第18話 次なる暗号文

トミ丸君の部屋に四人が集まった。


 僕の話を聞いたトミ丸君がすぐにクロ丸を走らせ、二人を呼んでくれたのです。


 車座になったところで僕はみんなの前へ例のメッセージボールを出した。その小さい字を読み終えたみんなは一斉に首をひねって考え出してしまった。


 僕は前のめりになって、「これ本当に犯人からのものだと思う?」と、みんなに。


 でも、みんなは上を向いたり下を向いたりして考え込んだままなので、誰とも目が合わない。


 やや時間差があってアギト君が答えてくれた。


「まあ、これが本物かどうかはともかくとしてよ、このメッセージをこのまま放ったらかしとくわけにはいかねえだろ。ただでさえ手がかりのない事件なんだしよ。クローンが被害者だってことで大人たちが動かない以上、オレたちで何とかするしかねえ。オレは差別が大っきれえだからな」


「うん」とみんなでうなずく。「でも暗号かー……」という問題……。


「トミ丸君こういうの得意そうだけど……」と僕。


「んー、ボクにもさっぱりこの意味はわからないよ……」とトミ丸君もお手上げのようだ。


 ガールジェシカちゃんもボールに手をかざして念力を送ったりしてみているけど「だめだわ」と首を振った。


 そのあとも必死に僕らはA町の地図を広げて考え続けたけど、なにもわからないまま時間だけが過ぎていった。こうしてもたもたしている間にも、ヤマモトモウタがどんどん遠ざかっていってしまうような気がした。


(一刻も早くこの暗号文を解かなくちゃ……)


 僕もみんなも口には出さないけど、相当に焦っていた。


 アギト君がとうとう集中力を切らして足を投げ出して言った。


「AIロボット犬が一応くまなく探しているはず何だぜ、なあ、本当にこの町のどこかにいるのかよ」


「そんなこと言っちゃったら元も子もないよ」

と、トミ丸君はスマート井戸の井戸ネットで検索しまくっていろいろ調べている。井戸の中から情報を汲み上げる仕組みだ。


「もしかしたら……」とガールジェシカちゃんが何か思いついた


「もしかしたら、地上じゃないのかもよ。この町のどこかにすごく深い穴を掘ってそこに地下室をつくってとじこめちゃったんじゃないかしら……。だからみつからないのかも」


「じゃあ、もぐらみてえに横穴掘って探しに行くっていうのかよ」とアギト君はイライラをつのらせる。


「べつにいいじゃない意見は意見でしょ」


 そんな二人を僕は「まあまあ」となだめる。


 トミ丸君だけが今の言葉になにかひっかかったみたいで、目を瞑り、ブツブツと念仏のように唱えだした。


「地下……、深い……、穴……。地下……、深い……、穴……」


 そんなトミ丸君にアギト君が「おい、ガールジェシカの言ったこと真に受けんのかよ」と口をとがらす。


 それでもトミ丸君はやめようとはしない。


「地下……、深い……、穴……、鉄の花……、鉄の花……、ん?あっ、そうか!わかったぞ」


 突然目を開いてそう叫ぶと、その場で勢いよくジャンプした。


「なにがわかったの?トミ丸君」


「ついにわかったぞ、いいかいみんな、この暗号文の前半部分は、きっとマンホールのことを意味してるんだよ!」


 トミ丸君の声がところどころで裏返る。かなり興奮している。


「えー、マンホールだって!?」と僕ら三人は声をそろえて聞き返す。


「そうだよ。マンホールのことだよ。『地上ニ咲キ乱レタ鉄ノ花ノ芳シキリ……』の部分はマンホールのことで間違いないと思う。ねえ、みんな、この町にあるマンホールの蓋がどんなだったか思い出してみなよ。ボクは町のことはいろいろ検索してたから知ってるんだ」とトミ丸君。


 その言葉に僕らは一斉に記憶の中を探る。そしてガールジェシカちゃんが一番最初に見つけた。


「そういえばチューリップ模様が入っていたわ」


「そういや、そうだ。それからよ、マンホールの蓋は鉄でできてるぜ」とアギト君がつづく。


 僕もそこでようやく思い出した。毎日公園で壁あてをしているときに、マウンドにみたてていた、あの大きなマンホールの蓋にもたしかチューリップの模様が入っていたし、鉄製だった。


「うん、トミ丸君!マンホールのことに間違いないよ‼︎ 」


 ようやくここで僕にも解けた。これでヤマモトモウタを助け出せるかもしれない。


 だがしかし、トミ丸君は冷静だった。


「喜ぶのはまだ早いよかず君。暗号文の後半部分はまだ解けてないんだから」


 たしかにそうだ。


 再びみんなで暗号文とのにらめっこ開始。


「きっと後半部分もうまくいくわよ」


「なにかひらめいたかトミ丸?」


「アーギー、そんなにいきなりはムリだよ。でもとにかく、暗号文の後半部分を解かなきゃ先へ進まない。だからさ、ボクが思うに、後半部分の『王ノ元ヘト届クダロウ』のところは、場所を指しているはずだよ。つまり、この町のどこかのマンホールのことを表してるはずなんだ」


「うん、うん、たしかに」と僕はうなずきまくる。


 だけどまたそこから先は迷宮となってしまいみんな黙ったまま考え込みはじめる。


 再び重苦しい空気。時計の針が進む音だけが聞こえる。その無情な響きがさらに僕らを焦らせる。


(どうしよう……。せっかく半分解けたっていうのに。こんなにもたもたしてたらヤマモトモウタの身が危ない……)


 焦りに焦った僕はそこでみんなにある提案をしてみた。


「みんな、ちょっと聞いて、あのね、このまま暗号文の後半部分を考えつづけるよりも、この町のマンホールをひとつひとつあたっていったほうがいいんじゃないかな?」


 何とか現状を打開したかった。それにはローラー作戦しかないように思えた。


 ガールジェシカちゃんが何度かうなずいてくれてから「そのほうが早いかもしれないわね」と言ってくれた。トミ丸君も「ここまで解けたのに悔しいけど。それもひとつの手かもしれない」としぶしぶながら賛同の意。


 でも、ただひとりアギト君だけはまったく違う反応だった。


「オレは二つの理由で反対だ。まず一つ目は犯人の言うことを鵜呑みにして手当たり次第だと逆に時間がかかるということだ。この町のなかだと言ってるがどうかはわからない。暗号を解くことによってそのこともわかるはずだ。もう一つは、いいかお前ら、マンホールがいったいこの町にいくつあるか知ってんのか?おれは生物マシンだから特殊都市整備学の授業があるから知ってるが、星の数ほどあるんだぜ。だからどっちにしろオレたちだけじゃ相当な時間がかかっちまうってことだ」


 それは正論だった。僕はなにも言えなくなってしまった。


「じゃあ、この町にマンホールっていったいいくつあるの?」と、ガールジェシカちゃんが人差し指を顎の先にあてる。


「さあな、とにかく星の数ほどだ。ちなみにマンホールっていうのは、下水道の交差している部分にある。それからマンホールの大きさは直径の大きさごとに0号から5号までの六つの種類に分けられてんだ。まあ、でも、こんな豆知識は今は何の役にも立たねえけどよ……」


「ちょ、ちょっと待って、アーギー、今、なんて言った?」とトミ丸君がなぜか目と声を大きくして反応した。今のアギト君の言葉に何か気になる点でもあったのだろうか。


「ん?」という顔のアギト君が困惑気味に答える。


「オレがいま何て言ったかだって?ええっと、おれは生物マシンだから……」


「そこじゃなくて、もっとあとだよ」


「あと?ああ、マンホールの大きさは六種類あるってとこか?」


「そう、それそれ、うん、そうか……、六つに分けられてる……、そして星の数ほどある……、ん⁉そうか‼ わかたよ」


 トミ丸君が声を上げた。何かと何かが結びついたようだ。僕は期待を込めた眼差しを送る。


 トミ丸君は「よし、よし」とうなずきながら井戸ネットでなにかをとりよせて僕らの前の畳の上に広げた。見ると、その大きな紙は全天星座図だった。世界地図などでよく使われるエケルト図法で描かれたその星座図には88個すべての星座が載っていて、それぞれの星座にはわかりやすく絵が入っている。星は黒い点で示されていて、一等星から六等星までをその点の大きさで種別している。


 星座図の上にはほかにも数え切れないほどの星が散りばめられている。すごい数だ。


 図の中央をうねるように黄道が横切っている。黄道とは天球上の太陽の通り道のことだ。黄道の左端はうお座のあたりで、右端はおひつじ座のあたりだ。


 みんなで囲んで前のめりでのぞき込むように見る。まるで百人一首でもするかのように真剣に見入る。


「トミ丸君、この星座図が暗号文といったいどういう関係があるの?」


 僕にはまださっぱりわからない。


 他の二人も「そうだ、そうだ」と同じみたい。


 トミ丸君が顔をあげ僕らを見ながら、おどろきの答えをくれた。


「実は、さっきのアーギーの言葉でひらめいたんだよ。星の数ほどあるってことと、6種類に分けられてるってことでね。ボクの推理が正しければ、おそらくこの町のマンホールは、この全天星座図に散りばめられた一等星から六等星までの星たちとまったく同じ位置関係で配置されているはずさ」


 そう言い終わると同時にトミ丸君は指を鳴らす。


「なんだってー⁉︎ そんなことってあるのー⁉」


 僕らはただただ目を丸くするばかりだ。


 改めて全天星座図を眺め回す。この星たちと同じ位置関係で、この町のマンホールが配置されているだなんて、にわかには信じがたい。そして、その新事実の前にすっかり正座になってしまう僕。


 トミ丸君はさらにつづける。


「ボクのこの説なら、暗号文の後半部分『王ノ元ヘト届クダロウ』のところもすんなりと解けるんだよ。ほら、かず君、王の星と言えばなにか知ってるよね?」


「王の星と言えばレグルスのことだよ」


「ピンポーン。そのとおり、しし座レグルスは王の星って意味なんだ。つまり、この町のレグルスの場所にあたるマンホールこそがこの暗号文の指し示す場所なんだ」


 トミ丸君は戦国武将風ドヤ顔になっている。


「なるほど」な僕ら三人。


 さっそく証明してみようとするも、「あとはA町のマンホール配置図さえあれば……」とトミ丸君が下唇をかむ。


 言下にアギト君、「その図とやらなら家にあるぜ、社会科見学のときにもらったものがたしかあったと思う。すぐに取ってきてやるよ」で、部屋から飛び出していってしまった。


 30分ほどでアギト君は戻ってきた。手にはマンホール配置図。おそらく猛ダッシュしてきたんだろう。息が上がっている。


「これでいいんだろ」と、バサッとその図を僕らの前に投げると、力つきたみたいにその場に寝ころんだ。


「これでわかるわね、なんか緊張する」


 ガールジェシカちゃんはそう言いながら丸まってた図をていねいにのばして広げてくれた。


 僕の心臓もバクバク鳴り出した。


(もしも違っていたら……)


 そんな考えもよぎる。とにかく祈るような気持ちだ。


 トミ丸君が、「それじゃあ、確かめてみよう」と言って、全天星座図とマンホール配置図を横に並べる。


 マンホール配置図のほうを見ると、そこには、この町の細かい地図にマンホールの配置が反映される形でわかりやすく載っていた。マンホールは白抜きの丸印で表されて、そこに直径をあらわす数字も入っている。


 二つの図を交互にぱっと見比べてみてわかることは、僕らの住むA町は全天星座図のように東西にのびた長方形の形をしているということだ。肝心の星の位置関係とマンホールの分布状況がが同じかどうかについては、二つの図のサイズが違っていることもあって、すぐには判別できない。


「マンホールってこんなにいっぱいあるのねー」とガールジェシカちゃん。


 息の整ったアギト君も参戦で「このまま見比べてもわかりずらそうだな」と図に顔を近づけまくる。


 そこでトミ丸君が「いい考えがある」と言って、赤ペンを取って戻ってきた。


「それじゃあ、これを使ってわかりやすくしよう。レグルスは一等星の星だから、とりあえずこのマンホール配置図の中のもっとも直径の大きい5号マンホールに赤ペンで印をつけていってみよう。ボクの考えが正しければ、全部で21個あるはずだから」


 その意見に従って、僕らは一斉に5号マンホールを配置図上に探しはじめる。みんなで這いつくばりながら探したのでてんやわんやだ。


 あーだこーだしながらも、全ての5号マンホールを見つけ終え、すぐにその数を数えてみる。


 なんとその数は21個だ。


 見たところ、その散らばり方も全天星座図の一等星のそれと同じように見える。


「すごいや!やったねトミ丸君」


 僕は顔を上げ、トミ丸君を見た。


「うん、でもまだ完璧に証明されたわけじゃないから、この町で二等星と三等星のぶんもやってみよう。そこまでやれば、もっとはっきりわかってくるはずだから」


 トミ丸君の声にも弾みがつく。


 僕らは再び配置図上を這いずり回って4号マンホールと3号マンホールを探し始める。今度はさっきよりも数が多いためけっこう時間がかかった。それでもなんとか印を付け終えると、すぐに数を数えてみる。


 4号マンホールが67個、3号マンホールが190個だ。


 またもやそれぞれが一致している。


 これはもはや偶然なんかじゃない。


「かず君!ほら、ここ見てよ」とトミ丸君が興奮気味に言いながら、配置図の中の一つの場所を指で指した。なんと驚くべきことに、そこには5号マンホール二つと4号マンホール四つがオリオン座の形に並んでいるのです。オリオンのベルトとも言われる小三つ星がはっきり見てとれる。範囲を広げてみてみればその他のところでも同様のケースがすぐに見つけられた。


 もはや疑う余地はなかった。


 この町のマンホールは全天星座図の星とまったく同じように散らばっているのです。


 きっと僕ら以外には、この町に住む誰一人としてこのことに気づいていないんだろう。


「信じられないわ……。こんなことってあるのね……」


 ガールジェシカちゃんの目もまん丸のまま固まっている。


「よしっ」とアギト君が勢いよく立ち上がる。


「よし、これでトミ丸の推理が当たってるってことがわかったわけだな。で、肝心のレグルスの場所ってのはどこなんだ?」


 すでにアギト君は体半分が出口のほうへ向いていて、いつでも出動できる体勢だ。


「えーと、ここだよ」とトミ丸君がレグルスの場所を指でさす。


 そこはなんと僕の通う第一小のすぐ近くだった。


(はて……、学校の近くに大きなマンホールなんてあったっけな……)


 ただでさえ学校に行く機会の少ない僕には、まるで思い出せない。でもきっと存在するはずだ。とにかく行くしかない。


 話し合いの結果、現地に行くのは、アギト君と僕の二人ということになった。ガールジェシカちゃんは女の子だし危険だという理由で、トミ丸君は外に出ることができないので、二人には部屋で待機していてもらうことになった。


「ごめん……、ボク、肝心な時に役に立たなくて……」とうなだれるトミ丸君。


「そんなことないよ。だいたい暗号を解いたのはトミ丸君じゃないか。ここは僕たちに任せておいてよ」と僕。


「アタシも一緒に行きたかったのに」と残念そうなガールジェシカちゃんにも同じように任せてくれと言った。


 いざ出発しようとしたときトミ丸君が戦国テクノロジーのトランシーバーの役を果たすDXされた法螺貝ほらがい、通称『かいフォン』を手渡してくれた。クリプトファジー方式なのでどんなに無防備に会話しても見方にだけにしか聞こえないという特性がある。


「ありがとう。これで状況を報告するね」と僕。

 アギト君が威勢良く「よし!次の暗号を見つけにいくぞー」と掛け声したのを合図に僕らは部屋を飛び出した。


 地上に出ると、空気のにおいがすごく新鮮に感じた。長い時間部屋の中にいたせいだろうか。夕日が沈もうとしている。急がないと暗くなってしまう。


 僕たち二人は目的地である第一小付近え向かってただひたすらに走った。幾度となく無人パトカーやAIロボット犬とすれ違った。町の中はすごくピリピリしている。もちろん、通りに出ている小学生なんて一人もいない。


 走り続けること15分。目的地に到着した。


 そこはマラソン大会の時に僕が急減速をして、ヤマモトモウタに追い抜かれたあの場所だった。


(まさか、ここだったなんて……)


 僕の足元にはチューリップの模様の入った巨大なマンホール。見ているとなんだか大きな目に見つめられているような気分になる。


 見入っていると、遅れてアギト君が到着した。かなり息があがっている。


「お前、意外と足速いんだな。びっくりしたぜ」


 アギト君は白い息を小刻みに吐きながら、右手を膝の上につき、左手を僕の肩の上に乗せた。


 息がととのうとすぐにアギト君は「さっさと暗号をみつけちまおう」と腰を上げた。


「うん、そうだね」と僕もうなずく。


 すぐさま次なる暗号探しに着手だ。とりあえず、マンホールの上にはそれらしきものは見あたらない。その後もしばあくの間、あたりを手分けしてさがしてみたものの、なかなかみつからない。


(どうしよう……)


 僕の焦りを察知してか、貝フォンからトミ丸君の声が聞こえてきた。


「応答願います。応答願います」


「はい。こちら、かずゆき」


「暗号は?みつかった?」


「ううん、それがまだみつからないんだ」


 僕は貝フォンに向かって首を振る。


「そっか……、そこに間違いないはずなんだけどな……」


「大丈夫だよトミ丸君。まだここじゃなかったと決まったわけじゃないし、気合い入れてもっと探してみるよ」


 僕は自分にも言い聞かせるようにそう言った。


 でもそこで、側溝の中を確認していたアギト君が「どうやらここじゃないみてえだな、ちくしょーまたふりだしだぜ」と、ぼやいた。


「まだそうと決まったわけじゃないよ」と、もう一度僕。


「ケッ、これだけ探してもないんだぜ。もうこれ以上ここを探しても時間の無駄だ。それとも、まさか、このマンホールの蓋の下ってわけじゃねえよな。こんなでっけえもん、オレたちだけじゃ持ち上がらねえぞ」


 アギト君はかぶっていた帽子を頭からとって放り投げた。もうお手上げといった感じだ。


(でも、あきらめるのはまだ早い。あきらめちゃいけないんだ)


 なんとか気持ちを奮い立たせてもう一度あたりを探してみようと顔を上げたとき、目の前を白い物体がフワリと横切った。


(おや?なんだろう)


 その物体を目で追う。すぐに判明。どうやら紙飛行機のようだ。それも鳥の形に折られたタイプで独特の飛び方をしている。


 数秒後に紙飛行機はゆっくりとしたスピードで巨大なマンホールの上に、まるで計られたかのようにきれいに着地した。どこにも人影はない。


 すぐに僕らは顔を見合わせ、頷き合う。きっとこの紙飛行機に暗号が書かれているに違いない。


 僕は素早くその紙飛行機を拾い上げる。寒さのせいなのか、緊張しているからなのか、指が思い通りに動かない。それでもなんとか紙飛行機の折り目を広げた。すると、そこには思った通り犯人からのメッセージが書いてあった。


『約束したとおり、ヤマモトモウタ君の居場所を教えます。次の暗号文を解読してください。この暗号文が指し示す場所にヤマモトモウタ君のいる星の牢獄があります』


(星の牢獄だって⁉ 何なんだそれは。そもそもなんでヤマモトモウタが牢獄に入れられなきゃならないんだ。本当に牢獄に入らなきゃいけないのは憎むべきゆうか犯なのに)


 それでも怒りを抑えて暗号文に目を移す。


『地上ニ咲キ乱レル鉄ノ花ヲ守ル三ツノ犬ニ聞ケ』というものだ。そのあとにただし書きがあって、この牢獄は暗号を解いた場合のみ出現する仕組みでローラーはできない旨も書いてあった。


 僕の横からのぞき込んで読んでいたアギト君が声を出す。


「ケッ、やっぱり暗号かよ。つくづく暗号が好きな野郎だ。でもよ。今回のやつはなんだか簡単そうじゃねえか」


「うん、僕もそんな気がする」


 暗号文の前半部分は前回と同じだ。ということはまたこの町のどこかのマンホールをさしているということだろうか。


 僕は貝フォンでトミ丸君に暗号文がみつかったことと、その内容を伝える。すぐに甲高い声が返ってきた。


「なんだ簡単だよ!今回のは朝メシ前のお茶の子さいさいのレッスンワンだね」


「ほんとに!早く答えを教えてよ」


「いいかい、かず君。前半部分は同じでマンホールのこと。後半部分の『三つの犬』っていうのはおそらく、おおいぬ座、こいぬ座、りょう犬座のことだと思うよ。つまり、この町における、その三つの星座に位置するマンホールのうちのどこかに、その星の牢獄があるってことだよ。ちょっと待ってね、すぐに場所を調べるから」


 横でそれを聞いていたアギト君は、早くも気合いの入った目つきに変わっている。


 まもなくして送られてきた『三つの犬』の場所情報をもとに、すぐさま僕らはその場を後にした。

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