第13話 方言と省略

 手話の勉強を、本格的に再開すると、全てが上手く回り出しました。


 初心者向けの手話動画で、『名前』の手話(左手の甲を自分に向け、その手のひらに、右手の親指を当てる)表現を見ているときのことです。

「関西では、こう表現します」

 そう言いながら、講師の女性がやったのは、私の知っているモノとは違う手話でした。

 右手の親指と人差し指で円を作り、他の指は伸ばします。そのまま指で作った円を、左胸に当てるのです。

 関西では?

 その時初めて、手話にも『方言』があると知りました!


 確かに、日本語に限らず、言葉にはその地方ならではの、というものがあります。

 だとすれば、手話にだってナマリがあって当然。おかしくはありません。というか、あると考える方が自然です。

 なのに、いままで考えもしませんでした。

 これで長いあいだ疑問だった答えが、やっと解決です。

 同じ言葉なのに、違う手話があるというのは、まさにコレ(方言、ナマリ)なのだと気がつきました。

 そう考えると、全てがスッキリします。


 もう一つ、発見がありました。

 別の動画で『何月何日』という表現を見たときのこと。

 その『月』の手話を見て、いままで気にしなかったのですが、おや? と思いました。

 動画の『月』の手話は、まず右手の人差し指と親指を合わせます。次に、下へ動かしながら、人差し指と親指を離すというものです。

 けれど、私の知っている『月』の手話は少し違いました。


『月』の手話は、右手の人差し指と親指を合わせ、斜め下へ動かしながら、人差し指と親指を離して閉じる。その、離してから閉じるまでの動線で、三日月を描くのです。

 文章にすると複雑に思えますが、実際はそうでもないのですが。

 とにかく、この手話の違いを、私は見逃すところでした。なぜ見逃すところだったのか、その理由がわかりました。

 私の習った『月』は正しい手話の月。

 そして番組でやった『月』は、省略された月だったのです。


 右手の人差し指と親指を合わせ、下へ動かしながら、2つの指を離すだけでも、文章の流れで『月』ということはわかります。それに、省略した方が手首への負担も少なくて、簡単です。(手首等、関節への負担は手話通訳士の方々の間では、大きな課題のようです)

 これも、同じ言葉なのに、違う手話で表現する謎の答えの一つではないでしょうか。


 手話以外の言語でも、省略されることは多くあります。略語と言われているものです。

 例えばスマートフォン。いまではスマホと言う人の方が多いでしょう。

 たぶんそれと同じなんだと思います。


 言語である以上、時と共に増えたり、変化したりする。たぶん、そういうものなのでしょうね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る