テストが終わった(ダブルミーニング)

 テストが終わった。


 この学校では、各教科のテストが個別に返されたのちに点数が正しいかの確認を挟み、その後順位を張り出す。


 俺は一年八組の前で自分の点数を振り返った。


「国語五十五、数学四十二、英語五十、理科九十八、社会百……」


 国語、数学、英語の三教科が初日に行ったテスト。そして、理科、社会の二教科が二日目に行ったテスト。


 差は歴然、初日は月渚先輩の言葉があったから集中出来なかった。


 そして、二日目は陽太先輩の言葉や翠の言葉を聞いたり、一晩寝たりで解決したので努力の成果が反映された。


「五教科、三百四十五……」


 おそらく平均にはぎりぎり届いていないだろう。今回のテストはさほど難しくない。平常の状態で受けた理社が高得点であることからもそれが伺える。


「日向くん、何点だった!?」

「言いたくない……。張り出された結果を見て俺を嗤えばいいさ……」


 あの結果だからな。


「私も結構悪かったんだけどね。で、何点!?」


 言ってぐいっと顔を近づけてきた。廊下だっていうのに。


「いや、言いたくない……」

「私もあんまり言いたくないなあ。で、何点!?」


 さらに顔を近づける。


 ここまで近いと、顔のパーツそれぞれまではっきりと見える。


 顔立ちに関してはあまりにも近いのであまり見えないが、パーツそれぞれ整った形をしていて、しかもニキビの一つもない。


 目も大きいし、澄み切っていて綺麗だ。目の下に隈があるわけでもない。


 改めて顔を近づけてよく見ると、翠がそうそういない美少女であると思う。


 あ、ちなみに今あげた、マイナスに思える内容は全部俺の話。


「五教科?」

「なんでもいいよ!」

「三百四十五点……」


 あれだけ勉強していた手前、三百五十にすら届いていないのは俺の中で認められる得点ではなかった。


 結果を出せなければどれだけ努力しても、それは無意味な無駄な努力だ。


「私、三百四十四……。あとちょっとで勝てたのに」


 その点数を聞いて、第一に高いと思った。


「翠、前回何点だって言ってたっけ?」

「百七十四」


 なんと、百七十点アップだ。倍率で言うなら、ほぼ二倍。


 もしかしたら前回のテストは転校してからまだ一回目のテストだったから慣れていなかったのかもしれない。


「翠、やれば出来るんだな……」

「でも私、日向くんに負けてるからなあ……」

「俺は五十五点ダウンだから」


 前回はちょうど四百点だったのが、今回は三百五十にすら届いておらず、五十点以上下がっている。


「日向くんはそう言うけど、私は負けちゃったからなんでも言っていいよ!」

「今はなんも考えてないから、あとでもいい?」

「もちろん」


 さて、ここで翠になにを言うかが俺たちの関係の分かれ目と言っても過言ではないだろう。


 まず、あまりにも『アウト』なことを言ったら普通に断られること間違いなしだし、翠に嫌われるということになってしまう。


 逆に、無難すぎることを言ったらつまらない人間だと思われてしまいそうだし、単純に言うことを聞く権利がもったいない。


「それじゃあ、また明日ね」


 どうやら熟考している間に俺と翠が解散する場所までやってきていたらしかった。


 翠とまともな会話が出来なくて申し訳ない。


「日向くんが考え事しちゃって喋れないのは嫌だから、考え事は済ませといてね?」

「ごめん。明日までには考えとくから」

「そっか、嬉しいな」


 こう、翠の優しい笑顔を見てしまうとさすがにぎりぎりを攻めるというのも良くないような気がしてきた。


 ここは、無難だけど翠が納得してくれそうで俺も楽しいような内容を考えるのが一番だろう。


 そういえば、先輩たちとディズニーかユニバに行くみたいな話をしていたけど、結局行っていないな。


 いや、それだと翠に言うことを聞かせているわけではなく、ただ先輩たちと一緒にディズニーだかユニバだかに言っているだけになってしまう。


 じゃあ、二人きりでデートしたいみたいな内容が良いかもしれない。


 そこで出てくるのが、翠が行きたい場所をデートの先として選択するという課題である。


 どこに行こうか、録画しておいた今期のアニメを見返しながらそんなことを考えた。




「翠になにしてもらうか、考えてきたよ」


 翌日の昼休み、俺と翠はいつもの非常階段で顔を合わせていた。


「お、それじゃあ聞こうかな。私はなにをすればいいの?」

「この前見たアニメ、覚えてる?」

「うんうん、三期まで見たやつだよね。そういえば、三期の続編の映画出るんだって」

「話が早いね」


 俺は翠に、一緒にこの映画を見に行こう、と誘った。


 これなら翠も俺の両方楽しめるかつ、なんでもするという内容を賭けた場合の好意として相応しいだろう。


「もちろんそれは行くんだけど、そのくらい普通に言ってくれれば行くよ。他にもなにか言っていいよ」

「そう言われるとまた一日以上取る必要があるような」


 今から考え始めるわけにもいかないし、他に何か案があるわけでもないから仕方がない。


「まあまあ。とりあえず、この映画は来週公開だよね? 来週の土曜ってシフト入ってないよね?」

「そうだね、シフトは入ってない」

「それじゃあ来週の土曜に見に行くのはどう?」


 最初に提案したのは俺だというのに、情けないことながら翠に予定の主導権を握られてしまっていた。


 完全に下調べ不足なので、反省するほかない。


「わかった。来週の土曜ね」

「楽しみだなあ……」




「それじゃあ、今日も先輩たちのところ行こうか」


 放課後、俺に向かって翠が言った。


「俺も賛成」


 かなり性格の悪い考え方にはなるが、努力が無意味だったと月渚先輩に見せつけてやりたい。


 あと単純に月渚先輩が陽太先輩に追い付けたのかどうかも知りたい。


「お、翠と日向、来てたんだ! うちのクラス見ていく?」

「陽太先輩ですか」


 声色と雰囲気からして、陽キャモードらしかった。そりゃそうか、クラスメイトがすぐ近くにいるんだし。


「君が話題の影山くんか」

「武田先輩……」


 別に因縁とか何もない。


 何もないけど、正面に立つだけで存在が否定されているように思える。


「少し気になっていたところだ。体育祭応援団員選挙でロックしていたのも見ているし」

「それ今更掘り出すんですか!?」


 生命の恐怖を感じている状況でも、ツッコまずにはいられなかった。


 そんなことを今更掘り出さないでほしい、俺にとっては黒歴史なんだから……。

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