#13 護衛開始

依頼人が来て1日後。

「ちょっと今回の任務は危ないよなぁ」ラックがつぶやく。

俺達は事務所の奥の部屋、ラックが言うには「指令室」で少し会議っぽいものをしていた。

「何言ってんだ?お前は室内だろ?嫌味か?」俺は文句を飛ばす。

「いや、そうじゃねぇんだ。お前らが危ないってこと」

「そりゃそうでしょ。警察一人死んでるのよ?」

「まぁ、警察が弱かったってだけかも知れねぇけど」

「それならいいんだけど…」ネイジーは不安げだ。

するとラックは、パソコンの前まで手招きしてきた。

とある映像を開く。

「実はね、あの美術館の監視カメラのデータをハッキングしたんだ」 

お前いつの間にそんなことできるようになってたん。

「でさ」俺が心の中で思った疑問もお構い無しに、ラックが続ける。

「監視カメラに写ってる映像を確認してたんだけど、ちょっとおかしな点があってさ…」

監視カメラの映像が映される。

「なになに?」ネイジーがモニターに顔を近づける。

ラックの方も画面に食い気味だ。それを見かねて、

「画面から離れて部屋を明るくするんだッ!」俺がそう叫ぶ。

「うるせぇよ…部屋は明るいし、画面から20cm離れてる」

近すぎだろ。

まぁいいや。

「で…僕が気になったのはここ」

突然、画面を一時停止する。

止めたタイミングは、誰かが美術館の奥、おそらく絵画などが入った倉庫に入るところだ。

強盗たちからしたら、あそこは宝物庫なんだろうな… 

「誰かが入っていくな」

「うんうん。…でも、依頼人とは違うね」

「そうだな、あの依頼人は一人で美術館を回してるって言ってた」

「そこが問題なんだ。しかもこの時間帯…」

ラックが画面を切り替える。入り口の監視カメラのようだ。

「人が来てる時間なんだよ。それも、特に人が多い昼過ぎ」

「待って。そんなことしちゃったら、バレるくない?」ネイジーが、俺が今思ったことと同じ疑問を口にする。 

「そ。そこがおかしいんだよ。しかも…」

再びさっきの画面に戻し、倉庫に入っていく謎の人物が手に持っているもの、つまりキーカードをアップにする。

「この倉庫、キーカードがないと入れない仕様なんだ、多分。ハッキングとかとかの例外はあるかもだけど、キーカードは管理者1名のみしか入れないはずなんだ。それに…」

アップにしたキーカードの部分の画質をきれいにする。

すると…

「顔写真が貼ってあるな…あっ!?」

「気づいた?ソラ。この顔写真、依頼人じゃなくて、別の人の顔写真なんだ。結構高齢なおばあさんのね」

「どういうことなの…?」ネイジーはすっかりお手上げのようだ。

「さぁ。僕にもさっぱり」

「もしかしたら、あの依頼人はそのおばあさんを継いで美術館で館長をしてるのかもだけどな…」俺は考えていたことを口にした。

「ソラはそう思うんだ」

「まぁな、正直それしか考えられない」

それ以外に、一体何があるんだろう?

少し考えてみるが、今のところはそれ以外に浮かばなかった。

「取り敢えず、今回の依頼は気をつけよう。銀行強盗のときはある程度何があるか予想できたからなんとかなったけど、今回はそうは行かない。何があるかわからない」

俺とネイジーが顔を見合わせる。そして、互いに頷く。

「ソラ、ネイジー、まずは今回の依頼のことについて説明しておく」

モニターに映る映像が、美術館内のマップに変わる。

「あの美術館は2階建て。1階は主に絵画とかが多くて見通しがいい。ここの管轄はネイジーだ。配置は一番奥。絵画を能力でぶっ飛ばしさえしなければ、おそらく事故らないはず…それに空間が直線的だから、撃ちやすいはず」

「わかった」ネイジーが頷く。

「ソラの管轄は2階。こっちは彫刻とかが多くて、あんまりネイジーの光球を乱射できない。だから何かあったらソラが頼む。配置はここ。中央あたり」

「いや、ここだと見づらくないか?階段あたりのほうが良くないか?」

考えたくもないが、ネイジーがもし突破された場合、階段のほうが戦いやすいはずだ。なのに、どうして中央?

「ここ見てくれる?」中央をアップにする。

周りには彫刻など立体作品が並んでおり、かなり見通しは悪い。

「この上、通風管エアダクトがあるんだ。だから、誰かしら入ってこれる。実は入り口よりも警戒するべきは、こっちなんだ」

「おう」

「僕はまたあのドローンで、周囲を飛び回ってみてまわるから。何かあったらすぐに連絡する」

「おう、頼む」

「あとは外に池があったりとか、まぁ設備があったりとかはあるけど…」

ラックがPCを確認する。

あっ、という表情でこちらを見る。



「急いで。そろそろ出発時間だ。護衛開始だよ」


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