が出て,あの体勢で寝てしまったわ。悪いけど,30分後に起こしてちょうだい」


 夏江は店員に1万円を渡して,その喫茶店から出ていった。もうミサルに用はない。

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