南野翠と影山日向のディズニーランド回り方論

 ディズニーという場所は非常に面倒くさい。


 所在地は千葉県浦安市舞浜1−1(出典:Google)。


 東京を名乗っているくせに千葉にあるところとか、カップルしか来ないところとかどことなく気に食わない。


 とはいえここは俺の中では世界最高のデートスポット(脳死選択)という扱いになっており、デートで来る分には最高だと評価できる。


 そもそもデートで行くのであればカップルに嫉妬心を抱くこともなく、東京を名乗っているくせに千葉にあるとかはもともとどうでもいい。


「五時半に学校前集合……」


 俺は驚くほど朝が弱いというのは翠にも伝えているはずなので、もう少し集合時間を遅くしておいてもらいたかった。


 そもそも休日だというのに学校前集合とはこれ如何に、もっといい集合場所はなかったのか。


 文句ばかり言っていても一緒にディズニーに向かう相手が翠だと思うとわくわくせざるを得ない。


 そんな中、遠方からはしゃぎまわりながらこちらへやってくる翠の姿が視界の端っこに映った。


「日向くん! 朝は起きれた?」

「お母さんに頼んでギリ」


 先述した通り、俺は非常に朝が弱い。


 具体的には起きてから十五分は絶対に動けず、冬ならそれが三十分程度続くこともある。原因は知らない。


 低血圧か何かだろうかとも思うが、血圧が低いと朝が弱くなるという科学的根拠は存在しないという話をどこかで聞いたことがある。


「やっぱ一人じゃ起きられなかったんだね!」

「余計な言葉だな」


 三カ月という、学校行事ですらそこまで費やさないであろう長い長い期間を費やしたこの一大行事、寝坊しかけてぞっとした。


 やはりディズニーやら集合時間やら集合場所やらにいろいろ文句は言ってみたものの、翠とのディズニーは結構楽しみにしていたのだ。


「じゃあ、どこに行く予定なの?」


 合流して早々、翠は今日の予定を俺に尋ねた。


 もしかしたら、俺にリードを任せると言いつつも翠がほとんど案内してくれるのかもしれないと期待していたが、そんなことはないようだ。


 俺はおとなしく、計画した内容を翠に話して、その中から特に行きたい場所を言ってもらうことにした。


 すると翠は、


「全部行こうよ! 今日は丸一日ここにいれるから!」

「まったく、翠と過ごしていると疲れるな」

「でも、楽しいでしょ」

「ああ、もちろん」


 どこか振り回されているような感覚を持ちながらも、充実したとても楽しい時間だというような感覚も感じる。


 人はこういう感覚を俗に『恋』だとか『幸せ』だというふうに呼んでいるのだろうか、と詩人的な考えが頭をよぎる。


「それじゃあ適当な順番に回って行こうか!」

「近い順だと駄目なのか?」

「やっぱりその時々の気分って重視したいからさ。別に近い順だからって不都合があるわけではないんだけど。一応、全力で楽しむためにほぼ全部のアトラクション調べてきたんだよ」


 感覚的な楽しみ方だ、と思った。


 しかし、血眼になって効率のいいまわり方を調べまわって、予定厳守でぎちぎちとしたディズニーが楽しいかといえば、少なくとも俺はそうではない。


 というかほぼ全部のアトラクションを調べているともいうし、感覚にすべて頼っているわけではない、本当に楽しむための下調べだけしてきたといった具合だ。


 楽しむためだけにまっすぐ全力を尽くすのは正しいことであり、最近の人が忘れがちなことだと思う。


 一部の現代人の、計画性抜群の楽しみ方もいいが、俺としては翠のこれが、ディズニーの理想的な楽しみ方なのかもしれないと思う。


「とりあえずはカヌー行こうか、体力使いそうだから、元気なうちにやっとこ!」

「やっぱり全部行く予定?」

「もちろん、並ぶところも並ぶし!」


 あまりディズニーで並びたくないという一心でマイナーそうなアトラクションを検索したのだが、逆に並ぶということはそれだけ人気。


 人気があるということは、その分大衆から見た質も高いアトラクションだということになるのだろう。


 であれば、並ぶ時間すらもアトラクションの価値へと昇華される。


 つまり待ち時間でさえもアトラクションの立派な構成要素であり、待ち時間があるからアトラクションが引き立つのだろう。


 あれ、俺何言ってんの?


「ま、俺はあんまり並びたくないけどな」

「じゃあ並ぶアトラクションは最低限にしよっか。楽しくない人がいるとよくないからね!」


 翠はまっすぐな性格をして好感が持てるなあと、心の中でおっさんのような俺が現れた。


 翠とどうでもいいような話をしながら馬鹿が作ったのかと思うほど広いディズニーを歩き回っていると、カヌーやってそうな雰囲気のあるところへ到着した。


「男女で船といえばやっぱりキスが定番だけど、カヌーだからそんな余裕なさそうだよね」

「武闘派カヌーだから、無理だね」


 ディズニーランドには自分で漕がなくてもいい船もあることにはあるが、カヌーの方が俺と翠には合っているように思った。


 翠もそう思っていたのかもしれない、


「私たちはそれが向いてると思う」

「俺もそう思ったからこれにしたんだよね、よっし運動神経は悪いけど頑張るぞ」




 およそ十分後、俺たちはアトラクションの出口からほど近い場所で力尽きていた。


「本気でやったのは良いけど、ちょっとやりすぎたかもな」

「うん、これ以降の活動に支障が出そうなレベルだよ」


 俺が立てた計画の中だけでもこの後三か所は回る予定になっていて、翠の行きたいアトラクションを含めるとさすがにこのペースはきつい。


 さんざん並びたくないと言っておきながら言い出すのは少し申し訳ないと思ったが、緊急事態なので仕方がない。


「とりあえず、今はアトラクションいっぱい回るよりもアトラクションに並んで休憩したいっていう感じ」

「私も提案しようと思ってた……」


 実際にディズニーランドを回ってみて、やっぱりディズニーランドの回り方に正解なんて存在しないんだなあと思った(小並感)。

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