第110話 不穏の足音㉑
おそらく一人も警官は巻き込まれていないとは思うが、長年立川駅のシンボルとしてそびえたっていた建物が崩れるというのは絶望的な気分になる。近年テロ事件が増えているといえど、ビルが爆破によって倒壊するというのはほとんど聞いたことがない。レゼルは本気で警察と殺りあうことを決めたのだろう。
「蒼葉君、剣持、大丈夫か?」
「はい」
「僕も大丈夫だよ」
俺たちは近くで固まっていたがビルの倒壊による砂埃によって姿を確認することはできない。声によって無事は確認できるがそれ以外の周りの状況は見えなければ、そもそも砂埃が酷すぎて目を開けることすらできない。
今視界が確保できていない状況でがれきなんかが転がっている可能性のあるここを歩くのは危険だ。ここにとどまっているのも危険なので本当はここから移動したいがしょうがない。
『剣持さん、弓削さん、蒼葉、大丈夫?』
『はい、こちらは大丈夫です』
『それならよかった。こっちでも現場の状況はあまり把握できていないけれども、証拠類の押収は順調に進んでいたみたいだよ。おそらく必要な証拠類はすべて回収しきれたはず』
『わかりました。砂埃が収まりしだい周辺の様子を確認します』
『うん。よろしく頼むよ』
証拠となるようなものはほとんど回収できたようだ。これによってもしかしたらレゼルが次に標的にする場所がわかるかもしれない。そうなればやっとこっちが攻撃に回ることができる。
砂埃が収まってきたので周りを見渡してみるとそこには炎上しているビルの破片がいたるところに散らばっていた。どうやら少数の警官がビルの倒壊の際に生じたがれきで怪我をしたようで倒れている者が見える。しかし見たところではあまり深刻な負傷をしている者はいないようだし、救急隊員も近くに待機していたためおそらく大丈夫だろう。
「それじゃ、あたりの様子を確認してから司令部に戻ろうか」
「了解です」
俺たちはビルの倒壊によって影響があったと思われる範囲を歩いて見回る。
見ている感じだとビルの倒壊に巻き込まれた警官はいないようで、がれきによって怪我をしたものが少数といった感じだ。しかも、証拠となるような敵の遺体などはほとんどの箇所で回収しきっている。ビルが倒壊してしまったのは非常に残念だがそのあとの対応としてはほとんど成功といっていいだろう。
「どうやら深刻な被害ってのは生じていないみたいだね」
「そうですね。こういっては何ですが敵が今回の事件を起こしたおかげで一連の事件の解決が近くなったと言えるかもしれません」
「確かにそうかもしれないね。とにかくいったん司令部に戻ろう」
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