十二支族編
第31話 プロローグ:栄華の落日
(一体どうして……なぜこんなことになってしまったの……!)
ロムール王国第一王女、エーリカ・フィン・ロムールは、その端正な顔を歪めながら、唇を噛み締める。
最大限、無礼がないように宴席の手配には気を使っていたはずだった。
料理にも最高級の材料を使い、相手に文句を言わせる隙を与えなかった。
帝国が、我が国を狙っているのは分かっていた。
ロムールは、規模は小さくとも南方の小麦の産出を一手に担う豊かな穀倉地帯。
故に、あの野心の塊のような国が、祖国を放っておくはずがなかったのだ。
亜人征伐を掲げながらも、その本当の狙いは、この愛すべきロムールの国境沿いに兵力を集めることなのは明らかだった。
だからこそ、この出兵前に使者を受け入れる宴には最大限警戒をしたはずなのだ。
相手に開戦の言質を与えぬために。
この美しい祖国を守るため、エーリカは神経をすり減らした。
――だというのに彼女の目の前には、血まみれで倒れ込み、ピクリとも動かなくなった青年の姿があった。
それこそが彼女の実兄であり、ロムール王国の後継者でもあった、王太子ジャン・クロード・フォン・ロムールの最期の姿であった。
「いやああぁぁぁぁッ! 殿下ぁ!」
「か、回復魔法を使えるものを呼べ! 早くッ!」
侍女の一人が、既に致命傷を受け瀕死の青年に駆け寄って悲鳴を上げる。
侍従たちが血相を変えて走り回る中を、悠然と服の埃を払うふてぶてしい輩が居た。
「おやおや……すっかり服装が汚れてしまったではないですか。どうしてくれるんですか? この始末は」
返り血を浴びた服のまま、ニタニタと笑みを浮かべる男を、エーリカはキッ、と鋭く睨み付けた。
後の歴史で"血濡れの晩餐"と呼ばれる大騒動の始まりであった。
――――
本日ちょっと時間が足りず短めです
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