無限打ち上げ編
太陽から、陽キャたちで遊ぶという誘いがあった。
さて、それはどうしてだろうか。もちろん、打上がテストの打ち上げをしようと提案したからである。
「湊、本当に心から打ち上げが好きなんだね」
「なんったって打ち上げは楽しい。前回は影山に肉ばかりを食べさせることは出来なかったけど、今度こそは肉ばかりを食べさせてやる!」
「打上、今日は焼肉は行かないぞ。俺とか太陽はともかく、他の皆の財布の中身がなくなるから」
ちょっと豪華に打上をしたときのように今日も俺たちを焼肉に連れて行こうとした打上を、古月が止めてくれた。
実のところ俺も、翠と出かけるのにバイトの収入をほとんど使っていて、財布事情が厳しくなっている。
「焼肉は行かないのか……どこに行くの、太陽」
「俺としては安めに食べられるイタリアンレストランに行きたいな」
偶然にも、太陽が口にしたのはつい昨日翠と一緒に行ったばかりの某イタリアンレストランだった。
「日向はどこに行きたいとか、ある?」
「俺はサイゼリヤは昨日行ったから、出来れば別の場所が良い。古月は?」
「俺はラーメン。現役高校生として、油は大量に摂取しないといけないから」
いかにも高校生ど真ん中と言ったチョイスだが、理由があまりにも現役の高校生だとは思えないものだった。
結局どこに行くのかは話し合いだけでは決定できず、太陽主導での多数決を取った結果、ラーメンが多数を占めた。
「でさ、打ち上げでラーメンってなんだよ」
最近まともになってきたせいか、あまり目立った行動をしなくなった佐藤がまともなツッコミをした。
確かに、打ち上げでラーメンに行くという話はあまり聞かない。というか、打ち上げでラーメンは適していないような。
「じゃあ打ち上げに適しているところで決めなおすか?」
「いや、せっかくの打ち上げだというのに皆の相違が反映されないのはナンセンスだ」
まともな佐藤の言葉に打ち上げ界隈の巨匠、打上がそう言ったので、残念ながら佐藤の言葉は無視されることとなった。
これが打ち上げ界隈における打上と佐藤の圧倒的信頼格差によるものだと思うと、この陽キャたちの集まりが現代社会の縮図のように思えてくる。
「ちょうど近いし、あそこ行かない?」
この高校において、ラーメン関係の会話で『あそこ』という単語が出された場合、指し示す店は一つだけだ。
その店は過去に複数のテレビ番組で紹介され、周辺地域でも評判になるほど評価の高いラーメン店だ。
致命的な問題点は、そこは客が多いため食べ終わったら早く帰ってくれませんかねというスタンスなので、腐っても打ち上げに適した店ではないということだろうか。
「とりあえず打ち上げ本番にするかどうかは置いといて、一回あそこ行こうよ」
打上が、金持ちの息子らしく最も財布へのダメージが大きいプランを提案するが、俺の財布にはそれほどの金は残っていない。
「待って打上、それだと僕らの財布はどうなるの?」
名前も知らない陽キャが、名前も覚えられていないというのに俺たちの言葉を代弁してくれた。
「それに関しては心配しなくてもいいよ、俺の打ち上げに付き合わせてるわけだから、俺が払う」
「マジか、突然誘われたからって断らなくてよかった!」
またしても名前も知らない別の陽キャが俺の気持ちを代弁してくれた。
もともと、昨日翠と出かけたばかりで今日は出かけたくないと思っていたのだが、今は断らなくてよかったと感じている。
だが、一つ疑念がある。
「いくら打上が金持ちの息子でも、ここにいる人数全員に奢れるほどの金をいつも持ち歩いてるわけじゃないんじゃ?」
「いや、この財布に十四万あるから足りると思うよ」
「「十四万!?」」
どうやら性格の傾向が似ているらしい俺と古月のツッコミが重なった。
むしろこの件に関しては俺と古月のツッコミくらいしか重ならなかったことの方が問題だと思う。十四万も持ってるのにはツッコめよ。
「影山、古月。どうかした?」
「どうかした、じゃねえよ。この際だから教えておくけど、一般の高校生は十四万も持ち歩かないから」
「そもそも十四万も持ってる高校生の方が少数派だよ」
古月がただツッコむだけではなくて常識を教え込んだのに追加して、俺も常識の一つを教え込んだ。
太陽は場を抑えきれなくて混乱しているようだった。
「それじゃあ場を進めるね、皆でラーメンに行ったあと、湊の奢りでテストの打ち上げをする。これで決定で良い?」
打上を含めたほとんどの陽キャによる賛成多数により、これからの予定はいったん可決された。
「まずはラーメンに行こうか。徒歩だとどのくらい?」
「五分かかるかどうかじゃないか?」
「あそこのラーメン、死ぬほど美味しいよな」
「ラーメン食ったあと、どこで打ち上げする?」
翠と一緒にいる時間が至高なのは間違いなかったが、陽キャたちと過ごす時間も、強制されているだけではなくて以外に楽しく感じられてきた。
もはや陽キャたちのノリに乗りこなした俺は、立派な陽キャと言っても差し支えないのかもしれなかった。
――それもこれも、陽太先輩や月渚先輩、そして翠が俺の努力を認めてくれたおかげだろう。
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