第12話 合コン
5月28日日曜日。天気は晴れのち曇り。
昼12時に待ち合わせ場所の駅前のカラオケ店の前で立花はいつもの3人と合流する。
今日は立花が無理言ってまでこぎつけた合コンの日だ。気合いは十分入っている。
「やほー!今日のメンツは…って歩美制服じゃん!?どうしたの!?」
いつもの3人は合コンともあって普段遊びに行く時よりも気合いの入った身なりだったが、立花は制服姿でやって来た。
「やほー。だって今回は私の目的は違うからよ!ある意味これは戦闘服だわ」
「まあそうだけどさぁ。逆に歩美が目立って男性陣を全員連れてくことしないでよぉ?」
「そんな事しないわよ!私は全力で楓たちに協力するし全力でアイツのこと聞くわよ!」
立花が何故こんなにも協力的なのかというと男性陣の1人に小柳の中学校時代の友達がいるからだった。中学校時代の小柳を知ればこれからの作戦などに役に立つと思い、知り合いが多い西川に合コンのセッティングをお願いしていた。
立花は小柳の中学校時代の友達に話を聞き、3人はいつも通り合コンを楽しむ。双方にメリットしかないイベントだ。
「それじゃ男性陣はもう2番のカラオケルームに待機してるらしいから、いざ出陣じゃー!」
井上の拳は雲を突き破る勢いで上がる。3人もそれに合わせて手を上げて一致団結した。
男性陣の待つカラオケルームに入ると早速男性陣はテンション高く近づいてくる。
「どうも!西川以外は初対面、だよね?うわ!可愛い子ばっかりじゃん!一方的に知ってる子もいるし。とりあえずそこの空いてる所に座って!」
「この
テーブルを挟んで男性陣と女性陣で別れて座ると男性陣の視線は当然立花に視線がいく。1人だけ制服姿だからではなく、やはり可愛く輝いて見えているのだ。メニュー表を見ながら飲み物を選ぶ顔さえ可愛いらしい。
「じゃあここは男性陣から自己紹介しようぜ。俺は佐藤でーす!
「おい佐藤、いきなり飛ばし過ぎだろ。僕は
「同じく2人と同じ学校に通ってる
「俺も同じ高校でコイツらとはクラスは違うけど
「よろしくー!」
いつもの3人は笑顔で声を合わせる。
(河村?この人よね、アイツの中学時代を知ってる数少ない人は。見た目はアイツと真逆なくらい不良な感じだけど。関係ないわ、今日はアイツのこと聞き出さないと!)
「男性陣はこんな感じだよー!はい、じゃあ次はお待ちかねの女性陣自己紹介!いってみよー!」
いつもの3人は毎度お決まりの自己紹介ネタで男性陣から笑いを取りながらアピールをした。
「じゃあ次歩美だよー」
「そうね。立花歩美よ。河村君と話したくて参加したわ!よろしく」
「おいおい、早速歩美ちゃんから河村に矢印きてんじゃーん!羨ましいぜこのやろー!」
佐藤に言われると河村は立花をチラ見しながら少し照れる。
(佐藤って人うるさいわね。でも今日は楓たちの手助けもあるし大人しくしてないといけないわ)
その後しばらく学校の事や最近の流行っている話題などで全員が盛り上がると女性陣は御手洗へと向かった。
「はい途中会議ー。今日どんな感じよ?」
「んー、あの中だったら風間君かな」
「美咲は意外と頭良い人好きだよねぇ。私は桜田君かな。同性と話してるみたいで話しやすいし桜田君のカバン見た?ウサギのストラップ付けてて可愛いなって思ったよ。しかも手作りらしい!」
「次は席替えあるから気になってる人と積極的に話した方がいいよ。私は今日はないかなって感じ。佐藤は前からの知り合いでそんな目で見れないし河村君は私のタイプじゃないから幹事として盛り上げるよ」
「歩美はどう思うー?」
「私?別に男性陣には興味ないし早く席替えして河村君からアイツの情報知りたいなって感じだわ。佐藤君は空回りしてる感じはわかるけど」
「歩美は空気君にお熱だからねぇ」
「だから違うってば!私はただ好きにさせて告白させるために頑張ってるだけなんだから!それと、空気君じゃなくて小柳君だからね!」
立花が指摘するといつもの3人はニヤニヤしながら謝ってきた。
御手洗からカラオケルームに戻ると佐藤の仕切りのもと、早速席替えの時間がやってくる。
立花はすかさず河村の隣に座ると男性陣は積極的だなあの子と思う。河村もそう思ってた。
「ねえ、河村君って小柳君と中学時代友達だったのよね?話聞きたいんだけど」
「小柳って小柳卓也!?そっか、アイツ今立花さんと同じ高校なのか。話すのは別にいいけど何聞きたいの?」
「そうね、とりあえず中学時代の彼はどうだったとか知りたいわ」
「高校の先生みたいな聞き方だな。どうって…今の小柳はよく知らないけど中学の頃は仲良し5人組の中では明るくて俺たちを引っ張るリーダーみたいな奴だったけど」
「は…?」
河村からの言葉に思わず立花は驚いてしまう。
「そんなに驚くことか?まあリーダーというか何するにも頼ってたな。立花さんのその反応だと今の小柳は違うのか…?」
その時佐藤がカラオケで最近話題の曲を歌い始める。しかも下手だ。立花の癇に障る。
「ちょっとアンタ黙ってなさいよ!今こっちで話しているんだから邪魔しないで!」
「ごめんなさーい!」
今にも泣きそうになる佐藤は急いで曲を取り消してその場に座ると西川に肩をポンと優しく叩かれる。
「ごめんね、悪いけど歩美は今知りたい事に全集中してるからね。佐藤も無理してチャラくしない方がいいよ。いつもの弱虫な佐藤の方が守ってあげたくなる」
「今のアイツは陰で空気君なんて呼ばれてるくらい空気よ。暗いというか周りと距離を置いてるというか…」
「あの小柳が!?高校違ったから自然と連絡もしなくなってたけど今ではそんな感じなのか。逆高校デビューだな。中学の頃はテニス部で頑張ってたけど高校ではやってないのか?」
「高校では…茶道同好会よ」
「マジかよ!アイツが?あはは!似合わねぇ!中学はテニスラケット握ってたアイツが高校では茶筅握ってんの?」
(逆に今の小柳君がテニス部に入ってても似合わないわね…違和感でしかないわ)
爆笑する河村を見て立花は本当に中学時代は今とは違うことを確信した。
「立花さんと小柳の話してたら久しぶりに会いたくなってきたなぁ。今のアイツ見てみたいわ。連絡したら会えるかな?連絡先変わってなければいいけど」
「だったら今から2人でここを抜け出して会いに行かない?きっとアイツも久しぶりに会いたいと思ってるわよ!なによりアイツが中学時代の友達と話してる姿を見てみたいわ!」
「それならサプライズとかいいんじゃね?立花さんがアイツをどこか近くに呼び出して後ろから俺登場!みたいな?」
「アンタやるわね!それいい作戦じゃない!そうと決まれば早速実行よ!」
立花は周りを見ると園田と井上はそれぞれいい雰囲気だったのでここで2人が抜けても大丈夫だと思い西川に耳打ちをする。
「後は私に任せて大丈夫だよ」
「ごめんね。盛り上げるとか言っといてすぐに抜け出すなんて」
「いいってば。その代わり今度また楓がおすすめするお店の美味しいスイーツ奢ってね」
「任せて!じゃあ出るわね。行くわよ河村君」
立花は河村とカラオケ店を出て立花の家と小柳の家の中間辺りにある公園に小柳を呼び出すことにした。
公園に歩いて向かいながら立花と河村は小柳の話で盛り上がる。
「疑問なんだけど、何でそんなに小柳のことを知りたいわけ?もしかしてアイツのこと好きなの?」
「違うわよ。罰ゲームでアイツに告白したら振られたのよ、この可愛い私が。だから復讐してやろうと思って好きにさせて今度はアイツから告白してきたら振ってやろうと思ってるの。そのための情報収集よ」
「マジかよ。罰ゲームで告白とか酷いことしてんなぁ。俺が知ってる小柳はそんな事されるような奴じゃなかったけどな。アイツに何があったんだろ」
「それは会った時に河村君の方から何があったか聞いてくれる?私より仲良かったと思うから教えてくれるでしょ」
「俺も気になるから聞くのはいいけど、立花さんもその復讐?するためにアイツとわざわざ仲良くしてるの?」
「仲良くしてるというか好きにさせるために色々頑張ってんのよ。単語帳にアイツのこと書かせたり相合傘したりデートしたり…」
「そんなことまで!?やり過ぎてるな。中学の頃にそれやってるの知ってたら俺は正直怒ってる。今は絡みないからどうでもいいっちゃいいけどさ!それでその罰ゲームの告白はいつ頃したの?」
「2週間前よ」
「2週間前!?それでもうそこまでいってるのかよ。さすがに攻め過ぎじゃないか?」
「そうなの?元々長期戦にするつもりしないし私の事なんてすぐ好きになると思ってたから」
「確かに立花さんは見た目可愛いしモテるとは俺も思うけど小柳にも好きな異性のタイプとか考えがあると思うし…たまには引くことも大事だと思うけど」
「引く?それもアイツに効果的ならやる価値はあるわね!それと聞きたいことがまだあって、中学時代にアイツは付き合ってる人っていたの?」
「付き合ってた人はいなかったような…あ、でも中村とはまるで付き合ってるみたいにいつも一緒に居たな。何度か2人に聞いたことあるけど、付き合ってないとは言ってたけど。でも正直お似合いだったな」
「中村って恵美ちゃんのことよね。ん、ちょっと待って…10分後だったら行けるってメッセージ着たからもう少ししたら例の作戦やるわよ!」
「OK。アイツどんな顔するか楽しみだな!いやぁ久しぶりに会えるのか!」
先に公園に着いた立花は2つある少し離れて並んで置いてある1つの青いベンチに座って小柳が来るのを待って河村は驚かせるためにベンチ後ろの木に隠れていた。
「あ、きたわ!バレないようにね」
小柳は歩いて立花の待つベンチの前まで来る。
無地の黒のTシャツと短パン姿だ。
「遅いじゃないのよ」
「出来るだけ早く着たつもりだけど。ってか何で立花は制服着てるんだよ?」
「これ?まあいいのよそんなこと。いきなりだけど小柳君の中学時代って今とは違うのは何で?」
「は?なんでそんなこと聞くんだよ…立花には関係ないだろ…」
「それがね、知りたくて知りたくて」
立花は顎で今よと河村に合図を送る。
「よ!小柳!久しぶり!元気だったか?」
立花が座っているベンチの後ろの木の影から河村が飛び出してくると小柳はその場で固まってしまう。驚いている様子だ。
「どう?びっくりした?中学時代の友達の河村君よ!覚えてる?」
立花はサプライズ成功したと思って喜びながら感想を尋ねるが冷や汗と鼓動が止まらない小柳は目を見開いて小柳を見ている。
「まさか忘れたわけじゃないよな!?さっき立花さんと一緒に小柳を驚かせようって話になってそこで隠れてたんだよ!驚いて声も出ないみたいだし立花さん、成功だな!」
「ね!ほら、久しぶりなんだし私はちょっと離れてるから2人きりで話なさいよ!もう、こんなに驚くなんて私もびっくりだわ!」
立花はまだその場で固まってる小柳の肩に触れようとした時、小柳の手が立花の手を強く弾き飛ばして鋭い目付きで睨みつける。
「余計なことしてんじゃねえよ!!」
そう言って小柳はその場から走って居なくなってしまった。小柳の背中に冷たさを感じる。
公園に残された2人。
「あれ…?何でアイツ怒って帰った?成功したと思ったのにな…。立花さん?大丈夫か?」
昨日小柳とデートをした楽しかった思い出も一瞬にして上書きされてしまう程に衝撃が大きかった。初めて小柳に真剣に怒鳴られた立花の弾き飛ばされた手は震えていた。
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