第149話 憎しみが生むもの㉗

例の女性はそういうとすべてを悟ったような顔でこちらを見つめる。護衛と思われる敵構成員が数人傍に立っているが、彼らはナイトビジョンのようなものを着けており、表情を見ることができない。しかし、女性を守ろうとするのではなくあくまでも見守ろうというスタンスなのが見て取れる。


俺は銃のトリガーにかけている指に力をかけて女性を射殺しようとする。


しかし、その瞬間大きな発砲音が部屋にこだまする。


少し、熱いような感覚を感じて自分の手を見てみると左手の手首から先がなくなっており、血が噴き出ているのが見える。


部屋の入口を見てみるとそこには顔色が悪いながらもこちらに銃を構えている弓削さんがいた。


「何をしているんだ。命令は生きた状態での幹部の確保だぞ」


俺は弓削さんの問いには答えず血が噴き出ている左手首をじっと見つめる。


すると弓削さんは憤った様子でこちらに歩いてくると俺の胸倉をつかんで怒鳴る。


「どういうことだ!」


「…弓削さんも知っているでしょう?俺は新大阪のテロの遺族なんですよ」


「だからなんだ!お前は治安部隊パブリックオーダーの一員だろう!」


「俺がここに入る理由は新大阪のような事件を二度とおこさないようにするため。それだけじゃ、ありません。こうやって全解放戦線の幹部を自らの手で殺すことができると考えたからです」


「なら、お前は復讐が目的でここに入ったってことなのか?」


「えぇ、そうです。まさかこんなに早くその時が来るとは思いませんでしたけど」


俺がそういうと弓削さんは思いっきり俺の左頬をビンタする。


「ここは復讐のために動いているんじゃない!俺たちは治安を守る最後の砦なんだ!」


「それもわかっています。そしてそれが正しいことも」


「だったらなぜ…」


「ただそれが俺には我慢ならなかった。正義だと言っておきながら何にも悪くなかった両親が殺されることを止めることができなかった!そんな正義に価値はないんです!」


「それは…」


「もちろん、こうやって弓削さんにそのことを当たることも筋違いだとわかっています。でも!俺にはこうするしかなかった…」


「剣持…」


俺はそういうと残った右手でホルスターを外して、拳銃を取りだす。そして視界の端で必死に俺のことを止めようとする弓削さんのことを見ながら拳銃を側頭部に突き付ける。


そして俺はそのまま拳銃の引き金を引く。


その瞬間、視界が暗転し何も感じなくなった。

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