第6話 新しい風
「勉強するわよ!」
その日の夜から勉強が始まる。
立花が通学鞄から取り出しのは学校の教科書ではなく、小柳から受け取った単語帳だった。
夜10時頃、後は寝るだけの状態の立花は1人自分の部屋で気合いを入れる。
立花の部屋は白系と薄いピンクを基調とした色で家具や雑貨が統一されていて、特にブランドに拘りはなく自分が可愛いと感じた物で構成されている。
だが、部屋の隅にはこの部屋の雰囲気とは場違い感が溢れる筋トレグッズが置いてあった。
部屋着は園田と買い物した時にお揃いで購入したふわモコしたルームウェアに目が悪いため黒縁メガネ。学校ではコンタクトを常用している。
単語帳は小柳の家から帰る途中に見ようと1度は考えたが、帰ってからのお楽しみにしていたので内容は初見だった。
(そうね、とりあえずは問51に好きな人って書いてたからその答えから見てあげるわ。もしかして好きな人、付き合ってる人がいるかもしれないわけだし)
単語帳を開いて問51を調べてみるが裏には何も書かれていなかった。
(なるほどね。まあそのうち私ってなるわけね!)
立花は自宅に戻ると家族の安心感で普段より自信家レベルが上がるのだ。
(そうそう、休み時間はどこにいるかこれでわかるわね。問25っと。…え、茶道室!?…ってどこにあるのよ?)
学校の好きな場所は茶道室と小柳は答えていた。
この学校で高校生活を始めてから1度も茶道室の存在を気にしたことはない。むしろ茶道室があることすら立花は知らなかった。
(茶道室って、地味な場所が好きなのね。さすが陰で空気君って呼ばれてるだけあるわ。ってことは休み時間は茶道室にいるってことになるわね…早速明日行ってみよ)
それから立花は単語帳を一通り目を通して眠りについた。中間テストの勉強もせずに。
5月19日金曜日。天気は雨のち曇り。
3限目の休み時間、立花は早速茶道室に行ってみることにしたが見当たらない。
そもそも茶道室の場所を知らないため1階の廊下をうろうろしていた立花は近くにいた女子生徒に聞いてみることにする。
「ねえ、ちょっといい?茶道室を探しているんだけどどこにあるかわかったりする?」
「あ、茶道室ですか?ちょっと待ってくださいね!私の友達が茶道同好会なので知ってると思いますよ!聞いてきます」
そう言って彼女は急いですぐ近くの教室に友達を呼びにいくと2人は駆け足が戻ってきた。
1階の教室ということはどうやら2人は1年生だ。
「ほら!ホントだったでしょ?私があの立花さんに声掛けられたって!見て、本物だよ?」
「本当だね。でもどうして声をかけられたの?」
「そうだった、立花さんが茶道室がどこにあるか知りたいんだって!それで
「茶道同好会じゃなくて茶道部だよ!同好会じゃなくて部なの!大事な事だから間違えないでよ」
「でも部員2人だけなんでしょ?学校でも5人以上は部として認められてるけど…残念ながらそれはもう同好会だよ!」
(私を置いて盛り上がってるんじゃないわよ!茶道部でも茶道同好会でもどっちでもいいから早く連れて行ってよ…もう、時間がないわ…)
「お時間取らせてしまい申し訳ありません!今茶道室の方へお連れしますので」
立花の考えている事を察知したように茶道同好会の彼女は立花を連れて茶道室に案内しようと歩き出す。
が、休み時間終了を知らせる学校のチャイムが鳴り響く。
「申し訳ありません!私が早くお連れしなかったばっかりに…」
「別に気にしないでいいわよ。もう1人の子に香織って呼ばれてたわよね?また次の休み時間にここに来るから香織ちゃんも来てもらえると助かるわ」
「わかりました!次こそは案内させていただきます。ではまた後ほど」
2人と別れて立花は教室に戻るが、次の英語の授業の先生に遅刻だと注意される。
小柳を見るといつも通り席に着いていた。
「小柳君のせいで怒られたわよ」
「なんでだよ」
そう言いながら立花は小柳の席を通り過ぎ自分の席に着いて英語の授業の教科書やノートを準備する。
「歩美、今度はどこ行ってたの?」
「茶道室に。まあ結局行けなかったけどね。楓、今日の私ついてない気がするわ」
「茶道室なんてこの学校にあるんだぁ。今日の朝の占い歩美は最下位だったからねぇ」
「そうなの?それは見てなかったわ。ちなみにラッキーアイテムは何だったの?」
「なかった」
「そんな事ある!?」
「それがラッキーアイテムの発表する放送時間がなかったっぽくて笑顔でいってらっしゃいだけ言って終わってたよぉ」
「それって地獄に送り出されてるみたいじゃない。でも嫌な予感はするのよね…」
立花の言っていたことは事実となる。
4限目の授業が終わると昼休みに入るが、立花は1年生の生徒と約束をしていたので昼食もとらずに待ち合わせ場所へと向かった。
待ち合わせ場所に着くと茶道同好会の1年生は1人で大きな弁当箱を入れた袋を持って近づいてくる。
「待たせたわ…って、あれ?香織ちゃん1人?もう1人の子は?」
「はい、先程の子はいつも食堂で昼食をとるので私1人でご案内させていただきます。よろしいですか?」
立花は1年生の後をついて行く。
中庭から隣の校舎へ移るとすぐに茶道室が見えた。教室がある校舎よりも昔に建てられているためか外観が古く感じる。
「なるほど、こんなところに茶道室があるのね。この校舎なんて授業で数回しか通ってなかったから茶道室がここにあるなんて知らなかったわ。ありがとう香織ちゃん」
茶道室のドアを開けると6帖の畳で構成されてる茶室の真ん中で小柳が1人弁当を食べていた。
「見つけたわよ!神妙にお縄につきなさい!」
「立花…なんでここに…って俺は罪人じゃねえよ」
「なんでかって…?単語帳に好きな場所が茶道室って書いてあったから香織ちゃんに教えてもらったのよ!」
「なるほど。そういや書いてたわ…立花は
「香織ちゃんのこと?もちろん初対面よ!」
小柳が長谷川に目を合わせると長谷川は小さく頭を下げる。
彼女の名前は
1年生の茶道部?で礼儀正しい気品溢れる女の子。身長は160cm程で体型は立花より出る所は大きく出ているが全体的に痩せている。髪の長さは胸が隠れるくらいのロングヘアで顔は綺麗系だ。
「はぁ…そうか。長谷川、立花と余り関わるなよ」
「ちょっとそれどういう意味よ!香織ちゃんは私と仲良くしたいわよね?」
「は、はい!もちろんです。この学校で立花さんの事を知らない方はいませんし憧れですよ」
「ほら」
「今の流れで嫌なんて言えないだろ。長谷川は1年生で俺たちの後輩なんだからもっと優しくしろよな。長谷川、こっちで弁当食べな」
「ありがとうございます。では失礼しますね」
長谷川は入口で靴を脱いで小柳の隣で弁当の袋から大きな弁当箱を取り出す。
「ちょっと!私も一緒に食べるからそこで待ってなさいよ!急いで教室に戻ってお弁当持ってくるから!」
そう言って立花は教室に弁当を取りに戻った。
「なんだか騒がしくて悪いな。せっかくこの茶道室は静かで憩いの場所だったのに」
「…いいえ。それにしても立花さんは小柳先輩の仰る通りの方ですね」
「だろ?アイツは全て無茶苦茶なんだよな」
「いえ、そうではなくて…明るい性格で楽しい方と」
「それはたまにな。1番は無茶苦茶なところだから。もし長谷川が立花に何かされたり言われたりしたら俺に言ってくれ。守るからな」
「ふふっ、ありがとうございます」
長谷川は微笑みながら美味しそうに弁当を食べ始めると小柳は横になってスマホでゲームアプリを起動する。
結局立花は昼休みに茶道室に来ることはなかった。
「やぁ立花さん!久しぶりだね!会いたかったよ!いや、僕達は会わないといけなかったのさ!」
立花が弁当を取りに教室前の廊下を走っていると3組の教室前の廊下で1人の男子生徒に呼び止められる。廊下は走るなの張り紙は見えていない。
「あ、宮崎じゃない…。最近見なかったからいつの間にか転校でもしたのかと思ったわよ。それで私に何の用?急いでるから早くしてよ」
「僕が立花さんのいるこの学校から離れるわけないじゃないか!それに立花さんが風の噂によると愛の告白をしたと聞いてね!しかも相手は同じクラスの絡んだことない人。どうしてだい?」
「したわよ。でも別にアンタには関係ないわ」
「何を言っているのさ!関係大ありさ!忘れたのかい?僕も君に告白した沢山いる人間のの1人なのだから知りたいに決まってるじゃないか!」
彼の名前は
漫画から飛び出してきたような言葉遣いの爽やかナルシスト。何故かはわからないが夏の工事現場の作業服のファンみたいに制服から風が吹いてるのか髪がずっと風で靡いている。
身長は170cm程で普通体型の髪型はマッシュのアップバングスタイル。顔は決して悪くはない。
高校1年生の時に立花と宮崎は同じクラスで宮崎の猛烈なアタックに立花は振り向くことはなかったが、小柳に罰ゲームで嘘の告白をした時にシンプル告白をしたのは宮崎の影響である。
宮崎は事ある毎に立花にシンプル告白をしていた。
自分こそが立花にふさわしいと感じていた宮崎は立花が小柳に告白した話を聞いてしまい、ここ数日学校を休んで寝込んでいたが今日からまた学校に登校した。
(ここで実は罰ゲームでやったって言ったらアイツのことだしまた絡んできそうだわ…。正直苦手なのよね。…そうだわ、普通に好きだったから告白したってことにしたらいいじゃない!それならさすがのアイツも諦めるんじゃないの?)
「好きだったから告白したのよ。それだけよ」
「そんな!急過ぎて僕の体は追いつかないよ。脳は震えているけどね…では1つ教えて欲しい、彼のどこを立花さんは好きになったんだい?」
「…どこもよ。全て」
立花の発言を受けて宮崎は頭を抱え込む。
「信じられない!立花さんが彼を好きだなんてどう考えてもおかしい…僕には理由がわからないよ…」
「宮崎さぁ、好きになるのに理由なんかいるわけ?」
(はぁ。早く弁当取りに行きたい…昼休み終わっちゃうじゃない)
「…わかったよ。立花さんが彼を好きになったのは仕方ない。だが、立花さんは僕にふさわしいのは事実だ。いずれ証明してみせよう!」
「別に証明しなくていいわよ…」
「歩美ちゃんだ!こんにちは」
2人の間に中村が割り込んでくる。
「あ、恵美ちゃん、こんにちは。そっか、恵美ちゃんも3組だったわね。ってことは宮崎と同じクラスなのね」
「あれ?中村さんは立花さんと知り合いなのかい?」
「友達だよ、この前からね。2人こそ知り合いなんだ。意外と接点なさそうな感じなのに」
「僕たちは1年の時に神の導きにより運命の出会いを果たした友達以上の関係さ!」
「何言ってんのよ!ごく普通の友達よ!それより私時間ないから教室に戻らないと…」
その時階段の方から3人が話している3組の教室前の廊下に小柳が現れる。
「お、卓也だ。やっほ」
「恵美に立花。と…」
「やあやあ、こんにちはからの初めまして小柳君!僕は3組の宮崎圭介さ。気軽に圭介とでも呼んでくれ!我が宿敵よ!」
宮崎は小柳に近づくと握手を求めるが小柳は拒む。だが、宮崎は無理やり握手する。
「ってか、なんで小柳君がここにいるのよ!私はお弁当持ってくるから茶道室で待ってなさいって言ったわよね?」
「いや、待ってたけどもう昼休み終わるし」
立花はスマホで時計を確認すると昼休みが終わる5分前だった。
(嘘でしょ!?これじゃご飯食べる時間が…)
「2人は弁当を一緒に食べる約束でもしてたのかい?それは邪魔をしたね!」
「約束はしてない。勝手に立花が決めた」
「へぇ…もうそこまで仲良くなってるんだね。歩美ちゃんは凄いなぁ」
「そもそも2人きりじゃなくて…立花?」
立花は急いで教室に戻っていった。
立花にとって食事は1番大切だといっても過言ではなく、昼食を抜くなど決して有り得ない。
食事をすることでエネルギーが生まれ立花の明るい性格へと還元される仕組みだ。
教室に戻り自分の席へ座って通学鞄から弁当を取り出そうとすると次の授業の先生が教室に入ってくる。
「授業始めるぞー、教科書の準備しろー」
「終わった…。ホントに今日ついてないわ…」
立花の全身の力が抜けて机の上に顔を伏せた。
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