第142話 憎しみが生むもの⑳
敵部隊が精鋭部隊だといえどさすがに前線に開いた大きな穴を一瞬でふさぐようなことはできない。穴が開いた場所から弓削さんたちの部隊が次々に2階へと進出していく。すでに敵部隊は虫の息だ。俺たちに挟まれているような状況でしかも人数もおそらく俺たちの部隊のほうが多い。
俺は弓削さんの部隊のほうを撃っている敵構成員の一人をまた排除する。弓削さんの部隊も相当浸透してきており、先ほど俺が撃たれた小田急乗り換え口の周辺まで前線が上がっている。
南改札のほうに追い込まれていく敵部隊はもうすでに取り返しがつかないところまで来ている。残りは先ほどのRPGの爆発によって誕生したがれき付近で戦うしかない。
敵を追い込んでことで俺たちの中にもすでに勝ったような安堵というのが少し蔓延する。それのせいで遅れてしまったのかもしれない。敵構成員の一人が何かを腰に巻き付けながら雄たけびを上げてこちらに走ってくるのが見える。
「自爆兵だ!」
弓削さんがそう叫んだ瞬間一人の自衛隊員が慌てて敵の頭を吹き飛ばす。しかし、敵構成員の体がいきなりのその場で崩れ落ちることはない。そのままつまずくような形になりながらも高宮2曹の周辺まで飛んでいく。
「退避!」
俺がそう叫んだ瞬間こちらに走ってきた敵構成員の腰に巻きつけられていた爆弾が爆発する。
爆発した瞬間とてつもない閃光と爆風が近くにいた俺たちを襲い、吹き飛ばされる。そしてさらに大きな音を立てながら何かが崩れ落ちていく音が聞こえてくる。
「大丈夫か!」
爆風で吹き飛ばされた俺に弓削さんが駆け寄ってくる。爆発地点から多少離れておりさらに遮蔽物の裏にいた弓削さんは爆発の影響をあまり受けていなかったようだ。
「…はい、何とか。ほかの部隊員はどうですか?」
「あれだよ」
弓削さんが指さした方向、そこには砂埃の中に大きな穴が開いているのが確認できた。
「あれは…もしかして崩落したんですか!?」
「あぁ、そして急いで逃げるぞ」
「え?まずは崩落に巻き込まれた隊員がいないのか確認しないと」
「あの爆発のよってダメージを受けたのはあそこだけじゃない」
実際、建物全体から何かが崩れる音だったり天井から砂埃が落ちてきたりと明らかに通常じゃない状況になっている。
「全員聞いてくれ!俺たちはいったんここから離脱するぞ!怪我している者がいたら肩を貸してやってくれ。とにかく15、16番線ホームに降りて代々木方面にそれぞれ退避だ!」
弓削さんはそういうと爆発の衝撃でまだ立つことのできない俺に肩を貸して階段を降りていく。そしてそれに続くようにほかの自衛隊員たちもそれぞれ退避していく。しかし、そこには高宮2曹の姿はなかった。
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