第99話 不穏の足音⑩

「ですよね。それに結局海保の幹部がどこに逃げたのかってのもわかってないんですもんね?」


「そうだな。本当に手掛かりは0だ。捜査は手帳の情報だよりだな」


「そういえば、警察官が裏切っていたってのはどうなったんですか?」


「あれも結局まだよくわからない。警察に入る前から組織と通じてという可能性は限りなく低いとして、どうやって警察にすでに入隊している人材を引き抜いたのかってのは見当もつかない」


「赤嶺隊長についてはどうですか?」


「それも今監察官が必死になって調べているらしい。が、いかんせんやることが多すぎて手があんまり回っていないらしい。ここまでの規模での警察官の離反ってのは前例がないからな。あっちも混乱しているんだろう」


「まぁ、そうですよね。鑑定結果が出るのは明日でしたっけ?」


「あぁ、そうだな。まぁ実際のところはもう出てはいるんだが、こっちに情報が回ってくるのは明日ってことだ」


「もう解析は終わっているんですか?」


「もしかして聞いてないのか?今回の件に限らず重大事件ってのは先に幹部だけ解析の結果なんかは情報が共有されるようになっている。もし今の社会を崩すようなことが関係していた場合は本当に限られた人物にしか詳細が話されないようになっているんだ」


「それって幹部にとって都合の悪いことってのは隠しているってことですか?」


「まぁ、そうとも言えるかもな。ただ俺はこれに反対ではない」


「なんでですか!?治安を守るための俺たちが治安の乱す存在を黙認するなんて許されることじゃありませんよ!」


「別に黙認しているわけじゃない。その事件に携わる警察官の人数が大幅に絞られるだけだ。結局事件は解決に向かう。それにこれは治安を守るためでもある。今まで自分たちの常識だと思っていたものが崩れるようなことが起きれば社会は完全に崩壊する。お前の言葉を使えば治安に守るための俺たちが治安を破壊することにつながるわけだ」


「でも…」


「まぁ、どう思うかは個人の勝手だ。ただあんまり外でそんなこと言うなよ。治安部隊パブリックオーダーに適していないと判断されればここから除隊になる可能性だってある。それにまだそれを判断するにはお前には経験が足りない。もっといろいろなことを見てからそれについて考えたって遅くはない」


「…わかりました」


弓削さんは不服そうな俺を見ると弓削さん自身のパソコンを立ち上げてあるグラフを俺に見せてくる。


「このグラフを見てみろ」


「なんのデータなんですか?」


「重大事件だと判断されて情報規制が入った事件の数の推移だ」


そうやって弓削さんが見せてきたデータのグラフでは右肩上がりに数値が増えていっていた。

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