第231回異世界転生者ドラフト会議

嬉野K

第一巡目希望転生者【ラビア】

「ヤヌアリース、第一巡目希望転生者【ラビア】」


 静寂に包まれた会場。その場にコールが響き渡った瞬間、会場は一瞬ざわついた。


「やはりか……」「ヤヌアリースはラビア……当然の選択だろう」「ヤヌアリースほど戦力を有していれば、奇をてらう必要はない」「王道に戦力を増加してきたな……」


 確かにヤヌアリースは強力なライバルだ。しかし問題はない。我々の戦略的に……


「あのー……」隣に座る後輩女子がオドオドと、「……何やってるんですかこれ……」

「え……ああ……そうか。キミは昨日、この世界に転生してきたばかりだったな」


 説明不足だった、と思いつつ、僕は後輩に現状の説明を始める。


「簡単に言うと、僕たちは異世界転生を管理している者たちだ」

「管理、ですか?」

「ああ。たとえば今回の転生者ラビアは【チートスキル】を持った転生者なんだ」

「チートスキル……」

「そう。ラビアのスキルは【成長率】というものだ。要するに、成長が異常に早い。そのことから、王道の主人公路線を期待されている」

「はぁ……わかったようなわからないような……」後輩女子は首を傾げて、「目的はなんですか?」

「目的?」

「はい。ドラフトをしてるってことは、強い転生者を世界に入れる必要があるんですよね。なんのためにそんなことを?」

「出版社の売上に貢献するためだ」

「しゅ……出版社?」


 そんなに驚くことじゃないだろうに。


「ドラフトによって転生者を獲得し、世界を作り上げる。それらの世界は小説になったり、アニメになったりするんだ」

「そ、そんな仕組みだったんですか?」

「ああ。アニメ化された大人気小説の舞台も……こうやってドラフトで作り上げたんだ」

「へ、へぇ……そんな舞台裏があったんですね……」


 少しずつ後輩も、この仕事に興味が湧いてきたようだった。

 彼女は手元のプリントを見て、


「うちは誰を狙ってるんですか?」

「悪役令嬢カルミア・ラティフォリアだ」

「悪役令嬢……?」彼女はもう一度プリントを見て、「でも、すでにうちの世界には悪役令嬢が6人もいますけど……」

「そうだ。だからこそ7人目なんだ」



 彼女が首を傾げたので、説明を続ける。


「うちが狙っているのは……悪役令嬢7人の世界。その悪役令嬢たちの間に、主人公が現れるんだ」

「なるほど……女の闘いっすね」

「そうだ。タイトルは……『エイト・クイーン』とでも言おうか」


 8人の姫による争い。


「ジャンルは……ファンタジーですか?」

「そうだな……想定では乙女ゲームだ。乙女ゲームの場合、切り札があるからな」

「切り札?」

「ああ……もしも受けが悪かった場合、。そうすればネットで流行りの悪役令嬢物に早変わりだ」


 乙女ゲームの世界を作るのは一石二鳥なのだ。


 まずはエイト・クイーンの世界を作り上げ、評判を伺う。そして、評判が悪ければ悪役令嬢たちの記憶を戻せばいい。


 一粒で二度美味しい。


 しかし、まだ問題もある。


「主人公役のドラフトに失敗していてね……少々キャラクターが弱いんだ……モブっぽいというか……」

「致命傷じゃないですか……」

「ああ……それに、男性役はこれから獲得する予定なんだが……あまりフロントが乗り気ではなくてね……」

「ふ、フロント……?」

「うちの世界の神様だよ。神様は無類の女好きだから、あまり男の獲得には乗り気じゃないんだ」

「だ、男性がいない乙女ゲームになるんですか? それって……」


 乙女ゲームとして成立しない。たしかに、その懸念はある。


「ああ……だが、同時に神様は百合が好きだ。このままだと……8人のお姫様たちによる百合ゲーになるんじゃないか」


 異性がいなくても恋愛はできる。多様性ってやつだ。


「もちろん第2希望で男性役を指名するつもりだが……競合した場合はクジ次第だからな。運にすべてが委ねられる」

「運ですか……それは私、結構自信ありますよ」

「本当か?」だとするならば、ありがたい。「今まで競合した場合のクジ引きで負け続けてるからな……今回はキミにお願いしようか」

「任せてください」彼女は本当に運に自身があるらしく、やる気満々だった。「必ずや……当たりを引いてみせます!」


 別にそこまで気合を入れなくても……どうせ運なのだから、気合なんて必要ないだろうに……


 なんにせよ、期待の新人も現れた。これからもドラフトによって良い世界を作り上げよう。


 ……

 

 それはそうと……


 悪役令嬢7人は多すぎたかなぁ……

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