第5話-勘違い-
ふわふわ、ぽやぽや。
好きな子に大好きって言われるのって、抱きしめられるのって、こんなに、こんなに嬉しいことなんだ。
幸せでしあわせで、今のこの時間が一生終わって欲しくない。
そう思うほどに非現実的であったかい幸せな時間は、晴の一声で現実に引き戻された。
「ねぇ、うい。」
名前呼ぶ声は酷く優しい。そう、まるで幼子をあやすお母さんみたいな。
「なんでさっきごめんねっていったの?」
じっと見つめられてそう聞かれて、心臓がどくどく暴れ出す。
そうだ、そうだった。
晴はあの男子からの告白を受けるつもりなんだ。
そう思い出した瞬間また涙が出てきて溢れそうになる。
目を逸らして誤魔化そうかと思ったけど、晴は
「話すまで見続けるから」
なんて言いたげな瞳でこっちを見てくるものだから、咄嗟に言ってしまった。
「だって、だって晴、男子から呼び出されたんでしょ…?そ、それって告白なんでしょ?いつもだったら話なんて聞きに行かないじゃん!だっ、だから、だからぁ……せ、晴は自分がうっとおしいから、彼氏、つくるんでしょっ…!」
涙が頬を伝う。
口に出して言ってみると恥ずかしくて、悔しくて、苦しくて、よくわかんない感情になる。声は上擦っちゃったし、噛み噛みだったし、言ってることもぐちゃぐちゃ。
でも、晴は。
そんな自分のぐちゃぐちゃな言葉を、ぐちゃぐちゃな感情を、丁寧にていねいに拾ってくれて、伝えてくれた。
「ねぇ、うい。私、ういが大好きだよ。他の奴らとは、比べ物にならないくらい。鬱陶しいなんて思ってないよ。雨依がたくさん一緒にいてくれて嬉しいよ。っていうか、神木くんの呼び出し、告白じゃないよ?」
そう言って晴は
「ふふふっ」
と笑った。ちょっとからかうような目で。
でも、優しく。
「ん、ぇ……?」
最初に思ったのは疑問。
「だーかーらっ!私は告白に呼び出されたんじゃなくて、神木くんの彼女にプレゼントを渡したいから相談に乗ってくれって、言われたの。」
次に思ったのは、羞恥
頭の中に晴の言った言葉がぐるぐると回る。晴は告白の呼び出しなんかされてなくて、ただ単に相談をされただけ。
相談、そうだん………ってことは、自分が勝手に思って、悩んで、想像して、体調にまで影響をもたらしたことは、すべて、勘違いだったということになる。
勘違い、かんちがい………。
そう認識した瞬間体がぶわっと熱くなる。
汗がだらだらとでてきて、自分はなんて羞恥を晒してしまったんだ、と思う。
この場から逃げ出したい一心で俯いてると、晴が一言。
「ふふ、雨依ちゃん、顔真っ赤〜。」
なんて言いながら頭を撫でてきた。
そしてまた、言葉をつむぐ。
「そんなに気にすることないよ?私、ういちゃんに愛されてんな〜って感じてうれしいもんっ!」
あの、もう、はい。晴には勝ち目がないです…。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
あのあと、保険の先生に
「もうだいぶ顔色も良くなったね。1人で帰れる?」
って言われて、
「帰れます。」
って言ったけど、晴が
「危ないから着いていきまーす!!」
って言って結局2人で一緒に帰った。
帰り道に晴が相談を聞きに行くって言ったのを思い出して、
「学校に残らなくてよかったの?」
って聞いたけど、
「神木くんより、雨依の方がずっと大事。」
って言われたから嬉しかった。
顔が赤いのを気づかれないように前を歩くのに必死だった。
でも結局晴にバレて、2人で一緒に笑った。
あぁ、これが幸せなんだって思った。前世ではなかった自分たちの幸せ。
この幸せの破片を集めて、もっと、2人で、幸せになろう。
ねぇ、愛してるよ。晴。
昔も今も。この先ずっと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます