第93話 不穏の足音④

電車が減速していき中野駅のホームに滑り込む。俺はさっきのホログラムを投影していたと思われるキューブ状のものを手に持つと開いたドアから降りる。そして電車から降りた俺はまっすぐに拠点に向かう。


俺が拠点についてドアを開けると心地の良い呼び鈴が鳴った。それにつられて店の奥からマスターが出てくる。マスターは俺の顔を確認すると顎で店の奥に行くように促す。


俺はマスターに軽く会釈すると店の奥に向かい、そこにある本棚から梶井基次郎の「檸檬」を取り出す。するとさっきまであった本棚は左右に割れ本棚の裏にあった会談が見えてくる。少し古典的な仕掛けではあるが変にセキュリティーをかけるよりも気づかれにくい。こういうデジタルな時代だからこそアナログは気づかれないのだ。


俺が階段を降りるとそこにはいつもの廊下が見える。一番初めにここに来た時もこうやってここを一人で歩いていたことを思い出しながら俺はいつもの部屋の前まで来るとノックをしてから部屋に入る。


俺が部屋に入るとそこでは治安部隊パブリックオーダーの全員が輪になって何かを話し合っていた。


「皆さん、お疲れ様です」


「もう大丈夫なのか?」


「はい、手術も無事に終わりました。すぐにでもいつも通りに復帰できるぐらいです」


「それならよかった」


「それで何について話していたんですか?」


「栃木についてだよ」


「あいつらの正体はわかったんですか?」


「いや、あそこからは何一つとして敵の手掛かりになるようなものが見つからなかったよ。どうやら敵は相当正体を知られたくないみたいだね」


「…何も見つからなかったんですか?」


「うん。死体はもちろんのこと所持品に至るまで完全に回収されていたらしい。残っているのは殉職した警官たちと戦闘の痕跡だけ」


「これがあれば何かわかりませんか?」


俺はそういうと例の事件で警官の格好をしていた敵から回収した警察手帳を出す。少し血がついてしまっているが中身はおそらく無事なはずだ。


「…もしかして敵の警官からとってきたの?」


「はい、警官の服装をしていたので監察官に提出するために回収していました」


「ナイスだよ!早速鑑識に回して調査してもらおう!」


隊長はそういうと急いでどこかに連絡をかけ始めた。おそらくどこかの鑑識に連絡をして至急、鑑定してもらえるようにしたんだろう。


「お手柄だな」


「本当にたまたまですけどね」


「とにかく今日はもう休め。どうせ鑑識の結果出るのだって明日になる。今のうちに体力を回復させておくのは大切だぞ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る