第18話 手話歌(手話ソング)
手話歌は『聴者』が考えているよりも、デリケートな内容なので、話題として取りあげるべきか悩みました。ですが、取りあげないことにより、『聴者による手話歌の問題点とされるもの』を知らない事の方が、問題だと思い、今回この話題を取りあげることにしました。
最後までお読みいただき、ご意見や苦情がありましたら、書き込んでいただければ幸いです。
まず、手話歌について。
手話歌を見たことは、ありますか? YouTubeやTikTokで検索すると、大量の動画が見つかるはずです。
定義は人によって様々ですが、共通するところは『手話を使って、歌を表現する方法』となるのではないでしょうか。
歌の一部に手話を取り入れたものは、わりと昔からあったと思います。
古くは1932年頃に賛美歌を手話でやったのが最初と思われますが、あまりにも古く詳しい資料がありません。
近年では、歌に手話を付けて、まるまる1曲YouTubeで公開されている方も、増えてきました。
また、別の機会に紹介予定ですが『HANDSIGN』さんのように、最初から手話歌として、歌を出されている方も出て来ました。
手話を覚えるのに、曲と一緒だと覚えやすかったり、いままで関心の無かった人に、興味を持って貰えたり。好意的に受け取ってくれる方がいる一方で、否定的な意見も少なくないのが現状です。
では、否定的な方にとって『手話歌』の何が問題なのでしょう?
聞いてみると、人によって許容範囲が違い、かなり意見に温度差があるようです。
いままでにも何度か、手話歌が流行したことがあります。(ドラマ『オレンジデイズ』の『上海ハニー』など)
それによって、手話が広まるのは良いのですが、『手話』を『振り付け』と勘違いして、アレンジする人が出て来てしまったのです。結果『間違った手話』として覚える人が出て来てしまい、ろう者が困惑したことがありました。
現在、手話を知らない人が、『普通の歌』を『手話歌』へ直訳することが増えて、手話として成り立たないものが増加したことも、原因としてあります。
手話を習っていない人には、何のことかわからないかもしれないので、例を上げますね。
例えば『帰る』という手話があります。
家に帰る、田舎へ帰るという『帰る』です。
『家に帰る』と『田舎へ帰る』の手話(帰るの部分)自体は同じなのですが、手話を行う人の心の持ちようにより『前に出す』のか『自分へ持ってくる』のかが変わるのです。
言葉にすると、「はるばる帰る」と「いつも帰っている場所へ、戻る」の違いでしょうか。(本来は、もっと複雑)
日本手話は、そこへ更に本人の感情が乗ります。
なので、手話の辞書で調べただけでは『父親が死んで、足取り軽く家へと戻る』という、なんかスゴイものが出来上がったりするのです。
例えば『あたためる』という手話があります。
レトルト食品を温めるとしましょう。
手話では、どんな『方法』で温めるかを、表現しなければいけません。
『湯煎』『電子レンジ』『直火』それぞれ手話が異なります。
日本語でもそうですが、手話歌の反対理由の一つとして『言葉の乱れ』を恐れて、というのもあるようです。
日本手話の使い手は、ろう者の中でも減りつつあります。(『ろう者の親』の9割は、『聴者』とのデータもあります)
私の使うような『日本手話と日本語対応手話』のミックスが、逆に増えているようです。
昔、手話の禁止されていた時代があり、やっとのことで取り戻した『手話』です。それが乱れ、変わってしまう事が、許せないのでしょう。
『ろう者の世界(先天的)に、音楽は無いのだから、音楽に手話を乗せること自体が問題外。それは聴者の手話だ』
と言う方もいました。
言っていることは、わからなくもありません。ただ『手話を言語とする』というルールからは、外れている気もします。
乱暴な例えですが「日本語は、日本人以外は使うな」と言っているようなものですから。
私、あくまでも個人の考えでは、手話は誰のものでもなく、コミュニケーション手段の1つだと思っています。
手話も、質の良いもの、悪いものもありますが、それは普通の歌も同じ事。
外国の歌などで興味を持ち、辞書を片手に調べて、本当の意味を知ったこと、あるのではないでしょうか?
それと同じで良いと思うのです。
きっかけ。入口がないと、何も始まりません。
悪い言い方ですが『手話歌を利用する』ぐらいの心もちで良いのでは無いでしょうか?
歌が好きだったのに、聴力を失う。そんな状況で、手話歌を見たら、どう思うのか。
中途失聴(後天的聴覚障がい)で手話歌をされているモッチーさん(中嶋元美さん)には、本当に歌が好きなのと同時に、なんだかパワーをもらえます。
「それは、あなたが聴者だから」といわれるかもしれませんが、最後に一つ。
手話はコミュニケーション手段です。それによってお互いが理解して、より良い世の中にするのが、最善の策(言い方は悪いですが)だと思います。
互いに歩み寄らなければ、何も始まりません。
『目的』と『手段』が逆にならないように、どうか相互理解が進みますように。
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