第26話 誕生日
6月20日、火曜日。天気は晴れのち曇り。
午前6時半、静かな部屋でスマホからアラームが鳴ると目が覚めた中村はまだ眠そうに薄目でアラームを止める。
先日の水族館デートで撮ったフワフワと泳ぐクラゲの待ち受け画面には未読メッセージが5件と表示されていた。
その通知に中村は気がつくと体を仰向けからうつ伏せに切り替えてメッセージアプリに気分を高ぶらせて起動する。
相手は友達や兄からで小柳からのメッセージが着てないことを確認するとため息がこぼれた。
届いたお祝いのメッセージを返信しながらゆっくりと体を起こし朝の準備へと取り掛かる。
今日は中村にとって特別な日である。
17歳の誕生日だ。
クローゼットを開けると小さな引き出しの中には整理された数え切れない程のシュシュコレクションがある。
「よし…」と小さく呟くと小柳から貰った特別なシュシュを手に取って気合いを入れるのであった。
午前7時半、中村は学校に行く支度を終えて自分の部屋の窓から小柳が家から出てくる姿を待ち構えていた。一緒に学校に登校すれば直接祝ってもらえるうえに水族館デートの時のポーチを渡してくれるだろうと考えていたのだ。
小柳の登校時間はある程度把握はしていたがその時間を過ぎても小柳は家から出てくる気配がない。
しびれを切らした中村は鞄を持って自宅を出ると隣の小柳の家にお邪魔することにした。
「おはようございます」
「はーい、あら恵美ちゃんおはよう!卓也よね?あの子なら何やら用事があるみたいでもう学校に行ったわよ?」
「あれ?今日は朝課外もなかったからまだ家にいると思ったんですけど…そっか。じゃあ私も行ってきますね!卓也ママおじゃましました」
「行ってらっしゃい!気をつけてねー」
中村は小柳の家のドアを閉めると用事が何かを勝手に予想しながら早歩きで学校に向かった。
結局通学路では小柳と出会うことなく学校に到着した中村は昇降口の靴箱で上履きに履き替えていると後ろから立花に声を掛けられる。
「恵美ちゃんはよー!」
「あ、歩美ちゃんおはよ!ここで歩美ちゃんと会うのは初めてだよね?なんか新鮮な気分だよ!」
「確かにそうかもしれないわね。靴箱も1組と3組じゃ反対側だし…ってそんなことより恵美ちゃん、お誕生日おめでとう!本当は0時丁度にメッセージでも送ろうかと思ったけど、そもそも私恵美ちゃんの連絡先知らなかったわ!」
「歩美ちゃんありがとう!あはは、確かに交換してなかったよね。何度か交換する機会はあったけど私から聞いていいかどうか迷っちゃって…」
「私もそんな感じよ。じゃあ、私の連絡先が誕生日プレゼントってことでいい?はいこれ」
2人は連絡先を交換していると中村は立花の左手に持っていた何通もの重なった手紙の方に自然と目がいってしまう。
「歩美ちゃん、その手紙はどうしたの?まるで郵便屋さんみたいだね」
「ああ、これ?何故か最近よく靴箱に入ってるのよ。全部は確認してないけどラブレターね」
ココ最近の立花の1週間は小柳に全力で引いていたため、周りの生徒達の間では諦めたのでは?俺にも夢と希望があるのでは?いざ出陣じゃ!と噂になりラブレターを貰う回数が異常に増えていたのだ。
「ホントだ…!この量…凄い数だねこれ。下手したら1クラス分くらいあるんじゃないの?やっぱり歩美ちゃんは男子にモテモテなんだね」
「可愛いからね!でも相手は名前も顔も知らない人ばっかりよ?そんな人といきなり付き合えるわけないって話しよね!」
立花は大袈裟に笑ってその場を明るくするがその言葉は特大ブーメランである。
中村は立花と初めての会話で小柳の事で聞いた時と違う対応をしている事に違和感を覚える。
2人は連絡先を交換して3組の教室前で別れた。
中村は教室に入り自分の席に座って鞄から教科書や筆記用具を取り出し机の棚に入れようとすると何かの袋が手に触れて背筋が凍る。
ゆっくりと取り出してみると正体は水族館のお土産袋に入った例のポーチだった。
(何でここに入ってるの!?…あ!もしかして卓也が早めに登校した理由って、これだった?…だったら違うよ卓也、私はサプライズなんて望んでない。直接渡して欲しかったんだよ…)
「やあ中村さん!グッモーニン!今日も素敵な1日に…あれ?僕を置いてどこに行くんだい!?」
中村は宮崎の言葉も聞こえてないみたいにポーチの入った袋を持って急いで教室を飛び出した。
1組の後ろの開いているドアから教室内を覗くと立花はいつもの3人と、小柳は中村の知らない1組の男子とそれぞれ自分の席で話していた。
勢いよく教室を飛び出して小柳のいる1組の教室前には着いたが、中村に他の教室の中に入っていく勇気までは持ち合わせていなかった。ただ指をくわえて…いや、ポーチをかかえて見ていることしかできない。
(卓也、そこから私の事気づいてくれないかな?こっちに来てくれないかな?このまま誕生日が終わっていくのは嫌だ…1年に1度きりだよ?特別な日は私にとって特別な…)
「やあ立花さん!それに小柳君!さらには1組の皆さんグッモーニン!」
その時、後ろの空いているドアから大声で教室中に話しかける1人の男子がいた。案の定の宮崎だ。
中村は自分の前に立つ宮崎の背中を見ながら口を開けて静かに驚いている。
1組の教室に居た生徒全員が宮崎の方を振り向いて視線を釘付けにするが宮崎は一切気にすることなく堂々と教室の中へと入っていく。
なんだったら宮崎周辺にいる生徒に返事がくるまでもう一度挨拶をするくらいだ。
「マジか、宮崎が何で…朝から頭に響くわ…」
「どうだい?僕の声は心にも響くだろう!?もちろん僕は立花さんに会いに来たのさ!ついでに親友に朝の挨拶もね!さあ、中村さんもそこで黙って立ってないでこっちへ来なよ!」
「ちょっと宮崎!そこから私の名前を呼ばな…あ、うん…そうだね、失礼しまーす…」
何かを察したような宮崎に連れられて1組の生徒たちの視線を集める中で中村は小柳の座っている席の前に着くと宮崎は安心したように立花といつもの3人の方に向かった。
小柳と話していた男子は空気を読んで席を外してくれたため2人だけで話しやすい雰囲気になる。
「朝から宮崎のテンションはどうなってんだ…それにいつから親友になったんだよ…な、恵美?」
(宮崎のおかけで卓也のところに来れたけど、宮崎のせいで1組の知らない生徒たちの視線が痛い…ああ、恥ずかしい…!私こういう注目されるの苦手なんだよ…)
「なあ、聞いてるのか恵美?って、その手に持ってるのは…まさか、返しにきたとか…?やっぱりいらないとか言うんじゃないよな?」
「え?違うよ!違うけど…何で直接渡してくれないかなあ?あの時私は卓也に言ったよね?誕生日に直接渡して欲しいって」
「まあ…それは言ってたけど。でも女子はサプライズが1番いいって聞いたから…」
「ある意味サプライズだったけど…それは誰から聞いたの?場合によっては怒るよ」
「えぇ…誰からって…ヤヒー知恵袋で?だから俺なりにベストアンサーだと思って今日は早めに家出て誰もいない時間帯狙って3組の教室で恵美の机の中に入れたんだけど」
「そんなの時と場合によるよ!?その努力は…嬉しいけど、私が直接渡して欲しいって言ってるんだからそれがベストアンサーなんだよ?だから、これ。一旦返すね」
「そうか、わかったよ。勝手なことして悪かったな、それじゃあ今ここで…」
「それはダメ。罰として2人きりの時に卓也なりに1番素敵だと思う渡し方で渡してよ」
立花は2人の会話が気になり近づこうとするが宮崎の放つ圧とブロックにより身動きが取れなかった。
(何で行かせてくれないのよ…このブロック、アンタこそバレーボール部に入った方がいいわ)
「嘘だろ…?俺がそんなことできる奴だと思ってるのか?ヤヒー知恵袋をお気に入り登録して使う男だぞ」
「ヤヒー知恵袋が悪いわけではないよ。それも時と場合だから!期限は誕生日が終わる今日までね!楽しみにしてるよ!じゃね」
そう言い残して中村は満足そうに胸の高鳴りを感じながら1組の教室を出て廊下を歩いていると宮崎が隣に小走りで近づいてくる。
「さてと。多少は荒っぽくはなったが小柳君に思ってる事は伝えられたかい?」
「うん。ホントありがとね。気をつかってくれたんだよね。宮崎に助けてもらってなかったら私ダメだったと思うよ」
「あの中村の焦りよう、何かあると思ってね!そんなことないさ!協力関係でもあるし中村さんは芯をしっかり持ってる人じゃないか!いざとなったらもう1人の中村さんがやってくれるだろ?」
「なんだかそれ厨二病みたいじゃん、封印されし左目が疼きそう。もう1人の私か。きっと変な誤解されてると思うし今日くらいはありのままでいたいんだよね」
「今日くらいは?今日は何か中村さんにとって特別な日なのかい?まさか小柳君と出会って丁度10年アニバーサリーだとか!?」
「そこまで細かくカウントなんてしてないよ!でも卓也と出会って何年くらいだろ…?宮崎には言ってなかったよね。今日は私の誕生日なんだ…あれ?そういや何で歩美ちゃんは私の誕生日知ってたんだろう…」
「それは彼女が正真正銘の女神だからさ!神のみぞ知るってね!中村さんハッピーバースデー!突然だったから何も用意できなかったが今度僕の家のお米を10キロプレゼントするよ!」
「ありがとう。お米は嬉しいけどそれ貰ってもどうやって持って帰ればいいの…」
こうして中村は小柳の素敵な渡し方を期待しつつ誕生日を過ごしていた。
3組の教室に戻ると0時に誕生日おめでとうメッセージを送ってくれたエリとユリにも再度祝われた。
放課後、部活があるため茶道室に向かう1階の廊下で小柳は眉間にしわを寄せて腕を組み中村にどうプレゼントを渡せばいいのか考えながら歩いていると後ろから立花に背中を軽く叩かれる。
「何いつもより怖い顔してんのよ!そのまま周りを見てみなさい、生徒たちドン引きしてるわよ?」
「いつもより?そんなわけ…あるな。1人怯えて泣きそうな子いるけど俺のせいかこれ?そうだ、立花に聞きたいんだがプレゼントってどう渡されたら嬉しいか?」
(プレゼント?急に何の話…あ!もしかして…私が1週間も小柳君に冷たい態度とってたから勘違いして機嫌でも取ろうと私に何かプレゼントしようとしてくれてるってこと!?小柳君って意外とそういう気が利くことできるの!?)
「そ、そんなの直接渡したらいいじゃないの!?まあ、私はサプライズでも嬉しいけど?」
「だから直接どう渡せばいいか…サプライズか。ふっ、わかってないな立花。サプライズは時と場合によるんだぜ?」
「何よそのわかったような顔…ムカつく。でもそれって私に聞いたらダメなんじゃない?だって私の言うことを参考にして渡したら私の方法になるわよ。だから小柳君が1人で怖い顔してまで考え抜いた方法でいいのよ。私はそれがいいわ」
立花は勘違いをしてプレゼントを渡す本人に渡し方を聞いてどうすると思った上での発言だ。悲しき誤解だ。
「難しいな。俺の方法…ヤヒー知恵袋…はダメだ、なんとかしないと…後で部活の時に長谷川にも聞いてみるか。いや、それを参考にすると長谷川の方法か…うーん」
(へぇ、そこまで真剣に考えてくれてるのね!さすが私のことを気になってるだけあるわ!どんな方法でも私は全力で喜んであげるわよ?それで好きになって告白してくれるならね!全力で振るけど!)
「それじゃ私は今日もランク戦で腕磨かなきゃいけないから帰るわね!楽しみにしてるわ!」
最後まで勘違いしている立花の言葉に小柳はなんとなく背中を押してもらえた気がした。
小柳は何より最近立花とまともに話せていなかったため少しでも会話することができて嬉しいと感じてしまっていた。ここにきて作戦が効果を発揮する。
午後11時半頃、自分の部屋の勉強机で中村は期末テストの勉強をしていた。
時計で時刻を確認すると進まない手を止めて横に置いてるスマホ画面を確認しては落ち込んでしまう。
(罰なんて言って卓也に負担かけちゃったかな…普通に直接渡してくれるだけで良かったはずなのに。最近の私、ホントに後悔してばっかりだ…小さい頃から毎年お互いにおめでとうの一言くらいはあったのに今日は卓也にその一言すらもらえてない。もう少しで誕生日が終わっちゃう…。こんなに寂しいと思った誕生日は初めてかな…)
コツコツ。
その時、部屋の窓ガラスをノックするような虫がぶつかったような軽い音がする。
「もうそんな季節か」
コツコツコツ、コツコツコツ、コツコツコツコツコツコツコツ。
(これは絶対に虫じゃない…!こんな三三七拍子にぶつかるわけがない…こんな時間に…何?もしかして…不審者!?)
中村はすぐにでも通報ができるようにスマホを片手に持って恐る恐る音がした窓ガラスに近づいて遮光カーテンを少しだけ開けると、小柳が中指を曲げて窓ガラスをもう一度三三七拍子をしようとしている瞬間だった。
「卓也!?なんでそこにいるの!?ちょっと待ってね…っと。どうしたの?こんな時間に何で私の家の外にいるの?もしかして家を追い出された?」
中村は鍵を開けて窓を開くと小柳は上は黒いシャツに下は中学の体操服姿で苦笑いしていた。不審者に見てなくもない格好だ。
「いやぁ、やっぱりおかしいよな。連絡せずに突然来たから…もしかしてもう寝てたか?起こしてしまったなら悪い」
「びっくりだよ。今テスト勉強してたから起きてたよ。とりあえず部屋に上がる?それとも私が家を出ようか?このままだと見た目的にも通報されるかも」
「通報…?そうか?まあそうだな…。じゃあ悪いけど外に出てきてくれないか?その辺少し歩きたい」
「いいよ。すぐ準備するからそこで待ってて」
中村は急いで窓を閉めて部屋を出る前に1度全身を鏡でチェックして親に気づかれないようにゆっくりと家を出て小柳の前に現れる。
「じゃあ、歩くか」
「うん…」
2人は涼しくて静かな夜の道を横並びで歩く。
空は曇りのため星は隠れ辺りは暗い。
小柳の両手はスマホとポーチの入った袋で塞がっているため中村は手を繋ぐことを今回は諦める。
中村は街灯に照らされる小柳の顔を見るとまだ悩んでいるような怖い顔でいるため思わず笑ってしまった。
「急にどうしたんだ!?やっぱり散歩はおかしかったか!?」
「あはは!散歩のことじゃなくて卓也がずっと怖い顔してるからだよ!やっぱり私の一方的に押し付けた罰が負担になってたよね?困らせてごめんね!」
「それは、否定しない…1日中必死に考えても答えが出ないなんて問題としては有り得ないからな?難問過ぎるわ…」
「だよね!それに押し付けた私も正解を用意してないからこの問題には正解がないからね!でも私は2人きりの時に直接渡して欲しかったから今ここで渡すだけでいいんだよ?持ってきてるよね?それで私はもう良いんだよ」
「だよな。だが慌てるな!これでも俺なりに色々考えた結果、正解ではないが不正解でもない…つまりサンカクくらいは貰えそうな答えは出したつもりだから」
「え、ホントに?…恵美赤ペン先生は厳しいよ!もし赤点だったら…そうだなあ。夏休みはずっと一緒に補習だから覚悟しておくんだね!」
「マジかよ…わかった、覚悟する。とりあえずもう少し歩こうぜ。まだ夜風にあたりたい気分なんだ」
小柳のわかりやすい嘘に中村の気分が楽になる。
2人はしばらく学校の登下校する道を歩いているとスマホを度々確認していた小柳は突然立ち止まる。ここで何かあると察した中村も小柳に合わせて隣に止まると周りはなんて事ない普段の一本道で歩行者や車も通っていない2人きりだ。
小柳は中村に体を向かい合わせると袋からポーチを取り出して目を見て差し出す。
「恵美、誕生日おめでとう。今の時間は11時59分だ。誕生日を迎えた瞬間は祝うことはできなかったから終わりの瞬間を一緒に祝おうと思って…はじまりも大事だけど終わりも大事だろ?終わりよければすべてよし…みたいな?あれ?このアイデア浮かんだ時はこれだ!って思ったのに何か違うな…その、上手いことは言えないけど、これが俺なりに精一杯考えたサンカクの答えだ。…ど、どうですかね?」
中村にどう採点されるか緊張して少し震える声の小柳は自分の自信と表情を隠すように街灯の明かりから1歩後ろへと離れる。
両手でポーチを受け取った中村は採点をすることなく黙ったまま小柳を見つめていた。
そして中村の無言の状態が長い。まるでクイズ番組の最終問題の正解発表までの沈黙だ。
徐々に額に汗をかく小柳は中村のゆっくりと開く口元を確認すると採点の結果発表を感じて唾を飲み込む。
「はぁ。ダメだなあ…」
中村は顔を伏せてポーチを見ながら落胆したように呟く。垂れ下がる髪の毛と街灯の影になって小柳からは中村の表情が一切わからない。
「ダメってことは赤点だよな。まいったな…まあ上手いことは言えなかったし俺も途中から何言ってるんだってなってたし…仕方ないか!せめてお盆休みは欲しいけどいいか?」
「違う…違うの。ダメなのは私なの。卓也の答えは良かったよ?…確かによくわかんなかったけど、気持ちは伝わったから。なのに、こんなに嬉しいのに…私を見て、どうせまた苦しそうな辛そうな顔してるでしょ…?ダメだなぁ…」
そう言って中村は顔を上げて離れていた小柳に1歩近づくと街灯に照らされた表情に小柳は頬を赤く染めて体に熱を帯びて驚愕してしまう。
嬉しい気持ちが抑えきれない程に口が緩み、目尻が下がり三日月みたいに素敵に笑っていた。
これまで一緒に過ごした中でも初めて知る中村の眩い表情に小柳は動揺を隠せない。
「いや…もの凄く嬉しそうな、その…いい顔してる…ぞ…?」
「ホント…?…良かった、ちゃんと卓也に伝わったみたいで。…最近ね、自分がよくわからなくなってるんだよね。ははは、おかしな話でしょ!?」
中村は小柳に兄妹に見られないようにと嘘をついてまで違う自分を必死に演じていた結果、本当の自分らしさを見失いつつあった。
雰囲気が悪くならないように冗談っぽく笑いながら話すがこれが今の中村の本音だ。
「やっぱりな。前に俺の部屋に来たやつとかだろ?あれはどう考えてもおかしかったぞ。まるで別人に憑依されてるみたいだったからな」
「そう、だね…。あれはね、実は事前に霊媒師さんにお願いして…」
「だからか。確かにあの時は恵美の背後に甲冑した武士の霊的なものが見えた…って嘘だろ!何年一緒にいると思ってんだよ。目を見れば嘘か本当かなんてわかるわ。何かあったのか?」
「あはは!何で甲冑した武士なの!?そこは綺麗な長髪の女性の霊でいいじゃん!…でもそっか、わかっちゃうか。長く一緒に居すぎたかな…。はぁ…、何か…こんな演技じゃ卓也は騙せないや!もっと演技力を磨かないとなあ」
「騙さなくていいわ!何で騙す腕を上げようとするんだよ…俺がいつ騙されたい願望のある人間だと思った?もっと素直になる方を選べばいいだろ?」
(わかってた、卓也はそう言ってくれるって。でもそれだと歩美ちゃんが卓也に告白する前の何も変われない昔の私なんだよ。卓也が気になってくれた私は今の私だよ?もう後には戻れないよ…。でもね、1つ同じなの。変わってないこと、変わらないこと。変われないこと)
「そうだ、そこまで卓也が私の演技を見破れる自信があるならせっかくだしここで1つゲームしようよ!ねえ、これは嘘だと思う?本当だと思う?」
中村は両手を小柳の前に広げて嘘を左手、本当をポーチの持っている右手、正解だと思う手を触れるように指示を出す。
「わかった、任せろ。恵美の真実なんて全部すべてまるっとスリっとゴリっとエブリシングお見通しだ!絶対当ててやるよ!どれだ?さあ来い!」
小柳は中村の目をしっかりと見てゲームに付き合おうと冗談交じりの発言をしながら身構えると中村の先程までの表現が一瞬にして意味ありげな笑みへと変わる。
「…卓也、好きだよ」
誕生日という特別な日がそうさせたのか、ゲームだからそうなったのかは自分でもわからないが中村の口から募る想いが自然と溢れ零れてしまう。
その何1つ混じりけのない純粋で素直な気持ちは小柳の瞳に反射して小さく映る。
あの日、立花についた嘘が本当となった。
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