第119話 樹精
「これからどこに向かうのですか?」
飛行する船の中、ダンの隣に侍りながらイーラはそう尋ねる。
「
ダンは船外モニターを確認しながら、恐らくそれに該当するであろう場所を見つけ出す。
活火山というだけはあって、いつ噴火してもおかしくはない様子だった。
――そして、その火山帯の中心に、ポッカリとシンクホールのような大穴が空いていた。
その穴の付近では、何か小さな人影が集まって、木に囲まれた集落のようなものを築いていた。
「……恐らくあそこだろう。他に目立った人工建築物もないしな。ひとまず近付いてみよう」
ダンはそう言って、ノアに指示を出してシンクホールの間近に着陸させる。
ハッチを開けて外に出ると、そこには――ダンの船の周りを警戒して取り囲む、現地の住人たちの姿があった。
その住人たちは植物と人間が混じったような奇妙な姿をしていた。
薄い緑色の肌をして、髪にあたる部位から葉っぱや小さな花が生えて、足はまるで長いブーツを履いているかのように木の根が覆っていた。
最初はダンに対して警戒を露わにしていた住人たちだが、やがてざわめきとともにボソボソと小声で相談し始める。
「ねえねえねえ、あの銀色のやつってさ。あれじゃない?」
「あれってなあに?」
「あれだよ、あれあれ! あの、神様がのってくるやつ!」
どうやら彼女たちはまだ子供らしく、甲高い声でキャアキャア言いながらダンの方をチラチラと見やる。
――そして、その中でもひときわ背が高く、頭に大輪の花を咲かせた者が後ろから現れた。
「これ、そなたら。そのように騒ぐものではないぞ? お客人が驚いておるではないか」
そう窘めるように言ったあと、その女性は、ダンに向かってたおやかな笑みを浮かべた。
「我らが長き時を待ち詫び続けた御方その人とお見受けするや、如何に?」
「いかにも、というのもおかしいか。君たちの予言に残された、新しき神ということなら、恐らく私のことだろう」
ダンがそう答えると、その女性は「然り」と答えて、その場に膝を付く。
「女王様っ!?」
「我が名は
「おっと、平伏はやめてくれ。初対面の者にいきなりそんなことされるのはあまり好きではないんだ」
ダンはそう言って、ダナイーの手を取って立たせる。
彼女はダンより頭一つ分小さい160センチほどではあるが、その風格はまさに為政者のそれであった。
腕には蔦が絡んで、体には花びらで出来た淡い桃色のドレスを身に纏い、尖った耳から先の半分は葉っぱとなっていた。
頭に二つついた大輪の花は、まるで王冠のように広がって、全身から芳しい香りを放っていた。
「おや? 我らがイシュベールはずいぶんと謙虚なお方のようだ。あなたは様は我らにとっては尊き主。何も気にせず我らの忠誠をお受け取り下されば良いのだ」
「そんな気分にはならんよ。私は君たちに何もしてやれてないからな。むしろ、今まで守ってくれた分感謝しなければならないくらいだ」
困惑しながらそう返すダンに、ダナイーはくすりと微笑む。
しかしその時――
「あー! いしゅべんべん! なんかえらい人って言われてた人だ!」
そう言って、周りを取り囲む
「ふ、不敬な! イシュベールです! ベンベンではありません!」
「いしゅべんべん! いしゅべんべん!」
舌っ足らずでダンの別称を呼びながら、
イーラはそれに怒るが、
「すまないな。あの子たちはまだ"苗"なのだ。イシュベールに非礼の段はこの私が詫びよう」
「いや、構わないよ。無邪気で可愛いじゃないか。イーラも、子供のすることにそんな目くじらを立てるな。私は何も怒ってなどいないぞ」
「も、申し訳ありません……ダン様が侮られたかと思ってつい……」
ダンに窘められ、イーラは恥じ入るように俯く。
「ほう? あなたはもしかして……砂漠の民かな? 我らと同じ使命を帯びた」
イーラを見て、ダナイーが興味深そうに尋ねる。
「は、はい!
「いや。話に聞いたことがあるだけだ。同じくアヌンナキの遺跡を守護する者たちのことを。砂漠の民は尖った耳に銀髪の髪、そして赤い目に小麦色の肌を持つという」
その特徴は、まさにイーラの見た目そのままであった。
「ほう、聞いたとは誰からだ?」
ダンがなんとなく気になってそう尋ねると、ダナイーはなんでもないことのように言った。
「ニンフルサグ様、その人にさ」
「何……!? アヌンナキに直接会ったことがあるのか!?」
その思いもよらぬ答えに、ダンは思わず聞き返す。
「ああ。今から六千年以上前だったかな? あの頃はまだ、あの御方たちは地上にいて、我らとお言葉をお交わしになられることもあった。ニンフルサグ様は特に慈悲深き御方だった故に、奴隷として産み出された我らにも分け隔てなく接して下さったのだ」
「六千年……!? 少し、アヌンナキの事を詳しく聞かせてもらえないだろうか? どのような人物だったのか。そして何故私をこの地に誘ったのか、直接会ったものから聞きたいのだ」
ダンのその言葉に、ダナイーはくすりと微笑みながら言った。
「いいとも。ぜひ私の家にご案内しよう。私としても、イシュベールと話せるのは嬉しいからね。着いてくるといい」
そう言って歩き出す彼女に従って、ダンは
集落の中はまるで森と一体化しているようにぼんやりと光る木々に囲まれて、ダンはまるで絵本の中に迷い込んだかのように錯覚した。
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