結局ディズニーランドはデートスポット

「俺たちって、わざわざディズニーまで列に並びに来たんだっけ?」

「アトラクションを楽しみに来たんだよ」

「アトラクションやってる時間の方が短いんだけど」


 俺と翠はメジャーアトラクションを次から次へと回っていて、俺の提案したアトラクションはまだ三つ中二つ残っている。


 それなのに朝ここに来てから何時間も経過しており……その時間の大半は行列に並んでいた。


 確かにディズニーランドの回り方に正解はないと思うけれど、並んでいる間とか全然楽しく(ry


「この間のワクワク感が一番」

「それさっき聞いた。まあ、翠と過ごす時間だから満足してるといえば満足してるんだよ」

「ふーん、そうなんだ!」


 翠は俺の言葉を聞いて、どこか嬉しそうに笑いながらそう言った。


 俺は一人ディズニーとやらに来たことはないが、そんな俺でも想像がつく、それよりも翠といる今の方が楽しい。


「ああ、そうだよ」


 話していると、気づいたら前にある列は残り二、三組分ほどになっていて、その後すぐに俺たちの番はやってきた。


 結局長く並んだ先に待ち受けていたのはどこの遊園地でも変わらず存在する絶叫だった。


 でも今日の絶叫はいつでも感じられるようなそれとは一風違って、特別な音が感じられた。


 そして、もう一つ収穫が得られた。


「私、絶叫系無理かもしれない……」

「試したことなかったんだ?」


 翠はジェットコースターが苦手らしかった。


「まあ、私ってジェットコースターとか行けそうなタイプだからさ!」

「確かに、翠の性格ならジェットコースターとか平気で乗ってそうだよね」

「日向くんは大丈夫なんだね?」


 陽キャを目指すにおいて、ジェットコースターに乗ることが出来るというのは必須級の条件だ。


 なぜなら、特に女子に多い傾向なのだが、陽キャはことあるごとにディズニーに行こうとするからだ。


 俺はあんまり女子との絡みが多いわけではないので高頻度で行っていたわけではなかったが、ディズニー以外の遊園地なら何度も行ったことがある。


 遊園地においてジェットコースターに乗れないなんて言ったら遊園地に置いて行かれること間違いなし。


 だから、


「そうだね、乗れるよ」

「羨ましいかも」

「俺ももともとは乗れなかったんだけどね。どうしても必要だったから、練習した」

「ジェットコースターの練習って何!?」


 ジェットコースターの練習——俺の場合は、死ぬまでジェットコースターに乗り続けた。


 ちなみにそれで消し飛んだお金は総額一万三千五百円。俺の財布は一時期ポイントカード入れと化した。




 時間を忘れて次々に行きたいアトラクションを回った俺たちは、いつの間にか日暮れの空を眺めていた。


「太陽、落ちちゃうね」

「ディズニーは夜が本番みたいなイメージがあるんだけど」

「そうなんだけどさ、夕暮れはどうしても淋しい気持ちになるの」


 その気持ちが、どこかわかるような気がした。


 橙に染まった空を眺めていると、どこかセンチメンタルな気分になる。


「俺は、そんな気分も結構好きだな」

「私も、日向くんのおかげで好きになってきたよ」


 そんな翠の横顔をちらりと見て、翠がこちらを向くのを確認すると目を逸らす。


 そんなことを繰り返す自分がいることに気づいて、改めて俺は翠に恋をしているんだと実感する。


 視線を感じて翠の方を向けば、翠はそこで顔を逸らしていた。


 俺と同じようなことをしていたのかもしれない。


 二人で隣に座って時間を過ごしているうちに、太陽はすっかり落ちて、夕というより夜の様相を醸し出していた。


 流れてくるアナウンスの概要も理解できないほど、熱中して話し込んでいた。


 そこで、花火が上がった。


「今日、花火あるんだね」

「ほぼ毎日あるんじゃなかったかな」


 今なら花火を見ているだろうと考えて、翠の方を盗み見る。


 そこには、同じ考えでこちらを見たのか、真正面を向いた翠の姿があった。


「……なにやってんの」

「日向くん、今なら花火見てるかと思ったんだけどなあ」

「俺と同じこと考えてるじゃねえか」

「……ふーん」


 翠は顔を赤くして逸らした。


 普段ではこんな翠の姿を見ることなど叶わないので、どこか新鮮な気持ちになると同時に、とくとくと心臓が早鐘を打つ。


 まったく、俺はなんてわかりやすい人間なんだ。


 俺は自分の呆れて空を見上げた。


 俺にはよくわからない建造物が突き刺した漆黒の空は、無数の大輪の花によって彩られていた。


 光と音が世界を覆った。


「……綺麗」


 そうつぶやいたのは、俺だったのか、それとも翠だったのだろうか。


 俺が花火を綺麗だと思っていたのは事実であり、翠もきっとそうだったように思える。


 どちらがつぶやいたのか確認を取るすべはない。


 小さな声は花火にかき消されて、それでも俺の耳には届いて、翠の耳にも届いたから。


「……綺麗」


 そうつぶやいたのも、俺だったか翠だったかわからなかったけれど、二人とも綺麗だと思っていたのは確かだ。


 ディズニーランドという施設は、あまりにも幻惑的で非現実的で、その中に混じった幻想があまりにもデートに向きすぎている。


 俺は終始、翠にドキドキするばかりだった――

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