リレーは最大のボルテージで、発表は最大のプレッシャーで

 白組一軍が早くも第三走者にバトンを渡していた。


 第三走者は、白組の中では一年でいえばアンカーにあたる。


 今年は赤組一軍リレー選手は一年生が豊作かつ二年生が不作だったようで、一年生はなんと四名も在籍している。


 第一走者打上、第二走者は知らない人で、今第二走者からバトンを受け取り走り出したのは――


「太陽、行け!!!」

「天野くん頑張って!!!」


 俺や翠、その他の応援団員たちの絶叫を引き裂くように、太陽があっという間に白組一軍の第三走者を抜かし、ぐんぐんと差をつけていく。


 翠の声を受けて太陽はさらに大きく加速する。


 古月に置いて行かれた赤組第二走者のように、白組第三走者は太陽に置いて行かれ、引き離されていく。


 見る見る間にバトンゾーンは近づいてきて、百メートルを一瞬で駆け抜け、次に立っている悪原にバトンをパスすると、悪原は天野の最高速以上の速さで走り始めた。


「悪原くん、頑張れ!!!」


 翠の声援を受けて、何か恐怖に追われた動物たちかのように焦りを露わにして圧倒的な加速を始めた。


「悪原、頼んだ!!!」


 たった一人だけの二年生に、悪原が正確にバトンをパスした。


「「先輩!!!」」


 二年生は悪原ほどは速くなかったが、太陽を超える勢いで走ると、まだバトンをパスできていない白組一軍の第三走者との差を半周以上に広げた。


 そして次にバトンを受け取った赤組一軍の選手である三年生の先輩は、体操服の名札を見ると三年八組に在籍していることが分かった。


 また三年八組かよ、と思う気持ちもあれば、三年八組ならやってくれるだろうという期待の気持ちもある。


 三年生で、それも奇跡の三年八組だが、太陽や先の二年生こそ超える速さではあったものの、悪原以上のスピードで走ることはできなかった。


 そこで白組一軍の二年にもとんでもない実力者がいたのか、三年八組の先輩と白組一軍の第五走者との距離は徐々に縮まっていく。


 次の生徒も三年八組の生徒で、それ以外の残り二人の赤組一軍走者も双方三年八組の生徒だった。バトンが繋がれる。


 白組一軍も第六走者から三年生に突入して、リレー戦もクライマックスとなり、もはや俺も応援の声が聞こえる中で応援を諦めてリレーの様子を見守り始めた。


 そんなタイミングで、赤組二軍の第六走者が白組一軍の第六走者へ縋りつく。


「マジか!? 頑張ってください先輩!!!」


 その様子に、思わず声を上げることとなった。


 白組一軍の第六走者も三年八組の生徒だったから、三年八組どうしの戦いが続くなかで、さらにバトンが第七走者へ繋がれた。


 もはや彼らの速さは悪原を超えていた。


 そもそも三年と張り合える悪原がおかしくて、俺だったらこの場の誰よりも遅いのだから、悪原はすごい。


 そう言っているうちに、赤組一軍の第七走者は白組一軍の第七走者に追い付かれていしまっていた。


 俺はさすがに走れないので文句は言わないし言えない。


「頑張れ!!!!!!」


 圧巻の光景と白熱した戦いの様子を見た俺は、その言葉以外叫ぶことが出来なかった。


 赤組一軍の第七走者が走る、走る。白組一軍の第七走者もそれを抜かそうと走るが、赤組一軍の第七走者が粘り、並んだ状態で次へバトンを繋げた。


 バトンパスは、ほぼ同時。


 されどそれ以降の動作には天と地ほどの違いがあった。


「——陽太先輩!!!」


 まさに俊足。


 三年八組でも主要級の人物というだけあって、その運動能力も群を抜いたものだった。


 太陽も十分速い走りを披露してくれたが、陽太先輩の走りはその比ではなかった。


 やっぱり陽太先輩が人気なのは、太陽のおかげっていうわけでもないじゃん、ついそうつぶやいてしまいそうだった。


 それに必死に追いすがる白組一軍アンカーと、気づけば彼に追い付いていた赤組二軍アンカーが並ぶ。


 白組二軍アンカーも常に三位を狙える位置にいたが、終ぞその足が赤組二軍アンカーを捉えることはなく――


「一位赤組一軍、二位赤組二軍、か。」


 終わってみれば、男子リレーは赤組の圧勝だった。


「おっしゃあ!!」


 男子リレーで赤組の順位が確定した瞬間、赤組のほぼ全員が雄叫びを上げたかのように聞こえた。


 喜びを共有するにはそれだけで十分だった。


「天野先輩、お疲れ様です!」

「翠ちゃん。ありがと!」

「陽太先輩、格好良かったです」

「俺は疲れたよ!」


 女子リレーは勉強も運動もできる可憐な少女である月渚先輩がすべてを支配し、ゴールしたのは白組一軍白組二軍赤組一軍赤組二軍という順だった。


 男子リレーと赤組白組だけを交換したかのような既視感のある結果。


 結局その影響で、得点は互いに打ち消され、この運動会の勝敗を決めるのは他の競技の合計点ということになる。


「次が最後の競技ですね。騎馬戦!」

「また俺の出番かよ!」


 陽太先輩は疲れを認めながらも、俺が全騎馬倒してやる、と勇んで会場へ入場した行った。


 結果、陽太先輩の騎馬が白組の護衛騎馬をすべて倒したのちに大将騎との一騎打ちで見事に勝利し、騎馬戦のポイントは赤組へすべて入った。




『それでは皆さん静粛に。閉会式を始める』


 武田先輩の合図で、体育祭実行委員の一人が前に出て開会の言葉を告げて、閉会式が始まった。


 皆真剣に校長先生の話やら実行委員長の話やらを聞いているように見えて、得点ばかり気にするような会話をしていた。


 かくいう俺も、赤組が勝ったのか、それとも白組が勝ったのかということばかり気にしていた。


 赤組が勝とうがそれとも負けようが、存分に体育祭を満喫できたことに間違いはないが、とはいえ勝敗も、青春真っ只中の高校生にとっては大事なものだった。


『皆さんそわそわしているようなので、校長先生と私の話が終わったため、得点発表を行う!』


 本来はその間にもっと多くのプログラムがあったはずだが、武田先輩の計らいか、結果発表が先にやってきた。


 全校生徒が唾を呑んだかのような緊張感が、応援団員が座る、列の一番前まで迸った。


『では、発表を行うので……全校、後ろを向くように』

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