第2話 手話の本を買う

 手話を覚えようとするなら、まず何から始めたら良いのでしょう?


 これは、意見の分かれるところです。

 専門学校やサークルに通うのが、一番確かな方法なのかもしれません……が、私にはお金がありません。

 さらに、休みも不定期です。


 以前、何がきっかけかは忘れてしまいましたが、手話が出来る人は、どうやって覚えるのだろう? という話題になったことがありました。

 その時、友人たちが言ったのは、

「手話は、お金と時間に余裕のある人が習うものでしょ」

(就職に有利にならないし)

「あんなの娯楽だよ」

 と、いうものでした。

 その時のことを、ハッキリと覚えているわけではありませんが、私も同じように考えていたような気がします。


 手話を覚える時間があるのなら、何か別の外国語を覚えるのが普通なのでしょう。

 就職や転職で、有利になるかもしれないからです。

 手話の出来る人が、仕事で優遇されたという話を、残念ながら私は聞いたことがありません。


 もちろん、必要に迫られて、習う人もいるでしょう。

 お金や時間が無くても、覚える人は普通にいる。けれど、手話を覚えようとする人に対して、日本はあまりにも不親切な気がするのです。


 英語、中国語、スペイン語など、いわゆる外国語は、教材やテキストなどか、本屋の語学の棚にあふれています。

 なのに、手話に関する本はといえば、一番近い本屋を見たのですが、一冊も置いていないじゃないですか。

『手話』を言語で調べようとしたから、見つからないのでしょうか? どう探せば良いのか、見当すらつきません。


 たぶん、店員さんに聞くのがベストな対応なのでしょう。それは、わかっています。

 ただ、私は知らない人と話すのが、苦手なのです。

 学生時代と比べたら、これでもかなり良くはなっています。とはいえ、普通の人と比べたら、『コミュニケーション障がい』と言われてしまうのでしょう。

 いくら頑張っても、どうにも上手くいきません。


 仕事では、なんとか『これも仕事だから』と割り切って、知らない人とも会話できるのですが。プライベートでは、いまでも他人との交流を避けている状態です。

 役所の手続きなど、仕方の無いときは頑張りますが、何日も前からリハーサルをします。なのに当日は緊張して、汗が吹き出してきて、いつも困るような有様でした。


 結局、本屋では何も見つけることが出来ないまま、私はアパートへと帰りました。


 インターネットは、コミュニケーションが苦手な私の強い味方です。

 本などは、実物を見るのが1番わかりやすいのですが、仕方ありません。インターネットで、手話の本を取り寄せることにしました。

 どれが良いのか良くわからないので、評価の良いものを、適当に一冊選んで購入です。


 いろいろと見ていて、わかったのですが、手話の本というのは、どれも高いのですね。

 たぶん、買う人が少ないからでしょう。

 発行部数が少ないと、自然と単価は高くなる。

 マイナーな業界には、良くあることです。


 本が送られて来るまで、約1週間。何もしないのはもったいない気がします。

 そう思って、私はインターネットで勉強を始めてみたのですが……。

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