第36話 凶報⑧
弓削さんはそういうや否や俺にこの場を任せるようなしぐさをするとカジノ台の裏にある通路に入っていった。
『こちら剣持、犯人が1人逃走。ほかの犯人を拘束するためにSATの応援をよこしてください』
『こちら本部、了解』
とりあえずこの犯人たちをこのまま放置するわけにはいかないので犯人の追跡はいったん弓削さんに任せて、もう来ているであろうSATとの合流を待つ。
それから5分もすると通路のほうから足音が聞こえてきた。一応SATじゃない可能性も考えて銃を構えておく。扉を開けて入ってきたのはSATの文字が入った防弾ベストを着ている2人組。
「剣持さんですか?」
「はい。そうです」
「犯人というのはこの男たちですね。あとはこちらに任せてください」
「わかりました。ありがとうございます」
SATが犯人を拘束したことを見届けると俺もすぐに隠し通路に入っていく。この通路はさっきの通路よりも天井が低く道幅も狭くなっている。正直この重装備でこういうところに入るのはめちゃくちゃ大変なんだけどこうなってしまってはしょうがない。
それに弓削さんがもしかしたらこの先で戦闘しているかもしれないからためらっている時間はない。中腰になりながらも、できるだけ早く移動する。
少し進んでいくと3つ股に通路が分かれている。そして一番左通路に弓削さんがつけたと思われる羽のようなマークがついている。たぶん弓削さんもどちらの方向に犯人が進んだかわかっていないはず。弓削さんならば俺が違う方向を捜索したとしても大丈夫だろうし、できるだけ犯人に接触する確率を高めるために俺は弓削さんとは違う一番右側の通路に進もう。
右側の通路を進んでいるとだんだんと地面に水たまりが見られるようになっていく。もしかしたらこちら側は川とか海とか水が多くあるような方向に進んでいるのかもしれない。そうなると逃走手段として船というものがあり得る。
水たまりが見られるようになってから20分ほど進むと光が見えてきた。やっとこの中腰から解放される。ただあの光は太陽の光とは違うような気もする。
そして出口に近づいていくにつれて少しづつその先が見えるようになっていく。その先に見えたのは船の中にあるような感じの2段ベッドがたくさんある部屋。これはもしかしなくても本当に船を使って逃走していようとしているのかもしれない。
だけどまだここに犯人が来たかどうかはわからないし、そもそもこの道がつながっているというのにどうやってこの船がここから移動するするのかわからない。それともこの船は航行するようなものじゃなくて港にずっと固定されているものなのかもしれない。
恐る恐る室内に入り、ベッドの横の小物入れのようなところの中を探るとバッジのようなものが見つかった。そこに刺しゅうされていたのは星のようなマーク。…この帽章を使っているのは海上保安庁だ。
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