第121話 日常訓練
「やっ、はあ!」
次の日――
今のままではアヌンナキの兵器と戦ったところで、いつか必ず命を落とすだろう。
前回のような奇跡が何度も起こるとは限らない。
戦闘訓練よりも装備を底上げしたほうが、手っ取り早く強くなるが、それよりもまず基礎を固めるべきだ。
幸いながらイーラの根性と身体能力はかなりのもので、それなりの戦闘の心得もあった。
毎日
正直ダンにしても怒鳴り散らしながら限界まで走らせるのは気が引けたので、それをやらずに済んだのはありがたかった。
「そこだ」
「あっ……うぐっ!」
一瞬隙を見せたイーラのナイフを手刀で払い落としたあと、そのまま手首をひねって相手を背中から落とす。
ダンは近接格闘やナイフ術に関してもプロフェッサークラスなので、勢いはあれど単調なイーラの攻撃をいなすことなど造作もなかった。
「攻撃が素直すぎる。考えない骨相手ならともかく、考えて戦うプロの兵士には通用しないな。駆け引きを用いて相手の隙を作り出す戦い方を覚えなさい」
「……っ! は、はい! もう一度お願いします!」
イーラは即座に立ち上がって、再びナイフを持って構え直す。
かれこれ百回以上このやり取りを繰り返している。イーラの動きは徐々に良くなっているが、それでも電子頭脳で軌道予測されているダンの動きには遠く及ばない。
しかし、彼女はそれを実感していないが、動きは既に熟練の兵士くらいにはなっており、早くも戦力になる兆しを見せていた。
(基本ができているから成長が早いな。これなら思ったより早く実戦に投入出来そうだ)
「おーい、二人とも。もうそろそろやめにして休憩しないか? お茶淹れたから一緒に飲もう」
「いしゅべんべん! お茶!」
そう言って、ダナイーがティーポットを持ったまま二人を誘う。
「そうだな。……よし、休憩しよう。あまり根を詰めてもなんだしな」
「わ、分かりました」
ダンがそう言うと、イーラはその場にへたり込むようにして尻餅をつく。
どうやら気力で立っていただけでかなり限界だったらしく、膝もガクガクと笑っていた。
そんな彼女に手を貸しながら、ダンは連れ立ってテーブルの方へと向かった。
* * *
「標的をその枠内に入れて……そこだ!」
次の瞬間――ドゥ! という音と同時に弾丸が発射される。
それと同時に、およそ一キロ先に置いてある、人型にくり抜いた木の板の標的がパタン、と倒れる。
「……うむ、ヒットだ。だいぶ感覚が分かってきたな。コリオリの修正も上手くなったじゃないか」
「えへ、へへ……」
ダンの褒め言葉に、イーラはにへらと照れくさそうに笑いながら髪の毛を掻く。
実際射撃センスは大したもので、ライフルの他にもマシンガンなども使わせて見たが、どれもそれなりに当ててきている。
元々イーラは弓が得意だったらしく、その影響もあるのだろう。
「この調子で、すぐにでもダン様のお役に立ってみせます!」
「調子に乗るな。多少的あてが上手かったところで、実戦でその力を振るえなければ無意味だ。お前は実戦経験が少なすぎる。まだ実働戦力としては期待できんな」
「あ、うう……も、申し訳ありません」
ダンにそうバッサリと切り落とされ、イーラはしょぼんと肩を落とす。
しかしそれに続いて、ダンはこう言った。
「だが、この調子なら、あと少しで実戦に投入できるレベルには到達するだろう。思い上がることは許さんが、少しは自信を持っても問題ないだろう」
「は、はい……!」
その言葉に、イーラはぱあ、と笑顔を咲かせた。
そして次の瞬間――
『
「ん? どうした」
ノアから通信が入り、ダンはそう答える。
『アナから連絡が入りました。"例のもの"が出来たそうです』
「お、そうか。分かった。すぐに向かおう」
『それと、エアからも同様の連絡が入ってきています。どうなさいますか?』
「エアから……? ああ、そうかあれか。分かった、どちらにもすぐに向かおう」
ダンはそう答えたあと、後ろでキョトンとした顔で首を傾げるイーラに言った。
「よし、今から出よう。船に向かうぞ」
「え!? は、はい!」
イーラは理由もわからぬまま、ダンの後ろに着いて歩く。
そのまま船に乗り込んで、二人は一旦
――――
ちょっと本日は短め
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