第12話 相手の目を見て話す

 手話をするときは、どうやら相手を見てするものらしいと、最近になって知りました。


 聴者(聞こえる人)の場合、相手を見ないで話しをしても、ほとんどの場合は、なんの支障もありません。

 スマートフォンを操作しながら話をするとか、洗濯物を畳みながら話をするとか。

 聞こえる人にとっては、特別なことではいでしょう。


 もちろん正式な場所では、相手を見ながら話すと思います。

 相手を見ないで話すことが、失礼だと理解はしているからです。

 そう考えると、聴者は会話というモノに対して、ルーズなのかもしれません。

 と、偉そうなことを言いながら、私も人の目を見て話すのが、とても苦手なのでした。

 正しくは、恐いと言う表現の方が、近いでしょうか。

 幼い頃から、話すこと自体が、あまり得意ではないのです。

 人の顔や目を見ると、なんだか怒られるのではないかと恐くなる。また、相手を不快な気持ちにさせるのではないかと、不安にもなります。


 ですが、手話を読み取るには、相手の目を見る(表情を見る)必要があります。

 音のない世界でのコミュニケーション。それは、聞こえる人からは想像ができないくらい、見えているモノから情報を得ていました。

 イントネーションやニュアンスのようなものも、手話には存在します。

 どう表すのかというと、表情や目の見開き、頷き首振り、手話のスピードや強弱等で伝えられるのです。


 実は、このように手や指の動き以外で伝える部分が、手話と同等かそれ以上に大切な上、多岐にわたります。けれど、私には(聞こえる者にとっては)手話以外の部分は、些細に見えていました。

 表現の大切さや『相手を見て感じる』当たり前のことには、手話をそれなりに勉強して、初めて気がつくのかもしれません。

 他言語と大きく違い、厄介とも言える部分です。逆に言うと、それ故に伝えられる情報量が多く、実に奥が深い。


 手話は、手の動きと合わせて、顔の動きも行ないます。(表情にも、ある程度ルールがあります)

 その為、手話は顔の近くで行われることが多く、結果として相手の顔を見る必要があるのです。

 相手の目を見ることは、話を聞いているという意味もあり、目を見ないで行う手話は、相手にとって失礼なことなのです。(と、本に書いてありました)


 手話を使うときだけ、人の目を見るようにするのでは、上手くいかないことが、容易に想像できました。

 手話をするときも大変ではありますが、読み取るときの集中力は、もっと大変なものです。

 余計なことに気をとられていては、見逃してしまいます。

 だから、普段から人の目を見ることに、慣れておかなければならないと思いました。

 ……不安ではありますが。


 さっそく翌日から、人と話をするときに、相手の目を見ながら話すことを開始。

 すると、意外なことがわかりました。

 思っていたより、他の人も相手の目を見ていないのです。

 話しているあいだ、全く目が合わない人というのは少数でした。けれど、ほとんどの人は、目が合ったとしても短い時間だけ。

 ほんの数秒程度でしょうか。


 ときどき、こちらの目を真っ直ぐ見て話す人もいましたが、その時は私の方が耐えきれずに、視線を外してしまうのでした。

 これでは意味がありませんね……。


 けれど、これは私が過剰に意識している部分が多いような気もします。

 とにかく、回数をこなして、慣れるしかありません……たぶん。

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