祭娠

@fujisakitaika

祭娠

祭娠 藤咲太華


太陽が照りつけるほど眩しい夏の日である。

俺は大都市から逃げ出し、放浪の旅に出て自分探しを名目に逃避行を続けて現在、愛媛県の山奥の停留所にいる。

一面を見渡してみると、田んぼ、田んぼ、田んぼ、山。

最初は東京よりも新鮮だと思った景色も、今じゃ退屈だ。


ここにくる4時間前、愛媛の都市部に到着して、早々、俺は美女を見つけたため何としてでも、彼女の連絡先を手に入れようとアプローチを試みていた。

「あの、お姉さんはここにはよく来るんですか?」

俺は平然を保ちながら、思いついた言葉を彼女に言った。

しかし、彼女は俺にも目もくれず、駅の改札に向かおうとしていた。

何がいけなかったのかを必死に考えたが、俺は恋愛マニュアル本を10周した身だ。誰よりも女を口説ける自信があったのだ。

「お姉さん!」

反応してくれない彼女を追いかけた。もしかしたら、もう一度声を掛けたら、拒絶はされなくとも会話をしてくれると思ったのだ。

「怖いので、関わらないでくれますか」

彼女の目はとても冷たかった。しかし、俺の話しかけた努力は頑張った方だと思ていたのである。

だからこそ、彼女の反応にはショックしってしまった。

その時の俺は何がいけなかったのを考察するため、彼女とは反対方向に歩き。バス停のベンチに座ったのである。

どうして彼女は俺を冷たくしたのだろうか。自分の容姿にはあまり自信がないが、清潔感はそこら辺の中年男性よりも整っているはず。

話しかけかたがいけなかったのか?俺は彼女を見つけた時には、嫌われないような言葉遣いに心がけたはずだ。

だったら、何がいけなっかたのだろうか?俺は神にでも見放されたのだろうか?

そう自分が、一人もんもんとベンチで考えてるうちに考えるのが嫌になってきた。

東京の仕事を辞めて、今こうやって自分は6カ月の日本旅をしている。同僚には馬鹿にされた、上司にはあきれられた。

それでもいい。このさき、50年も仕事をすると考えていくとそんなのでは死にたくないから、今こうして旅をしている。

残りの現金は80万、高校からアルバイトして貯めてきたお金が減ってきている。最初はもったいないと思っていたが、ここまで何とかやってきている。

まだ自分を見つけれていない。女の人に声をかけて恋人になってもらえれば、自分が見つかると思って、2カ月前から何故か続けているが、これも失敗している。

ああ、いっそのこと山に登ろう。登れば気分も和らぐはずだ。この突拍子のない考えで自分は旅を続けてきた。

そういえば、と自分はベンチの横を見ると、停留所だとわかった。

江治の山方面。

もうどうだっていい。終点まで行ってしまおう。

数分待っていると、運よく江治の山方面のバスが停車したので乗り込んでやった。

引き返す気持ちのがまだあったのか乗車券を摂った自分はシートに座って財布を見た。

小銭がたんまりとあった。降りる気うせって、自分は目をつぶった。


どれだけ時間がたったのだろう。バスはまだ動いていた。

窓に目を移すと田んぼが広がっていた。

アナウンスが聞こえてきた。自分は終点まで向かうつもりだったが、今更帰りの心配をしたので降りることにした。

830円、高すぎる。自分はいくつバス停を通過したんだろうと思った。せめて、観光名所があるところに降りておけば不自由ないのだが、

降りた場所は簡易な停留所と四方八方にみえる田園だけだった。

暑い。ここまで来たのは自分の責任ではあるが、バスにもここまで連れてきたことに対して怒りみたいなものを感じた。

とにかく、停留所の椅子に座って次のことを考えねば。

まずは、現状況の確認をするしてみた。

俺は今どこにいるんだろうか?まわりを見渡してみる。田んぼ、田んぼ、また田んぼ、あ

時刻表があるじゃないか。俺は時刻表に体を動かした。

永結村、なんて読むんだろうか。いやそれはいい。次のバスの運行が知りたい。

腕時計を確認して、時刻表と照らし合わせてみる。おかしい。

そもそも、この時刻表を見る限り、バスは一日に二回のみここを往復でくるみたいだ。

そして、俺が乗っていたのが今日の最終だったのだ。

絶句した。東京で慣れていた公共交通機関のありがたさを同時に感じたがこれでは俺は移動できないどころか。今日は一日ここで過ごさなければならなくなる。

16時。次のバスは朝の8時だ。田舎というのはどうしてこうも...

ベンチに座りなおした。

そもそもの原因はあの女だ。俺の精一杯のナンパを断ったのがいけない。そうだ。冷たくせずにやんわりと断ってくれれば次に生かせたはずだ。

そうだろうか。いや、どう考えても俺のヘタレ具合が原因だ。

どうしたものだろう。俺は目を瞑った。とりあえず冷静を取り戻そう。少しだけ此処で休んでからバス停に書かれていた「永結村」に向かおう。

しかし、今に至る。10分仮眠をとったものの、人と関わることに慣れていない自分が村の人に声をかけるのが怖くて、足がすくみいまだにベンチに座っているのだ。

退屈だ。動きたくない。畜生、ナンパみたいなのが出来るのにこれができないのはおかしくないか自分。

「おにいさん、ここでなにしてるの?」

凛としていてかわいい声だ。俺は声の方に顔を向くと、少女がそこにいた。

顔立ちは幼いものの、どこか大人びた目つきで、ショートボブ。なんだか、じろじろ見ていて失礼かもしれない。

「あ、あのさ。俺間違ってここに降りちゃってさ。助けて欲しんだよ。」

少女は不思議そうに近づいてきた。しかも、単調に俺のそばにだ。

俺はどちらかというと、お姉さんが好みだ。しかし、緊張してしまっている自分がいる。

「そうなんだ。見かけない顔だね。観光の人?」

俺はどぎまぎしながらもうなずいた。

「へんなの、けどそっか。明日はお祭りだもんね。そうだそうだ。私の晴れ姿だし、村の人たちが、いろんな人を呼んだんだね。」

お祭り?こんな辺鄙なところで?

しかし、少女はしゃべり続けた。

「おにいさん物好きだよね。もしかして、俗にゆうロリコンてやつ?変態じゃん。不審者じゃん!」

何を言ってるんだ。こいつは、支離滅裂に言ってるみたいだ。

少女は目の前でべらべらとしゃべり続けていたが、俺はチャンスだと見た。この子なら話ができるかもしれないと。

「なあ、嬢ちゃん。とりあえずさ。ここがどこなのかを知りたいんだけど」

少女の声よりも大きめで圧を与えるように俺は言った。

その子ははっとした顔になり、再び俺を見つめて口を開いた。

「あ、迷子なんだ。私よりも年上なのに迷子なんだ。まあいいや。ここはね、永結村だよ。可哀そうだから、おじいちゃんたちのとこ連れてってあげる」

その子は、俺のtシャツを引っ張り、ついて来てと言って歩き出した。

”えんむすび村”。漢字では読めない言葉だ。縁結びと関係があるのだろうか。ここは疑問が絶えないと俺は思った。

その子は田んぼの間の細道に立っていた。

「はやくきてよ!」

俺は重かった体を起こし、少女の後を追った。

お祭り。変わった名前の村。不思議な少女。

俺が東京で働き続けていた暗き日々。

六か月収穫もなかった旅で初めての好奇心がくすぐられる出来事になるかもしれない。

駅での出来事がなかったかのように自分の足が軽かった。

二人で永遠と続きそうなほどの細道を歩いている。

少女はさっきまでの天真爛漫な表情から一転して暗い。何よりも一言もしゃべらなくなったのだ。

明るかったり、暗かったり情緒が安定していない子だと俺は思った。

「嬢ちゃん、俺ここんとこよくしらないからさ。色々教えてくれないかな?」

沈黙が退屈になってきたので俺は、少女に尋ねてみた。

少女は俺の顔を見ずに、ただ真っ直ぐと道の先を見ていた。

「嬢ちゃん嬢ちゃんてうるさいな。私はツナギて名前があるの。」

冷たい口調で俺に当たってきた。

わからない。年頃の女の子というのは気分屋なのだろうか。

「それは、ごめん。ツナギちゃん。俺は薫だ。どうたんだ?なんか俺悪いことした?」

当たりの強い人は慣れない。とりあえず。低い物腰で伝えてみた。

それでも、ツナギはこっちを見ない。

さすがにそう、冷たくされると、ほおっておきたくなる。

また退屈な沈黙が場を支配する。

すると、数分の沈黙が続き、ツナギが走り出した。

俺はあっけにとられた。奇怪な行動を繰り返すもので、どう対処すればいいかわからない。

だいぶ俺から離れたところでツナギが立ち止まって身をすくんだ。

どうしたのだろうか。俺は走ってツナギに駆け寄ろうとした直後。

ツナギが大声で叫びだした。キーンとなる甲高い声だ。

俺は身じろいぎ。耳に手を当てる。

「神様だ!どうしたの!」

ツナギは中腰の姿勢をとり空を見上げて、大きな声でしゃべりだした。

続けてしゃべり続けたが支離滅裂だ。

なんなんだこの、ツナギという少女は!俺は突然の出来事で体が動かない。

この少女は、おかしすぎる。だれか助けて欲しい。この子をおいて停留所に戻ってしまおうかとも考えてしまった。

「そうだよね!明日だもんね!楽しみに待っててね!」

ツナギは笑って空を見上げてしゃべっていた。

明日。祭りのことだろうか?

そもそも、神様だ?独り言とも思えないし、誰かと喋っているのは間違いない。

何かの病気なんだろうか。

俺がツナギの奇怪な行動にくぎ付けになってると、道の奥から、3人ほどの人の形が見えてきた。

助かった。村の人だろうか。俺がいかなくても、ツナギのおかげでやってきてくれた。

ツナギを呼ぶ声がする。だんだん容姿がわかりやすくなってきた。

2人は高齢で左の男は中年といったところか。

3人は、ツナギの元に行き。右の男がツナギを担いだ。俺はその姿を見て家族の方なのだろうかと思った。

「あなたは、観光の方でしょうか??」

真ん中の男がおれによって喋った。

なんとも田舎にいるおじいちゃんて感じの容姿だ。

「違うんです。バスで間違って降りちゃって、明日のバスまでどうしようか困ってたんです」

3人が怪しそうに交互に見合っている。

俺はそんなにやばい奴に見えるのか。むしろそっちの女の子の方がやばいだろうよ。

沈黙が続き左右の男たちは先に村の方向に歩いて行った。

「そうなんですね。てっきり明日の祭りの観光者かと思いました。わかりました。今日は私の家に泊まってください」

そんなやさしい言葉に俺は口角が上がった。感謝を伝えて、男の後をついていくことにした。

道中に男からいろんなことを聞いた。

男はここの代表者らしく、ツナギの叔父だそうだ。

ツナギは、母方が代々巫女の家系らしく、それが原因で神様が見れるそうだ。

俺は病気だと思ったんだが、叔父は話を続けてた。

「この村の神社では荒金神様を祀っているんですよ。そしてツナギは巫女として神様の声が聞こえてくるんです。最近聞こえるようになったためか、体調が悪いんですよ」

”あらこがねぬし”聞いたことない神様だ。にしても信じられない話だ。

神が見える少女か。疑問が残るが男は続けた。

「世代に一度、巫女は16を迎えるときに祭りをするんです。お兄さんよかったですね。明日やるんですよ。泊まるついでに見て言ってください」

祭りというのはそういうことだったのか。真面目な儀式的なことをするんだな。

「そのため、この時期は体調が一層悪くなっているのにツナギは、山遊びをしていて、丁度あなたを見かけたみたいですね」

一人で俺に近づいたのはそういうことだったのか。

話を聞いていくと、ツナギがおかしいのは神様のせい。

ツナギが発狂している時に神様と話している素振りだったのでこの村では当たり前のことなのだろうなと、無理やり自分を理解させた。

叔父と話していると、村に着いた。見たところ木造の建物が、密集していてちらほらと商店やコンクリの建物も見れる。

村というより、町に近いな。

「あの、なんでバス停からほど遠いですか?」

叔父は笑って言った。

「そうなんですよね。我々も市に訴えたのですが、道路を立てる代わりに田んぼを埋めるなら考えるて言われたんですよ。しかし田んぼが埋め立てるととなるの村人の収入がなくなるのでしぶしぶあそこになったんですよ」

そういう理由があったのか。なら仕方ないなと俺は相槌をした。

「私の家はこちらです」

俺たちは、家に向かた。他の木造と大差がない。普通の家だ。俺は、中に入るとツナギが居間でくつろいでいた。

「あ、薫さんだ。ようこそ。」

ツナギは元気に俺を出迎えてくれた。ツナギの叔父はこの人は明日までここに泊まるから粗相はするなとツナギに言っていた。

「今晩はうちに泊まるの?じゃあ、この後さ村の外の話聞かせてよ!」

ツナギは立ち上がって言ってきた。

「ああ、いいけど。そういや体調は大丈夫か?」

ツナギは支度の準備をしているみたいだ。俺は畳に座り込んでツナギの方を見た。

「体調?別に大丈夫だよ?」

おかしい。あれほどの発狂だ。そんな簡単に切り替わるものなのかと疑問に持った。

叔父が居間に入ってツナギの方へ向かう。

「おまえあれだよ。頭おかしく」

と続きをいおうとしたときに叔父が俺のそばまで来て顔を覗いてきた。

怖い。なんですかと俺は叔父に伝えたが、答えてくれない。

「えーおじさん、薫さんとの距離近いね。仲良しなの?」

叔父はさっきの恐ろしい顔から一変し柔らかい笑顔でツナギにそんなところだと答えていた。

「じゃあ、あたしとおじさんで明日のお祭りの練習してくるから、待っててね」

ツナギが先に玄関へ早足で向かっていった。

俺と叔父二人っきりだ。すごく怖い。先の表情はまるで大熊のような目つきだったのだ。

「ツナギを変なもの扱いしないでください。絶対に」

無表情で俺を見つめて、冷酷な声色で言ってきた。

叔父は、ツナギの方に向かっていった。

取り残される俺は、怖さはあるもののこのおかしな村への興味が湧いてきた。

まず、は村の探索に行こう。ツナギたちが帰ってくる前にがベストなんだと思う。

居間に荷物を置き、必要最低限の物をリュックにつめ、俺は外へと出た。

歩く。叔父の家の周りには数件の家々が立ち並ぶ。なかは確認できないものの、物音が聞こえないためおそらくみんないないんだろう。

叔父たちの3人しかまだ村人がいないが、これまでの立ち振る舞いを見るに、よそ者を毛嫌いしているように感じる。

都市部の人間は毛嫌いはしない者の、そもそもの無関心があるため比較すると、まずは俺を歓迎はされていないのではないかと思う。

十字路だ。真っすぐを見ると山と神社が確認できる。

目を凝らしてみると、沢山の村人が神社の階段を上がっているのが見える。

もしかしたら、村人全員で祭りの練習をするのだろうか。

追っかけようとしたが、叔父の恐ろしい顔を思い出して身をすくんだ。

右の道を見ると商店街だ。件のコンクリの建物もある。

左は田んぼの軍勢だ。ここから俺はやってきたんだと思う。

そうしていると、夕暮れ時になってきた。

カラスの鳴き声と神社からの騒がしい音が聞こえる。

俺が東京で見てきた景色よりも洗練とされていて、このまま何事もないのなら俺の肌にここはよく合う。

ふと、田舎というものはいいものなのかもしれないと思った。

立ち尽くしていると、商店街から走る音が聞こえてきた。

「ちょっときみ!」

白衣姿の男がやってきたのだ。医者だろうか?

「どうしてこんなところにいるんだい?迷子なのかい?」

とても心配そうに俺を見ている。俺は彼を見つめ、

「バスが来なくなったのでまとめ役の人に今晩泊めてもらうんです」

彼はすごく怯えている。どうしてなのだろうか。

「それはまずいことになったね。とりあえず僕のところに来て」

俺の手を強く引っ張り、それに答える形でついていった。

どうゆうことなのかと尋ねたものの、彼はここではまずいと言った。

何がまずいのだろうか。けれども連れられるままに歩いた。

コンクリの建物の中に到着した。彼は早く来て俺を催促して中に入った。

中にはベンチや受付、向こう側に診察室と書かれたドア。診療所なのかもしれない。

彼は建物のドアに鍵を閉めて、小声でベンチに座れと言った。

俺は言われるがままに座った。彼はいまだに心配そうだ。何がそれほど彼を怯えた顔にさせているんだろう。

「僕は池崎東二。毎月愛媛の都市部からここにきて村の皆さんの健康管理をしてるんだ」

東二さんは、君はと訪ねてきたので、自分の名前を伝えた。

「薫君、ここまで来た理由を詳しく教えてくれるかい?」

深刻そうだ。俺は断る理由がないので、ツナギの事。ここまで来た経緯を伝えた。

東二さんは手を自身の顔に当てて、もう手遅れだと独り言を呟いた。

どうしてなんですか?と俺は聞いた。

この村に興味はあるし、はやく別の場所に移りたくて仕方がなかった。

東二さんは俺に事詳しく村の事情を教えてくれた。

永結村は、古くから山の信仰が根付いており、村の人々はそのしきたりを何世代も守り抜いてきたそうだ。

しかし、そのしきたりが恐ろしいそうで、ツナギの叔父が言っていた。選ばれた巫女が16の時に祭りを開くことがまずいと東二さんは語った。

明日ツナギが神社で身を燃やして荒金神に生贄になると、俺はさすがに驚いた。

ツナギはまだ若いのに、信仰に従順なのも問題だが、それを可能にしているこの村の異常性がおかしい。

東二さんは続けてしゃべってくれた。

明日の祭りには愛媛の著名人を客として招き、ツナギの巫女としての儀式を見てもらうそうだ。

だから、俺は観光客として見られていたのかもしれない。しかし、そんな非人道的なことを人を招いてまで行うことは気が触れる。

「僕はね、薫君。君がよかったらでいいんだけどさ。ツナギちゃんを連れだしてここから離れて欲しいんだ。」

突然の頼み事だ。俺としては面白そうこの上ないので断る理由がない。いいですよと俺は答えた。

東二さんは驚いて、俺の手をとって上下の手を揺らした。

「本当かい!?断られると思ったんだけど、助かるよ。」

そういわれると、俺はなんだかうれしい気持ちになった。

東二さんはさそっくと言わんばかりに、これからの手順を伝えてくれた。

村人たちの練習は19時までで、今の時刻は18時前後だ。

18時半になると神社ではツナギと神主が舞を始めるそうだ。

俺はそれを見計らい神社の境内に入り、書き分け中央にいるツナギを抱えて逃げる。

東二さんはその間に村の外のバス停までに車を回すそうだ。

村からバス停までの時間徒歩で10分、東二さんが車を回してバス停まで20分。

19時までに全速力で行わらなければならない。

実に単純だが、それでいて体力勝負でいて、ミスが絶対に許されない。

燃える。今までの退屈な人生の中で一番危険な仕事だと思った。

東二さんは早速車を取りに行く。俺は健司さんの言う通りに神社に行く。

出会って間もないのにお互いの信頼を賭ける。初めてのことだ。

だからこそ、やる気がみなぎるし、緊張もする。

頼みますよと東二さんが決意に満ちた顔で俺の肩を叩いた。

もちろんですと、俺は笑って東二さんを見た。

18時過ぎ。俺は神社に向かって走った。俺は運動経験は所詮高校時代のサッカー部までが全盛期だ。

しかし、この6か月間の旅で余計な脂肪が減り、自分で言うのは何だが今なら全盛期に近い体力があると思っている。

走り続けていると神社の鳥居に着いた。後ろを振り返ると、田んぼで道すっきりと見える。

東二さんが自転車で細道を漕いでいた。なぜだ。これから俺はこの階段を上っていくのにと、東二さんが恨めしく思ったが今はそれどころではない。

談笑が聞こえてきた。まだ時刻は30分を回っていない。俺は、階段を素早く登っていく。

登っていくと、松明立てと鳥居が見えてきた。ぼうぼうと松明の炎が燃えている。

頂上付近なので人々の声がはっきりと聞こえる。俺は階段脇の雑木林に入り込み身を屈んだ。

18時20分東二さんは車に乗ったのだろうか。

絶対に成功してやりたい。自分の誇れるものが見当たらないから、これをこなせればきっと自分を誇れるはずだと俺は確信している。

人々の声に耳を澄ましてみた。

俺は聞き続けていると、奇妙な話だとわかり、気持ち悪くなった。

平井家が広島から帰ってきて本当に良かった。この村も安泰だ。

やっと神様が我々を守ってくれる。ツナギちゃんのおかげね。

ツナギちゃんの体つきはとてもいい。ああ、これは神様もさぞ喜ばれよう。

神様を見れるのは母も同じだったな。それは残念だったよな。母も16を迎えての祭りを開こうとしたのに平井家の奴らときたら、村離れをしよって。

こいつらは異常だと俺はここで再度理解した。生贄は当たり前のことだと信じて疑わない。

ツナギの叔父もどうかしている。なんで自身の孫を当たり前のように生贄にしようとしているんだ。

俺は気持ち悪さから、怒りに代わっている自分の感情に気づいたその直後。

和楽器の音が鳴り出した。太鼓の叩く音で俺は我に返った。

時間だ。

俺は雑木林をめちゃくちゃにかき分けた。おそらく枝で腕を切ったのだと思う痛みを感じた構うものか。

神社の境内に入る。その場にいた、全員が俺を注目する。気持ち悪い。

まるで来てはいけない異物だと言わんばかりの視線。俺はそれを無視して突っ走る。

東二さんの言う通り、ツナギが真ん中に立って舞っていた。

白い装束。金属物の飾りもの。綺麗だと思ったものの、ツナギの顔はあの時の発狂に近い形相だった。

「ツナギ!」

俺はツナギに近づいたのと同時に、周りにいた全員が俺を捕まえようと群がる。

和楽器はなり続けた。

ツナギをお構いなしに、抱え込み鳥居に駆けようとする。

振り返ると間一髪の状況だった。俺は人の群れの間を何とか潜り抜けた。

ツナギは思ったよりも軽く。走る分にも問題なかった。

後ろは振り返れない。だけど大量の人々が俺を追いかけているのは確信できた。

しかし、奇妙なことに和楽器の音は止まず、人々は誰一人喋らない。それには恐怖が隠し切れない。

俺は今ある全力を足に込めて階段を下った。コケそうではあったものの仕事のために電車に乗り遅れそうになった時の階段を下った思い出が蘇り笑ってしまった。

最初の鳥居をも通過し東二さんの言う通りにの道に沿って走り続けた。まだ全力は出せると思うと、俺凄いんじゃないかと思う。

十字路を通過して俺は神社の方を見た。驚愕だった。

例えるとなると、ゾンビ映画のような状況だった。人々の群れが階段からコケてドミノ倒しのようになっていた。しかし、高齢の人間とは思えないほど、

発狂するように、一人また一人と起き上がり俺を追いかけてくる。

捕まったら死ぬ。それだけは絶対に確信できる。

俺は再度走り出した。捕まるまいかと決意し、バス停の方を走る。一面の田んぼのおかげか見晴らしがいい。

東二さんの車だと思われるものも見えた。これで安心だ。

しかし10分以上も体を動かしたからには当然疲れを感じてきた。

もってくれと願い走り続けた。

和楽器が聴こえる。

おかしい。それはおかしい。聴こえるはずないの、神社にあったものが、今当然のように聴こえる。

後ろは見れない。見たら終わりだと思う。

東二さんが車から降りて走ってきてくれた。

早く!と東二さんが叫んでいる。俺は走り続けた。

すると抱えていたツナギが静かに呟きだした。

またわけのわからない言葉だ。神様神様と何かに語り掛けている。

和楽器の音が近づいてきた。ああ怖い。頼むから追いつかないでくれ。

あと数100メートル。これほど遠いとは思わなかった。あとちょっとで車に乗れる。

東二さんが俺の元に来てくれた。安心だ。

しかし現実はやはり上手くは回らないものだと理解した。

ツナギが暴れだしたのだ。俺腹に思いっきり蹴りを入れた。

中学生の女の子でも蹴りは痛いものだと思って、突然の出来事に体が順応できずバランスが崩れた。

ああ、おしまいだ。俺は腹ばいの姿勢で倒れた。まだ腹は痛む。

それでも和楽器は鳴っている。

ツナギはゆったと村のほうへと戻ろうとしているのが見えた。

村人たちが屍のようにツナギの方へ近寄る。

はっきりと聞こえた。

ツナギを迎えに来た時の中年の男が前に出てきた。

和装束を着ていて、祈りを始めている。

村人たちはいっせいに土下座の姿勢をした。

「神様、ごめんなさい。邪魔が入てっきたせいでこんなことになっちゃたの」

ツナギが淡々と空を見上げて言った。

村人の何名かがツナギの方へより、薪らしきものを置いていく。

東二さんはどうしたんだろう。隣にいたはずだ。

俺は目線を横にした。東二さんの姿がいない。

噓つきじゃないかあの医者。手伝えって言ったのはお前じゃやないかと俺は思った。

もう終わりだ。ツナギはここで燃えて死ぬ。俺も邪魔をしたから何らかも方法で殺される。

退屈な人生だったなと、俺は瞼を閉じ人生を振り返ってみることにした。

仕事、仕事、仕事。

なんだ。学生時代の記憶よりも仕事しか思い出せないってどれだけ自分は仕事が好きなんだと、皮肉にも笑える。

足音が止む。火の爆ぜる音。これからツナギは燃やされるのだろう。

走る音が聞こえる。はっと俺は我に返る。まだ希望があるのかもしれないと期待をし、目を開けて、重い体を起こして後ろを見る。

東二さんだ。

「ごめんよ。薫君。心配したよね。」

東二さんは右手になにか黒い物体を持っている。

爆弾だろうか。おいおい嘘だろ。医者が人を殺すとは聞いたことないぞと思った。

「目を少しだけとじて!」

俺は言われるがままに閉じた。

ピカッ

聞いたことのない音とともに瞼を閉じているのにもかかわらず光を感じた。

閃光弾だ。しかし、なぜ一般人である東二さんがこんなものを持っているんだろうか。

松明を持っていた。男が松明を落としてしまい。火が草に燃え移る。

周りの人間が一斉に目くらしに合ったのだ。

東二さんはチャンスだと、ツナギを抱えて車の方へ向かう。

俺の名前を呼び、今しなくてはいけないことを思い出し、俺もそれに続いた。

着いた。後部座席に東二さんはツナギを無造作に乗せ俺は続いて乗った。

素早く東二さんは運転席に乗り、エンジンをかけた。

しっかりつかまっててと言われて俺はドアポケットに手を入れた。

車が発進し加速した。田舎で夜だから道路には人はいないのだろうが、おそらく体感100kmは出しているんだろう。

これで本当に安心だ。

ツナギは俺の膝に倒れ込んで眠っていいた。何もしてないならかわいい子だなと思った。

窓を見ようとすると、東二さんが見ない方が良いと止めてきたので言う通りにした。

疲れた。あとは東二さんに任せよう。俺は重くなった瞼を閉じ、そこから意識が途切れた。


気が付くと、まだ車内だった。東二さんが安心した顔で話しかけてくれた。

「薫君、良かった起きたんだね。ツナギちゃんはさっき起きたけど、またねむちゃったよ」

ツナギは座席の隅で体育座りの姿勢で眠っていた。

俺は東二さんに村のこと、閃光弾のことについて尋ねた。

しかし東二さんは、難しそうな顔で、これ以上永結村について関わらない方が良いと言ってきた。

俺は都合がよすぎると怒ったが、東二さんはごめんと謝った。

その代わり、俺はツナギこれまでとこれからについて教えてくれた。

どうやらツナギは巫女の家系で、母方が永結村出身だったそうだ。

広島県に住んでいたのだが、ツナギの叔母の病気が悪化したとのことで、家族で永結村に引っ越しすることになったそうだ。

そこで、ちょうど診察を市に村に来た東二さんとツナギの家族が出会い、交流を深めたそうだ。

それだけでよかったのだが、ツナギの家族と関わっていくにつれ、村がおかしいということも分かったそうだ。

そこから、半年が過ぎ、東二さんが村にやってきたときはツナギの両親はいなくなったそうだ。

それから村人たちの対応が冷たくなったそうだ。

東二さんが言うには、両親はツナギを残しての自殺。

村の伝統を許可なく人に伝えることは禁忌。東二さんはそうツナギの叔父に言われた。その代わりに村の伝統を知った。

東二さんはツナギのこれから起こるはずだった生贄の伝統に激しく起こったそうだ。

ツナギを助けるために、このようなことを一人でしようとしていたらしく、俺がいてくれて凄く助かったと言ってくれた。

俺はこの人の助けになれたと思うと誇らしくなれた。

「それでね、ツナギちゃんの行動を見ていくにこの子は精神薄弱なんだと思う。神様が見れるし、情緒が安定しない、だから僕はこの子を責任もって医学の力とともに育てようと思うんだ。」

俺はその言葉に納得がいった。深くは問い詰めず、そうですかと俺は肯定した。

「薫君はこれからどうするの?」

俺は窓を見ると、俺が愛媛で最初に居た駅が見えた。俺は東二さんにここで止めて欲しいというと、また心配した顔で大丈夫かと訪ねてきた。

大丈夫だと俺は伝えて、駅の近くのバスの停留所に降ろしてくれた。

俺は東二さんに感謝を伝えてた。東二さんは深々と俺に一礼と感謝をしてくれて、名刺を渡してくれた。

困ったことがあったら電話でもしてほしいと、頼りになる人ができるというのは嬉しいことだなと思った。

車が発進した。窓を見ると寝ていたはずのツナギが俺に手を振っていた。

ツナギはこれから大丈夫だろうか。あの村は一体何だったのだろうか。謎と心配だけが残ったものの、

今こうしてまた自由になたことが素晴らしいと俺は思った。

俺はベンチに座り、これからのことを考えることにした。


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