第二章 体育祭
秋という季節があまりにも多忙すぎる
この高校において、秋という季節は過去に類を見ないほどの多忙を極める季節になっている。
この高校での秋は、体育祭、文化祭、二年生の修学旅行、部活動の大きな大会、合唱祭と、無限の行事が詰められている。
そもそも常識と照らし合わせれば体育祭と文化祭が同じ季節に開催されるということは普通あり得ない。
春か秋くらいの季節に体育祭を実行し、夏か秋くらいの季節に文化祭を実行する。二つの行事の時期が被ることはないように設定すべきだろう。
「日向くん! 体育祭の組、同じだったね」
俺のクラスでは担任の職務怠慢の影響か、まだ体育祭の組み分けが発表されていないのだが、翠のクラスでは発表されたらしい。
「そうなのか。何組?」
この高校での体育祭は、赤組対白組の対抗戦に近い形式で行われる。そのため、敵対する組の生徒とは体育祭の期間中ギスギスすることが多い。
そんなふうに先輩が言っていたと天野が言っていた。
「あれ、見てないの? 赤組だよ」
「担任がサボったんだろうね」
うちの担任は、よく仕事をサボったりやり忘れたりしているということである意味有名だった。
「じゃあ、応援団員募集とかもまだ見てないの?」
「ああ、まだ見てない。募集要項とか覚えてる?」
体育祭実行委員とは、陽キャにとって非常にかかわりの深いものである。
そもそも元来、体育祭という行事が陽キャによる陽キャのための陽キャだけの行事みたいな側面がある。
陽キャが集まる行事である体育祭、その実行委員ともなれば、陽キャの総括といっても過言ではない。
「えっと、やる気がある人なら誰でもいい、みたいな。あとは学年選挙を体育館でやるんだって」
「ありがと」
つまり学年の生徒に選ばれるということになっている。ということは、体育祭までに応援団員になるのに十分な知名度とイメージを築くことが重要だ。
「あと体育祭の後の文化祭の話もしてたよ、クラス別の出し物とか、部活ごとの出し物とか」
「もう文化祭も始まる時期なのか。でも、とりあえず先に体育祭の準備だな、しばらくバイト休みたいかも」
「私も文化祭前は休む予定だけど、体育祭はまあ休まなくていいかな……」
俺は陽キャと少しでも近づくためにどちらかといえば体育祭に力を入れる構えだったが、翠は文化祭を重視するようだ。
確か翠は、陽キャを目指しているくせに帰宅部の俺とは違って、どこかしらの文化部に所属していた。
「翠って何部だっけ」
「現代視覚文化研究部」
なんだよそれ。
現代の視覚の文化ってことは映像作品……? いや、それなら現代視聴覚文化研究部になるか。
「何それ」
「一言でいうならサブカル部」
「最初からそう言ってくれ」
「学校説明会で言ってたから知ってるかと思って」
「ごめん」
完全に俺が悪いじゃん。
「天野、体育祭の応援団やるの?」
恐らく体育祭の応援団員募集が告知されたからだろう、学年中、いや学校中がその話題で溢れていた。
まだ練習すらも始まっていないのに広がる体育祭ムードの中、古月と俺と複数人の陽キャが、天野に体育祭の応援団をやるか尋ねた。
古月と俺、そして他の陽キャのうちの数名はもうすでにそれぞれの担任に参加表明をしていて、選挙に出ることは確定している。
「応援団はやる予定だな、日向たちと応援団やるの楽しそうだし」
「太陽との応援団俺もやりたかったわ」
「いや、天野も俺も他の皆もまだ当選が確定したわけじゃないからな?」
「っていうか日向は運動超苦手だから落ちそう」
とはいっても、天野は学年一の陽キャである以上学年からの支持は厚く、当選は確定といってももはや過言ではないように思える。
あ、俺は落ちそうです。
ちなみに俺と天野は翠と同じ赤組で、古月とついでに佐藤は残念なことに俺たちとは敵対チームにあたる白組になってしまった。
もし応援団員になったとしたら、古月からの印象が下がる可能性はぬぐいきれないだろうが、それ以上に天野からの印象アップがでかすぎる。
「ま、いくら明と一でも敵対した以上は本気でやりあうからな」
「太陽は味方にすると頼りになるけど敵にすると怖いなあ」
「俺は天野と味方だから関係ないな」
「そうだ太陽、体育祭の打ち上げどうしよう、誰誘おうかな」
体育祭についての話の中、陽キャのうちの一人が切り出した。
陽キャは本当に打ち上げが大好きで大好きでたまらないようで、俺が参加したものでいえば、第一回定期テストの打ち上げなんていうこともやっていた。
冷静に考えて一緒にテスト勉強をしたというわけでも成績が特別良いというわけでもないのになぜ打ち上げをするのか分からない。
今回の件についても、体育祭が終わるどころかまだ練習の始まっていないうちに切り上げたあたり、相当気が逸っていると見える。
そういえば第一回定期テスト打ち上げとかいうふざけた行事の言い出しっぺとなったのも今発言した陽キャと同一人物だった気がする。
「湊、それはさすがに焦りすぎでしょ」
天野が下の名前で突っ込んだことでフルネームが思い出された。
そうだ、彼の名前は
「秋なら体育祭終わってすぐに文化祭もあるからさ、体育祭と文化祭の打ち上げをくっつけて豪華な奴にしたらいいんじゃね?」
陽キャならノリに乗っておくということも大事だが、天野がどちらかといえば反対寄りの立場だったのでそちらに乗っておく。
「日向、それいいね。豪華な打ち上げ、何にしようか」
陽キャの神様が褒めてくださった。
これも、この学校のあまりにも多忙すぎる秋という季節と、それを思い出させてくれた翠のおかげだろう、感謝。
「皆で回らない寿司でも行くか?」
「豪華すぎだろ」
「でもサイゼとかマックとかだとあまりにもチープっていうか豪華感が足りなくない?」
「言えてる」
「馬鹿高いスタバとかどうよ」
「飯ないじゃん」
「焼肉とかしゃぶしゃぶとか?」
「いいねえ!」
ということで、体育祭は未だ始まってすらいないというのに打ち上げは焼肉かしゃぶしゃぶに行くことが決定したらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます