第11話 第一の目標は

 少し前から、指文字も数字も、慌てなければ表現できるようになりました。

 慌てると間違ったりするし、読み取り(相手の手話の意味を理解する)は苦手でしたけど。

 やはり、実際の経験を積まないと、限度があるようです。


 後回しにしてきましたが、もうそろそろ本格的に手話を覚えようかと、考え始めていました。

 いまは、気になったり、面白そうだと思った手話を、なんとなく選んでいます。でも、これではあまり役に立ちません。

 例えば『アルコール』『花』『焼き肉』『元気』『お疲れさま』という手話を覚えていたとします。ろう者の方と会うことになったとして、手話で対応できる場面があるでしょうか?

 指文字が出来るので、指文字がわかる相手になら、一方的に伝えることは出来るでしょう。けれど、それは会話ではないし、コミュニケーションと呼べるものですらないかもしれません。

 デタラメな順番で覚えるより、目的というか目標を決めた方が良いと思いあたりました。いまさらですけど……。

 相変わらず、同じ言葉なのに、複数の違う表現があるのは謎でしたけど、とりあえずやってみることにした方が良さそうです。

 やっているうちに、わかるかもしれないですから。


 目標は、具体的なものほど、計画が立てやすくなります。というか、実は考えるまでもないことでした。

 仕事で、商品の説明や受付の案内(手話)が出来ないから、無視してしまったのが発端です。それを後悔して、二度と同じ事はしたくないから、手話を始めようと思ったのでした。

 なら簡単です。

 第一の目標は『説明や案内が出来る為の手話を覚える』しかありません。

 例えば『いらっしゃいませ』とか、『何が必要ですか』や『案内します』など。やることが決まれば、覚える方向性も決まります。

 もちろん、相手の言っていることがわからないと、会話として成立はしません。

『買いたい』『いくら?』『これは何?』というように、お客様の言いそうな言葉も、覚えるべきでしょう。

 いろいろなシーンを想定して、お互いの会話をドラマのセリフみたいに考えてみる。それから手話に置き換えて、お芝居みたいに覚える方法論が、良いのではないでしょうか。

 ずいぶんと遠回りしてしまいましたが、やっと方向性が決まりました。

 あとは、行動にうつすのみです。

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