第15話 意識
6月1日、木曜日。天気は雨のち曇り。
朝の全校集会が終わると立花は教室に戻っていつもの3人と話していた。
「それでSNSで回ってきた相性占いやったんだけど風間君と80%だったの!凄くない?」
「あの相性占いで!?それは凄いなぁ。80%なんて初めて聞いたよぉ。50%も滅多にいかないみたいだし」
それは最近高校生の中で当たると噂の相性占いの話だった。厳しい結果が多く、それを話題にカップルが盛り上がったりなどしてSNSで流行っているらしい。占い好きの立花もその相性占いは気になってはいた。
「それって名前だけでわかるの?」
「2人の名前と誕生日だね。当たるって評判でこの前離婚した芸能人の相性占ったら最低だったらしくてトレンドになってたよ」
「なるほどね、そんなに当たるのねふーん」
興味がなさそうなフリをする立花はスマホですぐにその相性占いのサイトを全力で調べる。
昼休み、今日は弁当を忘れずに持ってきた立花は昼食がてら早速占いをするべく茶道室へと向かった。
天気が悪いため茶道室のある旧校舎は周辺が暗くて茶道室には明かりがついている。
「あれ?今日は2人だけなの?」
茶道室に入ると昼食をとっていたのは小柳と長谷川の2人だった。相変わらず長谷川の弁当箱は大きくて量がある。
「今日はじゃなくて、元々2人だけだ」
「立花先輩いらっしゃいませ。こちらにどうぞ」
「今日も香織ちゃんのお弁当美味しそうね!」
茶室に上がった立花は長谷川の隣に座って弁当の中身を羨ましそうに眺める。
「味には自信ないですけど良かったらどうぞ」
「やった!もらってばっかりじゃ悪いから私のお弁当のオカズもあげるわね。それにしてもこんなに食べてるのに香織ちゃんは太らないって…どこに栄養が…」
立花の視線は正座をして弁当を食べている長谷川を下から上へと舐めまわすように見ていたが胸のところで止まる。
「ほう、なるほどね…」
「な、なんですか!?やめてくださいよ!」
食べた分だけ太る立花は長谷川の胸を見た後に自分の胸を見て軽くショックを受ける。太っていた頃には胸は確かに大きかったが、痩せると胸も一緒に消費されていた。それでも今はCカップはあるが長谷川と比べるとどうしても小さく感じる。
小柳は2人の会話などは聞かずに1人で黙々と食事を続けていた。
(確か男っておっぱいが大きい方が好きって聞くわよね…歳とったらお尻にいくとか…小柳君の好きだった宮武マリも大きかったような…)
「小柳君っておっぱい大きい方が好きなの?」
立花の口から突然に胸の話題を振られた小柳は思わずむせてしまって畳の置いていたペットボトルの水を飲む。
「なんでそんなこと急に聞くんだよ!」
「別にいいじゃないの。単語帳に書いてないから聞いただけよ。そんなに動揺してるってことはそうなの?」
「はあ?別にどっちでもいいだろ。大事なのは中身だろ」
「おっぱいの?」
「違うわ!おっぱいの中身ってなんだよ。脂肪のことか?…いや、俺が言いたいのは外見じゃなくて内面って意味なんだが」
2人のやり取りを聞いて長谷川は笑うが2人にとっては何が面白いのかわからない。
「香織ちゃん笑ってるけどどうしたの?」
「いえ、先輩たちの会話が漫才みたいで面白いんですよ!」
「そうか?立花のせいで俺が長谷川に変なやつだと思われるじゃねえかよ」
「小柳君は十分変よ!私の事を振るくらいなんだから…ってか、今日はそんな話するために来たんじゃないのよ!これよこれ!」
ようやく立花は本題の相性占いをしようとスマホを取り出す。
「相性占いですか?今皆さんやってますよね。さっき友達もしてました」
「最近流行ってるみたいだからやってみるわよ!香織ちゃんの誕生日はいつなの?」
「私を占うのですか?誕生日は12月4日ですけど」
「12月4日っと。それで小柳君の名前と誕生日を入れて…結果押すわよ?準備はいい?」
小柳情報単語帳に書いてあった10月21日の誕生日を入力する。
2人よりも楽しそうに立花は結果を焦らす。小柳は占いを信じるようなタイプではないため横になってスマホでマンガを読み始める。
「出ました!香織ちゃんと小柳君の相性!96%よ!…って96%!?」
「やっ…あ、凄いですね!友達とした時は43%くらいでしたよ。友達が言ってましたがこの相性占いは低い数字しか出ないと…」
立花は驚きを隠せない。何度も結果をやり直すが96%から変わることはなかった。
「私もそう聞いてたわ。はは…相性最高ね…」
「私もびっくりしてます。ちなみにですけど立花先輩はこの相性占いはしたのですか?」
「え!?私!?えー、どうかなー?」
(これ言わなきゃいけない流れよね。もちろん私は事前に調べてたけど…いずれバレるなら正直に言った方がいいわよね…)
「長谷川、立花のこの感じはやってるぞ」
「本当ですか?私だけ知られるなんてずるいですよ!教えてください!」
「わかったわよ!…4」
「4?」
「4%よ…でも所詮占いよ!名前と誕生日で相性が決まるわけないわ。この占いは適当ね」
朝の番組の占いコーナーを毎朝チェックしている立花が言えたセリフではない。今日もラッキーアイテムを身につけている。
立花と小柳の相性占いの結果は4%だった。
名前をひらがなやカタカナで調べてみたりどんなに試行錯誤しても最高が4%だった。
「立花と長谷川で足したら100%なんだな」
横になってスマホを触る小柳がボソッと呟く。
(もう少し反応しなさいよ!「俺は立花とは相性4%とは思わないけどな」とか「長谷川より低いなんて信じられない」とか!)
「そうですね。相性なんて数字で判断するようなものでもないですから」
「良いこと言うわね香織ちゃん!ちなみにだけど小柳君、恵美ちゃんの誕生日っていつなの?」
「恵美の誕生日?6月20日だった気がする」
「今月じゃないの。わかったわ」
それから昼休みを雑談で過ごした後にすぐに立花は例の相性占いのサイトで小柳と中村の相性を調べる。
(51%ね。…って、私は何で気になってるのよ)
放課後、部活のない小柳は1人で学校近くの本屋で参考書などを見ていた。
棚から本を取り出してパラパラと捲っては棚に戻すの繰り返し。
気になる本を見つけたが値段を見たら涼しい顔では購入できない。
(恵美と水族館行ったりするなら今は金使えないしな。バイトも考えないといけないのか…)
本は諦めて立ち読みでもしようとファッション誌のコーナーに向かう。
立花に私服を色々と言われたせいである。
「長谷川?」
「え?あ、小柳先輩。また会いましたね」
長谷川はファッション誌コーナーの隣にある料理本のコーナーで本を選んでいた。
「そうだな。ここで何してるんだ?」
「新しい料理に挑戦したいなと思いまして。小柳先輩これ見てください、可愛いですよね?」
長谷川は小柳にキャラ弁特集のページを見せてくる。
「キャラ弁ってやつか。このキャラ見たことあるな。これなんて顔の色がピンクだけど、ピンク色の食材とかあるのか?」
「それは桜でんぶを使えばいけますよ。1度はこういうお弁当を作りたいのですが、母と一緒なので中々難しくて…」
「学校がある日はそうなるんだろ?だったら休みの日に作ったらいいんじゃないか?」
「そうですね!小柳先輩、もし良かったらでいいんですけど…作ったお弁当の写真を小柳先輩に送ってもいいですか?感想が聞きたいです」
「だったら食べに行くけど?」
「え…それは悪いですよ!写真を送るのでその感想だけで大丈夫です!」
「感想なら味の感想もあった方がいいと思うけどな。まあ長谷川がいいって言うなら写真だけでも送ってきていいよ」
「ありがとうございます。下手かもしれないけど写真送りますね。では私はこれを買ってきます」
そう言って長谷川はその料理本を購入するためにレジに向かった。
小柳は少し離れたところから見ていると長谷川が金色のクレジットカードで支払いをしている姿を見て驚く。
「宮崎が言ってたお嬢様ってのはあながち間違ってはないんだな…」
長谷川は支払いを終えて小柳を探すが見つからないため外に出ることにした。
外に出ると小柳が長谷川に声を掛ける。
「どうせなら駅まで送ろうか?」
「大丈夫ですよ。それより小柳先輩は本は買わないのですか?」
「まあちょっと見に来ただけだからな。それじゃ気をつけてな」
「はい。お疲れ様でした」
長谷川と別れた小柳は歩いて家まで帰る。
午後4時半頃、小柳が家に入ると目の前の階段横の柱に姿勢を正して背中をつける中村がいた。
「あ、おかえり卓也」
「ただいま。そこで何やってんの?」
「この柱で小さい頃から身長測ってたでしょ?久しぶりに測ってみようと思ってね」
「懐かしいな…中学1年までは俺より恵美の方が身長高かったよな」
柱には小学校時代からの小柳と中村と中村の兄の身長がそれぞれボールペンで色分けされて刻まれていた。
「ね!この前身体測定あったけど私162cmで変わってなかったよ。どうやら成長期は終わったみたい…卓也はどうだった?」
「俺は172cmだったな。いつの間にか10cm差か」
「卓也も成長してるんだねえ。うんうん」
「そんなしみじみされても…。部屋上がってくか?」
「うん!おじゃまするね」
2人は階段を上がって小柳の部屋に入る。
小柳は上の制服を脱いでいつものようにゲームをしようとヘッドセットを手に取ると中村にその手を掴まれて止められる。
「卓也、デートの計画しよっか」
「デートって水族館のか?…そうだな」
中村はマンガでも読むのかと思っていたが真剣そうな表情をしていたので小柳はヘッドセットを置いてデートの計画をすることにした。
「シーマリンまでここから少し遠いし初めてだけど電車で行ってみようよ」
シーマリンとは、2人が住む町の端っこにある海に近い水族館で3年前程にリニューアルした人気のスポットである。
これまで行く時は小柳の親か中村の親に車で送迎してもらっていたため電車で行くのは初めてだった。
「そうだな。ショー関係見るなら午前中には着いていたいし…恵美は何が1番見たい?やっぱり海月か?」
「海月は何時でもいいけど…朝からがいいな」
「OK、じゃあ朝から楽しもうぜ」
「うん!シーマリンのサイト見てたけど最近深海魚の展示も始まってるみたいだよ」
中村はスマホでシーマリンのサイトを小柳に見せようとするが、水族館が好きな小柳は興味津々に自分から近づいてきて1つのスマホを2人で見ることになる。当然中村の鼓動は早くなる。
「これシーマリン内のどこらへんだろ?ちょっとページ戻って…」
(卓也の顔が近い…近いよ…。前ならこんなにドキドキすることなかったのに…。もし、このまま私が卓也に今振り向いたら当たるよね…唇)
中村はひょっとこみたいに小柳から口だけをはなして緊張を解すようにゆっくりと息をする。
(ダメだ…息大丈夫かなとか気になってそれどころじゃないよ…。いくら偶然のフリでしようとしても今の私にはまだ勇気がない…)
「それでこっちが…恵美、聞いてるか?」
「聞いてるよ!凄くね!」
小柳は中村の方を振り向こうとしたため慌てて離れて勉強机の椅子に座る。意識すればするほど鼓動は早くなり苦しくなってきた。
「それで昼飯は前に行ったことある近くのハンバーガー屋にしようか」
「そうだね!あのハンバーガー美味しかったもんね!ごめん、ちょっと今日帰っていいかな!?」
「恵美から計画しようって言ってきたのにどうした?大丈夫か?」
小柳は立ち上がって中村に近づこうとするがミニテーブルの反対側に回って離れようとする。
想像以上に限界を超えていた。1度意識すると止まらない。
「大丈夫だけど無理!ごめん!」
中村は急いで小柳の部屋を出て階段を降りると靴も履かずに家を出ていってしまった。
「なんだったんだ?」
その日の夜、小柳が風呂に入っている間に中村は小柳の母に連絡してスマホと靴をこっそり取りに来たらしい。
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