天才(天災)の嫌味
古月が二位だった。
運動神経が良くて陽キャなんだから、勉強まで出来たら天が二物以上を与えちゃった例になってしまうだろうが。
それはともかく、俺と翠はそれぞれ、二百四十人中六十位と六十一位だった。
三百四十五と三百四十四なら、順当か多少高いかくらいだろう。まあ、これまでこんなに低い点数を取ったことはないのでわからないけれど。
「日向くん、太陽くんの順位見て!」
翠に言われて下から『天野太陽』の名前を探していくが、なかなか見つからない。
そのまま視線を上の方に……。
「高」
太陽の順位はなんと一位だった。
イケメンで運動神経抜群で性格が良くて友達がいっぱいいて陽キャで成績優秀なんて許されるわけがない。
まあ非リアだけど。
ところで三年生に、イケメンで運動神経抜群で性格が良くて友達がいっぱいいて陽キャで成績優秀で可愛い彼女もいる人間がいたような。
さすが兄弟。
「それじゃあ、三階行こうか」
「そうだな」
テストの順位発表は、昼休みとかに行うとそれ以降の授業がまともに受けられなくなるということで、放課後に行われていた。
そのため、テスト順位を見て悲しくなったらすぐに家に帰って泣くという芸当が可能だ。親切。
「私、めっちゃ上がってたんだよ。前回は二百十位だったのに、今回は六十一位!」
「マジか」
「そうそう。日向くんは下がっちゃったんだよね? 前回は何位だったの!?」
「三十八位だよ。二十二人に抜かれた計算だね」
自分で言ってて情けなくなる。
「次も私と一緒に勉強しようね!」
「それなら次は一位取れそうだな」
「日向には無理だろうね」
どこからともかく現れた太陽が口出しした。ここ三年生の棟なんだけど。
「いや、冗談だからね?」
「太陽くん、一位すごいね!」
「翠さんも、めっちゃ上がったって聞いたよ」
ついさっきまで太陽に残念なイメージがあったけど、久しぶりに会ったらセリフも顔も、イメージよりイケメンだったんだけど。
思ったのと違った太陽の姿を見て、つい周りを見渡すと、イケメンの太陽、美少女の翠、そして俺がいた。
場違いだ、帰りたい。
というかよく考えたら陽太先輩と月渚先輩は二人とも最高級の美男美女である。つまり普段から俺は場違いだったというわけか。
「翠と日向と……太陽がいるのは珍しいな」
「太陽くん、久しぶり」
いつも通り陽太先輩と月渚先輩。
「天野くん、久しぶりだな」
ついでに出された武田先輩で、俺は足が震えだした。
そんな中、俺以外の全員が武田先輩とフレンドリーに挨拶をしている。
もしかしてこれ、俺がおかしいのか。
そう思って周囲を見渡すと、ほとんど全員が歩みを止めていた。先生も動けなくなってた。
ああ、これは俺以外がおかしいんだな。
「それで月渚先輩、憎き陽太先輩には追い付けたんですか!?」
俺がテスト終了から今まで、一番気になっていたことを、現状動けない俺に代わって翠が質問してくれた。
「まあ、追い付けたといえば追い付けたかな……」
「天野、天川、私が三年の同率一位だ」
武田先輩が衝撃の発表をした。
三人同率一位とは、また珍しい。
「全員五百点満点だね。教科担任がほぼ全員涙目だったよ」
陽太先輩が言った言葉で、素直に喜びづらくなった。
「す、すごいですね……。おめでとうございます……?」
「私だって陽太に勝ちたかったけど、同率と来たら仕方ないかな……」
「お、月渚。俺に勝つとは結構強気なことを言うな」
これ、はたから見たらバチバチしているように見えるのだろうか、それともただのカップルに見えるのだろうか。
俺からしたら砂糖百倍甘党マンに見える。
「私、陽太がどれだけ勉強してないか知ってるからね。勉強会以外、全くやってないでしょ」
「いや、教科書は読んでるぞ」
「世界って理不尽だなあ……」
その気持ちわかります月渚先輩。
俺程度の努力で気持ちがわかると言うのはおこがましいような気がするが、実際世界は理不尽だ。
「三年生のレベルすごいな」
太陽は驚愕したように言った。
俺や翠はそろそろ三年生のレベルがおかしいことには慣れてきたが、太陽はほぼ初見なのだろう。
陽キャなんだったら先輩とかから聞いててもおかしくないとは思うが。
「太陽くんは何点だったの?」
「四百八十六点。兄ちゃんたちには到底及ばないな」
「いや、先輩たちは参考にしない方が良いと思う」
「私もそう思う」
両方とも学年一位だというのになんという格差。これが学年の差によるものだとは思えない。
「そうだよな、小さいころから兄ちゃんの能力のすごさは知ってるからわかる」
「それは複雑だな……」
兄がすごいというのは誇らしいことかもしれないが、比べられることもあっただろう。
陽太先輩は昔、俺が目立っているのは太陽のおかげだとか言っていたが、ここまでの差があると、それは逆に嫌味になりそうだ。
「嫌味みたいだけど、なんでも出来るっていうのも良いことばかりじゃないんだよ」
「陽太、それは明らかに嫌味だよ」
この場面で明らかに嫌味だと言うことが出来たのは、陽太先輩に追い付くために隔絶した努力をした月渚先輩だからこそだろう。
いや、俺も嫌味だとは思ってるけど。
「まあ、そうだよな」
「嫌味なのは変わらないけど、でも実際陽太にも陽太なりの苦労があるんだって思う。悩みがあるなら、あとで聞くよ」
「月渚……!」
砂糖百倍と表現したが、どうやら誤りがあったらしいので訂正します。
砂糖は一万倍でした。
「太陽くん、陽太先輩ってどのくらいすごいの?」
確かに、なんでも出来るとは言うけどどのくらい出来るのかに関してはあまり聞いていない。
「わかりやすい例だと、兄ちゃんは武田先輩と殴りあったら互角だよ」
「その情報どこで得たの? で、武田先輩と互角? 俺は陽太先輩のことも恐れなきゃいけないの?」
あの武田先輩と互角とか、どんな超生物なんだろうか。
俺はニコニコとほほ笑んでいる陽太先輩の顔を見て、身震いした。
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