第106話 不穏の足音⑰

着物を着ている女性は特に用はないと言っていたがそれを信じることはできない。タイミングを考えてもおそらくレゼルか新興宗教の一員なことに間違いはないだろう。となればうまく使って情報を引き出したい。


「お前は何者なんだ?」


「私は何者でもありませんよ。師の教えを広げるために世界各地を回っていた時期もありましたが、今はそうじゃありませんから」


「師の教え?なんだそれは?」


「師の教えは崇高なものです。ぜひともあなたにも知ってもらいたいものですが、今日はやめておきましょう」


「なぜだ?」


「今日はその日ではない。神はそういっています」


「よくわからんな。俺には宗教が肌に合わん」


「それは残念ですが、きっと師の教えを聞いた暁にはあなたもきっと素晴らしさがわかるはずですよ。仲間にはそういった人もいますからね」


「そうだといいがな」


俺は談笑しながらも警戒は緩めない。ただ着物を着た女性は俺が拳銃をずっと突き付けているのにもかかわらず臆した様子もなくしゃべっている。


「私と話を楽しむのはいいですけど、大丈夫なんですか?」


女性がそう言った瞬間隊長から無線が入る。


『剣持さん!早く戻ってきて!敵の襲撃が始まった!』


『っ、了解です!』


「だから言ったでしょう?油断はよくないですよ」


「…この借りは必ず返すぞ」


女性は微笑みながら走って司令部のところに向かう俺の背中を見ていた。


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俺が司令部のある駅の反対側に向かうとそこではすでに警察官とテロ組織での戦闘が始まっていた。多くの民間人が巻き込まれたようでパニックになって逃げ惑う民間人やすでに倒れ、血を流しているものなど現場は収拾がつかなくなっている。さらに敵は民間人を気にせず銃を撃つことができるのに対し、警官たちは民間人に銃弾が当たらないように気にしながら銃を撃たなければならない。それもあってか警官側が押されているように見える。


「弓削さん!」


駅の前にある地図のようなものに体を隠しながら戦闘をしている弓削さんに声をかける。


「剣持か!」


「はい、現在の状況は?」


「敵はどこから湧いてきてるのか知らないが立川駅方面に進軍してきている。幸い進行してきている場所は少ないがこの分だとほかも厳しい状況かもしれない」


「了解です」


俺は最低限の情報確認だけすますとすぐに肩にかけてあったSCAR‐Hを取り、遮蔽物に隠れながら銃撃を開始する。


敵は栃木の時と比べて練度も装備も明らかに質が下がっている。俺は敵の銃弾に当たらないようにしながらも1人ずつ確実に仕留めていく。

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