第3話

今日は間違えない。うん、大丈夫。

中学1年生の時、歓迎パーティーの服装のこと知らなくて制服で行っちゃってかなり恥ずかしい思いをした。初等部以外の中高全校生徒参加パーティーだから皆んなに見られた。あれ以来、少しトラウマで歓迎パーティーには行っていない。今日はかなでがいるから3年ぶり、久々に参加する。


「かっなかな〜おはすけ〜」


通学路に奏の家があるから家の前まで迎えに行った。インターホン押したら返事も間も無くすぐに出てきた。

タキシードおしゃれやなあ


優乃ゆうの!それにしたんだ!良いじゃん!夜女!」


奏は私のパーティードレスを見てそう言った。

今回は青色に銀色のラメが付いてるおとなしいけど華やかな色にした。夜空を纏うオペラ「魔笛」の登場人物、夜の女王みたいで気に入ってる。


「奏もイケてる!でも、昨日も思ったけどなんで前髪そんな伸ばしとおの?目ぇ見せたらええのに。」


奏の目はちょうど、私が着てるドレスみたいな深い青色。お父さん、瑞樹みずき先生よりもちょっと暗い青なんやねんな。奏の目元はお母さんの莉子りこ先生似やけど一重ですっきりしてかなり素敵なお顔。


「僕さ、中学まで顔出してたんだけど、意味分からないぐらい女の子達に毎日追い回されて恐ろしかったから辞めた。」


奏は苦笑気味にそう言った。


あー、なるほど。そりゃあ女が群がるわけか。


「ええやん。私もそのうちの1人なってキャアキャア言ったるのに。」


おもろ。奏くーん!かっこいいー!きゃああ!とかふざけて一緒になって言ってみたいわ。


「優乃の高音はビブラートかかりまくって他の女子の声掻き消すぐらいうるさそう。寒気する。」


なんだよ。うるさいって、失礼な。でも、


「裏声の声量なら普通の人には負ける気せえへんわ。勝ったな」


「そこ勝負なんだ。」


奏は呆れていた。


「僕が世界で1番愛するのはヴァイオリンだから。女には興味ないんだよ。」


そう、奏はヴァイオリン奏者にしてヴァイオリン愛好者。オタク。異常愛だ。将来本当に挙式挙げそう。絶対参列したる。



「あ、見えてきたよ」


「ほんまや。歓迎パーティー如きで飾り付けしすぎやろ。」


奏との会話が弾みすぎて学校まであっという間だった。

私達の学校、帝彩学園は本場ヨーロッパまではいかなくとも、日本ではかなり豪華なバロック様式で城並みに規模が大きい。

今日のために校門を潜って校舎の本館まで続く通りの電灯には金色のリボンが施されている。なんか、入学式よりギラギラやな。


本館のロータリーまで送迎車が行き交う。ここの学校、おぼっちゃまお嬢様、言われるボンボンズばっかやし車通い多すぎや。歩いてんの、私らぐらいやわ。


私の家から学校まで徒歩で30分ぐらい。市バスもあるけどバス代払うなら他のことに使いたいし。もしもの時の為に回数券だけ買っとお。


本館に辿り着くと入り口で本人確認。カメラで認識されると自分の名前とクラスが出る仕組み。


「これ、便利だね。」


なんて、奏が呟いていると、横から、


「中川さん、おはよう!」


挨拶をされた。


うわー、クラスメイトの川上かわかみ千秋ちあきやんか。千秋はかなり苦手。コイツ、性格悪いもん。


「おはよう」


私はいつも通り、愛想良くにこやかに挨拶しといた。前はいちいち傷ついてたけど今はどうでも良くなった。だって、なんやろう。所詮千秋ってそんな自分にとって重要ちゃうし。


「横の子って新入生の北見くん?なんか、2人とも似た同士で仲良くなれて良かったね。雰囲気とか、家のレベルとか。」


つまり、「あなた方、庶民くさいわぁ」って言いたいんやろ。わざわざこんなこと言う為に話しかけるとか暇人かよ。


「あははは...」


「おー!君、流石だね。そうだよ、俺たちって家柄似てるし、レベルも同格だよ。あ、でも学力は俺の方がちょっとだけうえかなあ」


いや、何流暢に答えとおねん。

私が愛想笑いをしてると横から奏が真面目に、嬉しそうに答えた。身内以外と喋る時一人称変わるの何や。


「奏、そろそろ行こっか。千秋ちゃん、じゃあね!」


私は奏の手を引いて急ぎ足で大広間へと移動した。こんなやつと真面目に会話するとややこしくなりそうやから。


「優乃、どうしたの?お手洗い行きたいの?」


奏は私がスピードを落とし、手を離したところで横に並んでそう言った。


「お手洗いちゃうって。さっきの人。あれ嫌味やで?会話する必要性ないし。ややこしそうやからその場離れた。」


奏って天然やった?フワッとしてるようでいつもしっかりしてるし、そんなことはないはずやけど。


「普通に分かってたよ。でも家のレベルは同格だし、僕たちって音楽家としての共通の雰囲気はきっとあると思って。本当のことじゃん。」


自分に音楽家の雰囲気があるんかは知らんけど、確かに正しいっちゃ正しいな。


「それに、僕たちの名前ネットで検索したら演奏動画とか写真とかすぐに出てくるじゃん。その場で調べさせてやろうと思ったんだけどな。」


奏は意地悪そうに笑った。


「まずね、どれだけ親が凄かろうが偉かろうが本人らはなんでもない。そういうなら、僕と優乃は収入あるし。コンクールの賞金だけど。」


うーん。まあ、確かに?でもまだまだやわ。もっと実力上げたい。身分とか地位とか興味ない。もっと理想の音楽に近づきたい。私も奏みたいに音楽に恋してるなって思う。


「でも全員があんなだったら辛いね。優乃は今まで独りでよく頑張ったよ。これからは僕もいるし一緒に将来見据えて横目逸らさず高め合おう。」


そう言って奏は私の頭を撫でてくれた。

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