第17話 犯人からの暗号文

 次の日の朝が来た。いや、来てしまったというべきかもしれない。

 

 ヤマモトモウタは依然として行方不明のままだった。


 事件解決の糸口すらみつかっていない状況だったが、クローン関連の事件の捜査は通常の場合より捜査の縮小が早い決まりなので、捜査態勢は心許なくなっていた。クローンである事実を隠して登校していたことを批判する人も少なからずいた。クローンの人たちはいつもないがしろだ。こんなときでさえ……。


 僕は昨日から一睡もしていない。


 学校はしばらくのあいだ休校になるという連絡があった。なるべく外には出ないようにと母さんから言われた僕は、息の詰まるような思いのまま家の中をうろつき回っていた。じっとなんかしていられない。ヤマモトモウタのことを苦手なやつだとか思ってたことに今になってすごく罪悪感を感じた。


 ベランダに出て、町の景色のなかになにか手がかりがないか探したりもした。でも空しく終わるだけだった。


 展開がああったのは正午を過ぎた頃だった。


 ふいに玄関のベルが鳴った。


(いったいなんだろう?何かのセールスかな)


 モニターには誰も映っていない。


 と思ったらある物が映っていた。それは床の上に転がっている。


(野球のボールだ、でもなんで……)


 念のため安全確認でフロアに人がいるかのチェック機能を使ってクリアの文字が出たので、僕は玄関の外に出てみた。やはり誰もいない。


 そのボールを拾い上げる。少し大きめに感じる。雨も降っていないのに湿っている。しかもそれはサインボールだった。


(いったい誰が忘れていったんだ。ちなみにどの選手のサインなんだろ?)


 書かれていたのは『黒須かずゆき』という名前だ。


(はて……そんな選手いたっけ……、てか僕の名前じゃん‼)


 もう一度確かめてみる。僕の名前の後に“宛”と入っている。その横に黒い小さい点々がいっぱい。


 なにやら極小の文字のようだ。


(こ、これは僕宛のメッセージボールだ!)


 急いで周りを見回してからすぐに家の中に戻る。


 理科で使うルーペをもってきて拡大して読む。羽ペンで書いたような細い字だ。


 その内容はこういったものだった。


『突然ですが、あなたにヤマモトモウタ君の居場所を教えます。なぜなら、あなたは彼の親友だからです。彼に友達の名前をたずねたところ、一番にあなたの名前がでてきました。だからあなたに教えるのです。でも簡単には教えられません。物事には順序というものがあります。手始めに、次の暗号を解いてみてください。その暗号文の示す場所に、ヤマモトモウタ君の居場所を示したもう一つの暗号を置いておきます』


(こ、これは犯人からのメッセージじゃないか)


 今にも心臓が飛び出しそうになる。ボールをもつ手が震える。


(この犯人はいったいなにを考えているんだ?なにか企みでもあるのかな?それに、あのヤマモトモウタが僕のことを親友と言っただなんて、ちょっと信じがたい)


 頭の中で様々な思いが交錯した。いったん気を落ち着かせて、暗号文とやらを読んでみることにした。


『地上ニ咲キ乱レタ鉄ノ花ノ芳シキ香リハ王ノ元ヘト届クダロウ』


(な、なんだこれは。さっぱりわからない)


 暗号なんてそもそもそういうものなのかもしれないけど、この暗号文がこの町のどこかの場所を指し示しているとは到底思えなかった。


 とにもかくにも、このことを捜査当局の人に知らせなくてはと思い。急いで、各家庭にある『宣誓書型通報システムの機械の上に手を載せる。載せるだけで真実のみが機械に判断されて通報される仕組み。


 ── 送信された。


 すぐに向こうからの返答が手に伝わり手の甲の部分に光る文字で出た。


『イタズラはやめてください』


(は?なんで?ちゃんと送信できたのに)


 もう一度トライしてみる。


 返答が来た。


『クローンのための捜査には期間が定められており、本件はその期間をすでに終了しています』


(そんな……、むちゃくちゃな……同じ人間なのに、助け合わなきゃいけないのに差別するなんておかしいよ。──いったい僕はどうすればいいんだ……)


 しばらくの間、呆然としてしまっていた。


 暗号もわからない……。


 大人たちもとりあってくれない……。


 僕ひとりでどうすれば……どうすれば……。


(そうだ!みんなに相談してみよう!)


 すっかり『ひとり脳』になっていたからすぐに思いつけなかった。僕には三人の友達がいるんだ。


 すぐさま防寒着を着込んで家を飛び出した

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