第89話 襲撃㊵
俺が傷口の周辺を切除するという意向を伝えるとロボットは少しの間フリーズする。おそらくこの時間で手術室だったり担当ロボットなんかを決めたりといろいろと事務作業をしているのだろう。ただそれだとしても何かしゃべってくれれば少し気持ち楽になるっていうのに。やはり合理性だけを追求した場合はこうなってしまうのだろうか?
その時診察室のドアを開けて看護師が入ってくる。
「こちらです」
どうやら手術までこのまま一気に終わらせてしまうみたいだ。確かに早く仕事に復帰したい俺にとってはこれが一番だけど普通に考えれば相当きつい。手術をするとなると相当の覚悟が必要になるのにそれを作る時間すら与えてくれないとは非情なものだ。
看護師に案内されるがまま歩いていくとキャスター付きのベッドがたくさん並んでいる部屋に案内された。おそらくここが手術前に患者を麻酔で眠らせる部屋なのだろう。そして俺が次目覚める部屋もここだ。
看護師に指示されるがままベッドに仰向けになると今度は天井から酸素マスクのようなものが落ちてくる。それは勝手に俺の口の周りにくっつくと麻酔を吐き出し始める。つくづく思うが本当に人の温かみが感じられないな。これが一般にも普及していくのは相当先になるんだろう。
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俺が目を覚ますとそこは目を閉じる前と全く同じ光景が広がっていた。すごく長く眠っていたような感じがするのに心のどこかでは少し目を閉じただけのようにも感じる。なんとも不思議な感覚だ。
「手術は無事に完了しました。今日一日は一応ここで入院してもらいますが、明日にはもう普通の任務に戻っても支障はありません」
まだ体がうまく動かせないので本当に看護師の声なのかはわからないがひどく事務的な声が俺にそう告げてくる。ただすぐに任務に復帰できるという点は安心した。もしかしたら少し体に違和感を感じるかもしれないがそれも数日でなれるはずだ。そうなれば次の大きな任務までには完全に復帰できるだろう。
そういえば服が変わっている。少し動くようになってきた顔を動かしてみると俺の寝かされているベッドの隣にある机の上にきれいにたたまれた俺の制服が置いてあった。こういうところにはちゃんと気配りができるのに手術前の患者の心境は測れないのはなんとも皮肉なものだ。
とにかく今は寝ておこう。それに今になって体の節々が痛むことを感じてきた。ここ3日間でさすがに体を酷使しすぎたということだ。いち早く任務に参加できるような状態にするためにも寝るのが一番。俺は目をつぶるとすぐに夢に落ちていった。
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