第四章 テスト

四苦八苦のテスト勉強

 さて、問題。ほとんどの学生が嫌いで、この行事によって成績が決まる行事、何でしょう。


 テストである。間違いなくテストだ。皆嫌いだし成績にも入る。


「そんなテストは、もう目前に迫っている」


 初めて招待された月渚先輩の家できょろきょろしている俺と翠に、陽太先輩が真面目な表情で言った。


 陽太先輩が真面目な表情をしているということは、この場には太陽がおらず、俺と翠と月渚先輩しかいない。


  さて、問題。ほとんどの学生が嫌いで、この行事によって成績が決まる行事、何でしょう。


 テストである。間違いなくテストだ。皆嫌いだし成績にも入る。


「そんなテストは、もう目前に迫っている」


 陽太先輩が真面目な表情で言った。


 陽太先輩が真面目な表情をしているということは、この場には太陽がおらず、俺と翠と月渚先輩しかいない。


 その中でも、受験の都合もあるのだろう、月渚先輩は既に自習を始めていて、陽太先輩が俺と翠に勉強を教えるという形式になっている。


 俺は勉強はある程度できるが、同級生に教えられるほどは出来ないので、翠に教える役は陽太先輩にお願いする。


 で、ひたすら勉強している画とか全然面白くない。


 勉強している側が全然面白くないのだから、それを見る側が面白いと思えるはずがないのである。


 ということで、いつもの勉強に面白味を加えてみよう。


「翠、賭けをしないか?」

「 賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する。 ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない」

「なんで刑法第百八十五条を暗記してるんだよ」

「なんで刑法第百八十五条ってわかったの?」

「そこはほら、謎パワーで」

「じゃあ私も、謎パワーで」


 いやそうじゃなくてさ。


「賭博って金銭とか品物を賭けることだよね。今回のテスト、順位が高かった方が低かったの方の言うことを聞くって言うのはどう?」

「それなら違法にならないね」

「論点そこ?」


 なんかずれてる。


 そもそも俺がどうしてこんな提案をしたのかといえば、それはただ勉強をするだけでは面白くないと思っただけだからだ。


 というか、俺たちがディズニーに行って以降、関係の進展があまりにもゆっくり過ぎて、太陽に追い越されかけた。


 翠には好きな人がいるというので、今からどうにかしようとしても無意味だという可能性もある。だからと言って何もしないのは正解の選択肢にはならない。


 だからこの提案をしたわけだが、受けてくれないと嫌われてるんじゃないかと病む準備が出来ている。


「いいよ、やろう! 日向くんなら無茶なお願いはしないと思うし」

「ご信頼いただきありがとうございます」

「あ、でも勝った時に何をさせるかはテスト後に考えよう、集中できなくなったら困っちゃう」

「そうだな」


 勉強に集中するために考えた企画のせいで考え事をしてしまったテスト勉強に集中できませんでした、じゃ格好がつかない。


「月渚、俺たちも賭けやらない?」


 俺たちの話を聞いた陽太先輩が、一人で自習している月渚先輩の方へ歩み寄り、隣の席に座って耳打ちした。


 月渚先輩は顔を伏せたが、頬や耳まで真っ赤に染まっている。


「近いよ陽太」

「ごめん。で、賭けやろう?」


 月渚先輩の言葉を受けて少し傷ついた表情で、賭けを迫った。


「でも、私が陽太に挑んだって勝てないよ……」


 陽太先輩と月渚先輩だったら、月渚先輩の方が頭が良さそうなイメージだったのだが、そうではないのだろうか。


 というか、陽太先輩は運動神経が抜群なので、勉強まで出来るとか言われたら腰を抜かさざるを得ない。


 そんな考えだったのだが、先ほどの月渚先輩の言葉からして、俺はもう腰が抜けているみたいだ。


「いや、月渚も賢いでしょ?」

「前のテスト、ほぼノー勉で学年二位取ってたの覚えてるからね?」

「さすがに勉強しないと剛には勝てないよ」


 武田先輩は戦闘力が抜群なので、勉強までできるとか言われたら腰を抜かさざるを得ない。


 実はこの学校って、陽太先輩、月渚先輩、武田先輩の三人だけで回せるんじゃないだろうか。


「陽太先輩と月渚先輩と武田先輩の三人で、BIG3って呼ばれてるらしいよ」

「情報提供ありがとう。ところで、毎回拾ってくる情報はどこから持ってきてるんだよ」

「悪原くん」

「悪原か」


 そうだった、悪原は翠のしもべなんだった。


「二位と三位なんだから、チャンスはまだまだあるって!」

「前回の合計点言ってみて」

「四百九十七点」


 教科数は五教科なので、三点落としているということになる。


 うちの三年生のテストは決して簡単ではないと思っていたのだが、俺の思い違いだったのかもしれない。


「先輩方、ふざけてるんですか?」


 信じられない。一年の学年トップは、名前は忘れたが五教科四百八十点だった。


「いや、ふざけてるのは陽太と剛だけだよ……。私は四百七十一点」

「高い」

「先輩たちすごいですね!」


 翠が純粋に褒めているが、そんな適当な褒め方で収まる得点ではないとツッコミを入れたい。


「俺よりもすごいのが、剛は満点だったんだよな」

「陽太だって普段は満点じゃないの……。この馬鹿が……」


 月渚先輩の声は心から響くようなものだった。


 普段は満点なら、逆に前回のテストで落とした三点は一体何なのかと問い詰めたいものだ。百点阻止問題とかなかったんか。


「……頭のおかしい話を聞いてたら疲れてきた。もう勉強したくねえ」

「私になら勝てるよ、頑張って!」


 翠は本当にいい子だなあ。


 俺は翠が必死に勉強している光景を見てなんとか復活して、とりあえずノートを開いた。

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