第17話 日本手話と日本語対応手話

 手話の本を開かない日が続いていました。

 手話を勉強して、コミュニケーションをとること。それが、私の希望でもありました。

 ですが、相手がそれを望んでいないとしたら、勉強する意味なんてあるのでしょうか?

 そんな疑問が、頭の中をグルグルと回っていました。


 実は、もう一つ気に掛かることがあります。

 それは『日本手話』と『日本語対応手話』の違いでした。

 日本の手話に、大きく分けて2つの種類が有るのは、ご存知でしょうか?


 一つは、先天的な ろう者がよく使う『日本手話』。そしてもう一つが、後から覚えた人の使う割合が多い『日本語対応手話』です。

 日本語対応手話は、その言葉の通り。日本語の語順で、その言葉に対応した手話に変換して、手話で表します。

 しかし日本手話は、日本語と異なった語順(英語に近いかもしれません)、異なった表現方法で表すのです。ちなみに『て、に、を、は』が無いと言われていますが、これは誤解です。(主に手以外の部分で表しているのですが)

 他にも、目が良いことを『目、軽い』と表現するなど、独特の表し方があります。うなづき、眉や目の見開き、更にパピプペポ表現という独特なものまであり、かなり難解です。


 なので、日本手話を使う ろう者によっては、日本語対応手話を『聴者ちょうしゃの手話』と言う人もいます。

 ちなみに私の手話を分類すると、日本手話のエッセンスが入った日本語対応手話でしょうか。


 だったら日本手話を覚えれば良いのに……と、私も最初は思いました。しかし、思っている以上にむずかしいのです。そして『日本語対応手話』と『日本手話』の溝は、恐ろしく深いのでした。


 有名俳優が、ろう者役をするドラマを、立て続けにやっている時期がありました。

 いままで手話を習ったことのない役者の方たちが、自然な日本手話を使っていて、多くの手話経験者が驚いたそうです。ろう者の方からも、評判は悪くなかったと聞きました。


 ドラマのなかには、ヒロインが手話を勉強して、あっという間に、手話で普通に話せるようになるという作品もありました。

 人気の俳優やアイドルが出演していたこともあり、手話を始める人も多かったようです。簡単に覚えられると、誤解して始めみたけれど、長続きしない人がほとんどでしたが。

 役者の方の手話は、初心者の私が見てもわかるくらいに上手でした。

 けれど、誤解してはいけません。

 役者の方は、手話を出来るわけではないのです。


 手話指導の方は、役者の方に手話を教えます。役者は、台本通りの手話を覚える。ただそれだけなのです。

 相手が何を話すかわからない状態で、日本手話で話されて、それを理解してから返事をした訳ではないのです。


 もちろん、普通に手話ができると誤解させるほど、役者の芝居が素晴らしいということは、付け加えさせていただきます。

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