第18話 架け橋

 手話の勉強は、しばらく何もしていませんでした。

 しいて言うと、勉強していた時に見つけた、ろう者の方の動画を、ときおり見てはいました。

 動画は、仕事の休憩時間に見る事が多く、音声は出せません。けれど私の好きな動画は、手話で話したり、字幕が付いているので、ほぼ問題なく内容が分かるようにはなっていました。(私の手話の読み取りも、少しは上達しましたし)


 その日も、失礼な言い方になってしまいますが、ただ時間潰しで動画を見ていました。

 その方(ろう者)は、中学の二年まで普通の学校に通っていたそうです。

 周りには、ろう者がおらず、手話を覚える環境でもありませんでした。

 聴者の世界では馴染めず、かといって手話もできずに、ろう者の世界でも、自分から人を遠ざけていたそうです。

「自分の気持ちなんて、誰も理解してくれない」と、ずっと思っていたと。

『その人』が、いまでは手話(日本語対応と日本手話のミックス)を使っています。とてもステキな笑顔で『ろう者と聴者の架け橋になりたい』と言っているのを見て、職場で泣きそうになってしまいました。

 思い出した事があったのです。


 私が幼稚園の頃。

 私と同じ組(もも組)に、双子の女の子がいました。名前すら、ハッキリとは覚えてはいません。

 でも、彼女たちの思い出は、記憶に残っています。

 彼女たちには知的障がいがあり、そのせいで言葉が話せませんでした。

 いきなり大声を上げたり、走り回ったり、私が描いた絵に落書きをしたり。

 けれど、暴力を振るわれた記憶は、一切ありません。

 なのに私は、彼女たちが好きではありませんでした。

 その理由は『彼女たちの行動の意味が、理解できなかった』からです。

 わからないから、怖かったのだと思います。


 いま考えてみると、彼女たちは一緒に遊びたかったのかもしれません。

 ただ遊びたかった。なのに私が拒絶していたのだとしたら、とても残酷なことをしていたことになります。


『ろう者とか聴者とか関係なく、みんなで楽しく話したい』

 モニターの向こうで、ろう者のユーチューバーが語りかけていました。


 聴者が嫌いな、ろう者がいる。

 ろう者の嫌いな、聴者だっている。

 でも、それは互いにコミュニケーションをとっていないからかもしれません。わからないから誤解して、だから恐れているとも考えられます。

 とにかく話してみて、考えるのはそれから。

 ネットや本を見ただけで、わかった気になるのは、私の悪いクセです。

 どんな国の人だって、どんな仕事の人だって、年齢や性別に関係なく、友好的な人も、そうでない人もいます。

 だったら、あとは自分がどうしたいか。

 わかってみれば単純なものです。


 その日の夜から、私は手話の勉強を再開しました。

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